その後の「日暮村」はどうなった?=矢口高雄「新・おらが村」

2020年2月23日日曜日

矢口高雄

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 昭和30年代の高度経済成長時代へ移行していく頃の秋田県の農山村の姿を描いたのが「おらが村」であったのだが、その続編的な位置づけとなるのが、この「新・おらが村」である。設定的には「おらが村」で舞台となった秋田県の農村・日暮村に、その村出身のシングルファーザー(当時は離婚がまだ一般的でなかったせいか、妻とは死別したという設定ですね。)・杉村良平が息子・太平と娘・ミズナとUターンして農業生活と農村の出来事が描かれていくもので、登場人物は、主人公一家とは別に「おらが村」で登場した高村政太郎、政信、そしてかつみという親子がメインキャストとなるのだが、時代的には昭和の終わりから平成のはじめにかけて、という感じなので、「おらが村」の純粋な続きというわけではないだろう。


【構成と注目ポイント】


第1巻の構成は


 第1話 痩せ馬

 第2話 吹雪

 第3話 固雪①②

 第4話 日暮れカブ

 第5話 最後の3株①②

 第6話 眠られぬ夜①②

 第7話 採種

 第8話 二百十日

 第9話 楽しむ百姓


となっていて、Uターン農家の杉村良平の息子・太平と娘・ミズナが近所に正月の「お年玉」をもらいに出かけるシーンから始まる。

こうしたお隣さんにお年玉をもらう、という風習は現在では全く見なくなってしまったように思えるのだがどうだろうか。もっとも、「固雪」のところででてくる、田に夏草を貯めて発酵させておいた堆肥をすき込むことよりは廃れていないかもしれないが・・。


そして、このへんは良平や政信たちが、「村おこし」のために、この地域で古くから栽培されていたが今は廃れてしまった蕪「日暮れ蕪」の復活を目指して奮闘するシーンがでてくるのだが、そこらは今の「地方創生」よりもっと素朴な「特産品づくり」の段階であるのがなんとも懐かしい。


第2巻は


 第10話 花嫁来る

 第11話 「永遠の愛」

 第12話 おふくろの味

 第13話 試食会

 第14話 インタビュー

 第15話 借り入れ申し込み

 第16話 耕うん機犯人説

 第17話 迎火

 第18話 とんだ三枚目

 第19話 ユイ

 第20話 首都進出

 第21話 バラの手入れ


という構成で、この巻の中心的話題はやはり、農村の嫁不足問題であろう。この問題はすでに「おらが村」のときから提示されていたのだが、この新シリーズでは、解消策としての「フィリピン花嫁」に焦点があたり、この日暮村にも、フィリピンからお嫁さんがやってきての、様々な出来事が描かれている。


もちろん、周囲の偏見やホームシックとかいろいろマイナスなところも書き込んであるのだが、本シリーズでは、なんとか地域にもなじんだところをみせていて、現実世界の話とはちょっと違ってホッとするところである。


そして、第2巻では第1巻で絶滅しかけていた日暮れ蕪が無事復活し、収穫の時を迎えます。これを使って作るのが、高山家のおばさんが腕を振るった「漬物」です。これが地元の小学校で教頭先生をしていた長老の評価では「ほどよい水分でサクッとする歯ざわり」の絶品だそうであります。これを使って、良平たちは村おこしをしようと意気込むのですが、なかなか農協とかの対応も厳しく融資も渋られるのですが、かえってこれに発奮し、東京のスーパーでの販売を計画し・・というところで、昔の「一村一品」時代の高揚した雰囲気が味わえます。思えば地域おこしもあの頃が一番夢があったのかもしれません。


第3巻は


 第22話 二卵性双生児

 第23話 命名の儀

 第24話 カジカ突き①~③

 第25話 自然界の一員

 第26話 山のかなたの空の下

 第27話 キクのアップから

 第29話 有害鳥獣駆除

 第30話 激突

 第31話 一件落着


という構成で、ここでクローズアップされるのは、環境問題と有害鳥獣の話。環境問題の方は、農薬散布によってカジカの姿が見えなくなったこと。

地元で農業をする政信と、都会で暮らしている高山家の三男坊が激しい喧嘩をするところに、当時の農村部と都市部の対立、それはどちらかというと都市部住民の農家への避難という形で現実化したのだが、それを象徴した展開となっている。もっとも、もっと山奥のダム湖のところでカジカが大量に発見されるというオチをつけているのが、作者が農村に夢をまだ抱いている証であるような気がいたします。


そして、物語の後半のほうでは、里の作物の味を覚えてしまった「ツキノワグマ」が出没します。ツキノワグマは北海道のヒグマに比べると凶暴さは少ないのですが危険なことには間違いなく、村の漁師たちが集まって駆除に取り組むこととなります。


考えてみれば、昭和の終わりごろ、今のようにイノシシやシカが村里に頻繁に出没してくる状況は全く想像できなかった、と思います。そも意味でも、山村の変わりようは激しいというべきでしょうか。


第4巻は


 第32話 家族①~⑤

 第33話 そして家族・だんらん

 第34話 杉村邸新築の記録

 第35話 あと一か月

 第36話 無人ヘリ飛来

 第37話 遊び感覚

 際38話 日本農業の明日

 あきたこまち物語


という構成になっていて、この巻では、子どもたちに内緒で町で息抜きをしていた良平・かつみ夫妻の留守に、火の不始末から自宅が全焼するという事件がおきます。

考えてみれば、昭和の終わりごろ、今のようにイノシシやシカが村里に頻繁に出没してくる状況は全く想像できなかった、と思います。そも意味でも、山村の変わりようは激しいというべきでしょうか。


これをめぐって、良平やかつみが親としての自信を無くする場面もあるのですが、災い転じて、この豪雪地帯にマッチした新形式の住宅を建てることになるのが、このシリーズのほんわかしたところで、当方はこの緩さが好きですね。


そして後半部分では、農業用の小型ヘリでプロ級の腕前を持つ、この村出身の若者がUターンしてきます。このヘリがどこまで農作業につかえるかどうかは別として、太平が大きくなったら農家を継ぐと宣言したりして、後継ぎ養成の効果はあったということですね。


最後の「あきたこまち」は、秋田が誇る有名なコメ品種である、「あきたこまち」の誕生話です。若干、秋田の農協さんのPR記事っぽいところはあるのですが、米の新品種の誕生話はほかではあまりみかけない変わり種ですので、自然派の方は読んでおかれてはどうでしょうか。


【レビュアーからひと言】


「おらが村」「新 おらが村」と読み続けてみると、その後の「農村」においても、後継者不足や嫁不足の問題はまだまだ解決していない上に、地方都市も含めて「地方」そのものが疲弊してきている状況が進んでいることを実感します。

 救いとなるのは、各地で特産品づくりに取り組んで、「農業」で食っていこうという若者たちがあちこちで出てきていることでしょうか。「農は万業の大本なり」という言葉もあるそうですが、実際のところと比べてどうなんでしょうか・・・。



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