シェイクスピアの苦い「黒歴史」 ー 「七人のシェイクスピア(Part1) 5・6」(ヤングマガジンコミックス)

2020年5月31日日曜日

7人のシェイクスピア

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 大英帝国が絶頂を迎えたエリザベス一世の時代に、イギリス・ルネッサンスの本場ロンドンで、劇作家として世に出現。以後、演劇の世界に大きな影響を及ぼし続けている「シェイクスピア」の半生記と彼の創作の秘密を描く「七人のシェイクスピア」Part2のビフォーストーリーであるPart1の第5巻と第6巻。

前巻で、実家が父親がジェントリー階級へ成り上がるために金をつぎ込みすぎて没落したシェイクスピアと、従妹の自殺に衝撃をうけるワースの姿が描かれていたのですが、その後のシェイクスピアの突然と結婚と、二人のランカシャーへの脱出が描かれるのが第5巻と第6巻。


【構成と注目ポイント】


第5巻の構成は

第48話 手紙
第49話 護送
第50話 アン・ハサウェイ
第51話 幽霊
第52話 訪問者
第53話 スザンナ
第54話~第57話 鹿泥棒①~④

となっていて、前巻で、シェイクスピアたちの学校の教師として赴任してきて、クーム家の秘密のカトリック教会の秘密司祭となっている恩師のコタムが、政府の捕吏によって捕らえられ、ロンドン塔へ送られるところからスタート。


彼はそのまま拷問を受け、獄死することになるのですが、捕まった時に彼のもとへ投獄されている弟の手紙を運んできた人物とその手紙が届くよう配慮した人物が、Part2で意外な判明の仕方をするので、ここは記憶しておいてくださいね。

そして、シェイクスピアの人生の方では、良妻か悪妻か、仕組まれた罠だったのかどうか、議論の分かれる「アン・ハサウェイ」とシェイクスピアとの「結婚」です。この漫画の方では、男に騙されて妊娠した彼女が、未婚の母となるのを避けるため、弟の友人で、裕福そうな男を嵌めたということになっています。


これに対して、ハサウェイの父親は早逝しているので、その場合、兄弟の面倒をみるために結婚が遅くなることは当時よくあったことや、当時のイギリスでは婚前交渉や結婚前の妊娠はよくあったということ、ハサウェイ家が没落したシェイクスピア家に比べて裕福で、生活の面では、アンがシェイクスピアと結婚するメリットはなかった、といったところから、この結婚がけして祝福されないものではなかった、と主張する人もいるのですが、真相のところは果たしてどうでしょうか。

そして、もうひとつ、シェイクスピアたちの運命を変えるのが、「鹿泥棒疑惑」です。シェイクピアたちの住むストラトフォードより6キロ東にあるチャールコートの荘園領主で、ウォリクシャーの治安判事をしているサー・トマス・ルーシーの鹿の飼育地に泥棒が入り、鹿が2頭盗まれます。この鹿泥棒が単純ないたずらではなく、ルーシーに恨みをもつカトリックの仕業だと新教徒の司祭が彼に吹き込み、大掛かりな捜査が始まります。


時間が経っても、一向に犯人らしきものが見つからない(鹿の牧場の監視員が鹿を横流ししてたのですから見つからないはずですね)中で、いわば帳尻合わせ的に、シェイクピアたちが捕まり、留置場に入れられてしまうことになります。


続く、第6巻の構成は


第58話~第59話 鹿泥棒⑤⑥
第60話 誓い
第61話 満月の夜に
第62話~第65話 ランカシャー①~④
第66話 1588


となっていて、前巻で「鹿泥棒」の容疑で捕まったシェイクピアたちが、サー・トマス・ルーシーによる尋問をうけます(裏のほうで、ワースの父親が関係者にかなりにお金を渡していて、なんとか無罪放免にする話はつけているようなのでですが・・・)


シェイクスピアは、自分たちがちゃんとした人物であることを証明するため、ヨーマンの出身であることなどを言うのですが、サー・ルーシーによってごみくずのように見下されます。ここで、自分と自分の育ってきた環境の存在価値を「全否定」されたことが、「成り上がって」「自由を手に入れる」思いに火を点けて、シェイクスピアとワースはランカシャーへ向けて旅立つこととなります。


ここで二人の旅立ちへの家族の対応に際立った違いがでていますね。


16世紀当時、旅はそう快適なものではなく、雨風にうたれ、道に迷いながらランカシャーを目指す二人は汚れはて、宿屋にも泊めてもらえず、ろくに食事もとれない状態で進んでいきます。まあ、あわや「行き倒れ」に近い状態です。


途中、夜中に、寂れた教会で砕かれて埋められているステンドグラスを掘り起こしている司祭に出会うのですが、パンと人参スープの貧しいながらも温かい食事を御馳走してもらったりして、彼が命の救い主になります。


ただ、祭壇・聖像・ステンドグラスはカトリックの象徴として破壊・撤去されている時代だったので、プロテスタントである国教会の司祭がなぜステンドグラスを掘り返すのか、二人は不審を抱きます。まあ、シェイクスピアもワースも「隠れカトリック」であったので、そこは類は友を呼ぶ、といった具合だったのかもしれません、


この司祭が、のちに、シェイクスピア・チームの一員となるミル。当時はラドクリフ司祭という名前なのですが、博識で知られ、人柄のよく人望の厚い人物ですね。で彼の紹介でリヴァプールの塩商人のところへ世話になることなり、ワースは商売の腕を磨き、シェイクスピアのほうは商売のかたわら劇作を始める展開となってPart1の第一巻のところへつながっていくわけですね。


そして、教会で司祭をしていたラドクリフ司祭こと「ミル」が、なぜ、シェイクスピアたちと同居生活を営むことになったのか、は、この時代のイギリス特有の「カトリックとクリスチャンの対立抗争」が絡んでいるのですが、その詳細については、本書のほうで。


【レビュアーからひと言】

前巻で、ジェントリー階級を目指すシェイクスピアの父親が

その日暮らしの下層民衆なんかより全然えらいさ

選挙権だってあるし、土地も財産もある

という発言をするように、当時この「階級格差」というのは厳然たる事実として存在していたもので、シェイクスピアもそれなりの「誇り」を持っていたものと推測されます。

しかし貴族階級である「サー・ルーシー」は、「無駄な階級だ」と冷たく言い放ち、この世には、支配する者とされるもの、その二つだけあればよく、中間など何の価値もない、と言われるのですから、シェイクスピアが呆然とするのも無理はないでしょう。


この階級格差の問題は、イギリスに依然として残る事実なのですが、歴史的な根深さを感じますね。

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