プリニウスはパルティアへ、ネロは自滅まっしぐらーヤマザキマリ「プリニウス 10」(バンチコミックス)

2020年9月13日日曜日

プリニウス

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 古代ローマ時代の政治家で、天文、塵、動植物、鉱物、地理などなど当時の世界の情報を集めた「博物誌」をまとめた「プリニウス」とローマに放火して焼き尽くし、「暗君」の見本のように扱われている「ネロ」をメインキャストにした、古代ローマの「叙事詩的」物語である『ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス」(BUNCH COMICS)』シリーズの第10巻。


前巻で、父親と航海中に海賊に襲われてフェニキア人の「タニティア」を故郷へ送り届けたあとのプリニウスのシリア・パルティアへの旅と、ローマ市民に人気の高いコルブロ将軍を反乱を企んだ罪で自死させながら、コリントスで音楽家気取りで暮らしている、「ネロ」の自滅まっしぐらの最期へと繋がっていくので、「ローマ帝国」好きには見逃せないのが今巻です。


【構成と注目ポイント】


構成は


64.フワワ

65.ガルバ

66.オト

67.プリシラ

68.パルミュラ

69.アケロン

70.アルティフェクス


となっていて、プリニウスのほうはティルスから陸路でシリアへと向かうところから始まります。杉の大木やシリアとの境界となる山脈を越えるシーンがでてきるので、現在のレバノンあたりでしょうか。ここで、森林を過度に切り開いたために砂漠化したメソポタミアあたりの神話に根っこをもつ自然神「フワワ」の伝説をプリニウスたちは手に入れることができます。

ついでに、杉の樹脂を採取しようとするのを咎めた森の人々を、プリニウスが槍を投げて撃退します。「書斎の人」と思われがちなプリニウスですが、意外に武術のほうも相当なものであったようですね。


その後、プリニウス一行はシリア砂漠を越えて、オアシス都市・パルミュラへ到着します。パリュミュラはもともとローマとパルティアの間で、両方のとりもって繁栄した通商都市ですね。このため、ヨーロッパ、中央アジア、中国、インド、と様々な文化が融合した都市となっています。


この都市の国際性を象徴しているのが、母親の薬にするため陳皮の皮(みかんの皮)を盗んだ少年を、中国の商人が後日、みかんの商売を手伝うことを条件に許してやる、という場面です。

白黒をつけてしまわないのが、ごった煮のように多民族が集まって生活するオアシス国家の生活の智慧なんでありましょうか。


一方、ネロのほうはコリントスで芸術三昧なのですが、だんだんとローマの市民や元老院の貴族たちの不満の様子が届いてきます。


前巻では、ネロの黄金像を建てるなどして威勢のよかった皇帝青年隊も、ガリア総督・ウィンデクスの反乱や彼が推すヒスパニア総督・ガルバの帝位奪取の動きなどに動揺が隠せません。ここで注目すべきは、今までネロの政権を支えてきたティげリヌスがネロを見捨てて、政権転覆の動きへ味方を始めるところでしょう。本書では、ネロへ復讐をするためにあえてネロの手元に飛び込んで謀略を尽くす設定になってます。


当時のローマ皇帝は、専制君主というよりは人気商売のような色合いが強かったのでしょうか、民衆の不満が噴出し始めると、あっという間に、支持者や臣下たちが離れていくのですが、民衆の反乱の根本原因は、「パンの支給」が滞ったためで、やはり食糧政策はどこの国も基本中の基本のようですね。


そして、属州の総督たちが反乱を起こし始め、命も危なくなったネロはアレクサンドリアへの亡命を企むのですが、元老院の命令を受けた百人隊長たちに潜伏先を突き止められ、とうとう自害を迫られるのですが、その様子は錯乱したときのネロらしく・・・という展開です。帝政ローマを始めた初代アウグストゥスから百年間、皇帝位についていた名門ユリウス・クラウディウス家の最後を本書のほうでどうぞ。


※ネロの時代のローマ史を復習しておきたい人には『塩野七生「ローマ人の物語20 悪名高き皇帝たち(四)』がおすすめです。


【レビュアーから一言】


今巻では、若い頃ネロの親友であったオトが、ネロを裏切っていく様子も描かれているのですがあわせて、その遠因となったのは、ネロがオトの妻・ポッパエアを寝取ったことにあります。

本書では、単純な浮気ではなくて、成り上がり意欲バリバリのポッパエアが、まずオトを陥落させ、次にネロへ狙いを定め、というよう彼女のローマ帝国版「黒革の手帳」といった悪女ぶりが描かれています。一見可憐な美女として描かれているので一層の凄みがありますね。

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