カスティーリャの王女のフィレンツェ訪問の目的は何?ー大久保圭「アルテ」9・10(ゼノンコミックス)

2020年10月5日月曜日

アルテ

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芸術・文化が花開き、多くの優れた画家が生まれてはいるが、まだまだ女性が自らの才能を思う存分発揮して活躍することが難しかった「ルネサンス」の時代に、貧しい貴族の家を出て、自分の才能を信じ、一流の画家となることを目指して修行する女性の奮闘を描く『大久保圭「アルテ」(ゼノンコミックス)』シリーズの第9弾と第10弾。

前巻までで、ヴェネツィアの「ファリエル」家の猫かぶりお嬢・カタリーナの信頼を得て、彼女と彼女の母親の肖像画を見事に仕上げ、フィレンツェ帰還後も、それを活かして女性の肖像画家として有名になり始めたアルテなのですが、その腕の良さをかわれての依頼によって、偶然とはいえ、当時の複雑な政治状況の中に引きずり込まれていく姿が描かれます。


【構成と注目ポイント】


「アルテ」第9巻の構成は


第41話 金持ちラザロ

第42話 ダーチャとアンジェロ①

第43話 ダーチャとアンジェロ②

第44話 好機の予兆①

第45話 好機の予兆②


となっていて、はじめの三篇は、「フィレンツェ帰還編」から次の「カスティーリャのカタリーナ編」へとをつなぐ幕間芝居的な話。


第41話では大商人ウベルティーノがビジネスだけのつきあいに見せかけて意外に画家のスポンサー的な行いをしていることが明らかになり、第42ー43話では、アルテに刺激を受けて様々なことに挑戦をし始めたダーチャと、アルテの才能を羨望と嫉妬をいだきながらも自分の「絵」に向かって進むアンジェロの姿が描かれます。「計算」の技能で新しいキャリアを掴みかけたダーチャが、性差の壁にぶちあたるところは、現代の女性も歯噛みをするシーンだと思います。


第44話から第45話は、いよいよ、「カスティーリャのカタリーナ編」の開幕です。身分が高そうで、感情を表にださない若い女性が、フィレンツェへやってきて、トスカーナの有力者・シルヴィオ枢機卿と会うシーンからスタートです。


枢機卿というのはキリスト教の上級宗教者であるとともに、政治家でもあるのですが、このへんは、現代の日本人には感じがつかみにくいところですね。

そして、アルテは彼から、その女性の肖像画を描くよう依頼を受けるのですが、その隠された意図は原書のほうで。


ただ、ヴェネツィアや帰還後のフィレンツェでの肖像画の評判が良かったのが運を引き入れているのは間違いありません。中途半端に宗教画に行くより良かったのかもしれません。


続く「アルテ」第10巻は


第46話 イレーネ様

第47話 遅疑逡巡

第48話 まだ、してない

第49話 手紙

第50話 意志


となっていて、シルヴィオ卿から依頼を受けた、肖像画の仕事が始まります。「イレーネ」と名乗る、その高貴そうな女性は、潜在的な政敵の雰囲気のあるシルヴィオ卿の手先とも疑われるアルテに肖像画のスケッチをさせるのですが、このへんは警戒心がないというより、アルテは何も探り出せるはずがない、という上から目線での余裕のように見受けられます。


実際、彼女の絵画の技術を高評価しているわけではないようで、アルテのスケッチをいくつか見て、一応のOKを出すのですが、感想を聞かれると

私が特別に気に入るものは

なかったかしら

といったかなり冷淡な対応ですね。これは「芸術家」にはキツイ対応ですよね。アルテが”どよん”と落ち込んでしまうのも無理ないところです。


「イレーネ」の投げやりっぽい「OK」をよしとしないアルテは、彼女のことをもっと知って、肖像画に活かそうとするのですが、肝心なところでははぐらかされてしまいます。


この事態が動くのは、ヴェネツィア篇ででてきた「ファリエル家」のカタリーナからの手紙について、ダーチャとしている話をしているのが発端です。話のはしばしを、イレーネの侍女・アスセナが耳にし、彼女の主人「イレーネ」を害することを計画していると誤解して、アルテを襲ったことから、「イレーネ」の正体が明らかになっていきます。


実は「カタリーナ」という名のスペイン(当時のカスティーリャ)の王族であることが判明するのですが、「ヴェネツィア篇」のあたりからこういう仕掛けがされているとは、作者の用意周到さに恐れ入ったところです。


そして、アルテを自分を取り巻く政治の揉め事に巻き込んでしまうことを気の毒がり、イレーネは肖像画の仕事を打ち切ろうとするのですが・・といったところで詳細は原書のほうで。


【レビュアーからひと言】


アルテに「イレーネ」の肖像画を依頼するシルヴィオ卿は、トスカーナの枢機卿なのですが、「トスカーナ」はフィレンツェ、ピサ、シエナといった都市を領域としているので、当然、当時のローマ教会やフィレンツェを支配していた「メディチ」家よりの人物と考えるべきでしょう、

この物語の舞台となる、16世紀初めのフィレンツェは、15世紀終わりに第1次イタリア戦争でフランスへの対応を誤ってフィレンツェから追放されたメディチ家が、ハプスブルグ家やスペイン軍の援助で返り咲いた頃なので、そこの動きは、メディチ家よりの枢機卿としては自分の出世のためにもぜひとも押さえておきたい情報だったと思います。 

 

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