男装の女王の統治に衰亡の陰が迫るー犬童千恵「碧いホルスの瞳」6〜8(ハルタコミックス)

2021年1月1日金曜日

碧いホルスの瞳

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 今からおよそ3500年前、異民族「ヒクソス」の支配から脱し、エジプトをシリア、ヌビア地方まで領土を拡大した、エオエジプトの新王朝の時代にあって、義理の息子のトトメス3世と20数年間、共同統治し、「男装の女王」として君臨した、ハトシェプストを主人公に、政治家でもあり、一人の女性でもあった女王の活躍と苦悩を描くシリーズ『犬童千絵「碧い瞳のホルス」(ハルタコミックス)』の第6弾から第8弾。


前巻までで、息子のトトメス3世とのエジプトの共同統治者という地位となり、実権を彼から奪い、実質的な専制君主となったハトシェプストは、彼女の武力ではなく。平和的な貿易によるエジプトの強国化をすすめるのですが、その方向性が変質を始めるとともに、彼女の権力を脅かす対抗勢力が出現していきます。


構成と注目ポイント


第6巻の読みどころ


第6巻の構成は


第23話 美しき来訪者

第24話 馨しい毒

第25話 囚われの獅子

第26話 轍


となっていて、エジプトの地を義理の息子・トトメス3世との共同統治で治めることになったハトシェプストのもとに、貿易商・パネヘシが現れます。ハトシェプストの交易にかける気持ちを試すような彼に対し、ハトシェプストは父王の形見の首飾りを褒美として与え、彼を忠実な臣下とすることに成功します。


しかし、彼が貿易担当の寵臣として勢力を伸ばしてくることは、昔からのハトシェプストの愛する家臣・センムトとの対立を生み出していきます


とりわけ、女性の姿をしたファラオの像をセンムトが建造したことをパネヘシが、ハトシェプストの神格性を貶めたと非難したことがきっかけで

お前のくだらぬ理想が、いかに私を蝕んできたか

そして誰よりお前こそが

いずれ私を脅かす最大の存在だということに

とセンムトへの愛が国王としての意思を弱めてしまうことに気づいたハトシェプストは彼を左遷することとなります。


第7巻の読みどころ


続く第7巻の構成は


第27話 ふたりの王

第28話 鳥の見しもの

第29話 猫のネムス家

第30話 遺産

第31話 河馬と英雄


となっていて、前巻までで平和的な交易を重視してエジプトの繁栄を築くことを目指していたハトシェプストなのですが、残念ながらこの政策が招いたのは、エジプトが弱腰とみての隣国からの略奪です。

これに対してハトシェプストは心ならずも、対抗する勢力を「武力」で屈服させる道を選ぶことを選択します。


一方、ハトシェプストの実娘・ネフェルウラーは、地方からの政情報告の全てに目を通し、公共事業などの重要政策の決定も行うなど、ハトシェプストの遠征による不在時の代役を立派に果たすように成長しているのですが、ハトシェプストはセンムトを左遷したことに強い反発を抱いています。このことがネフェルウラーとセンメトとの間を強固に結びつけることになります。


エジプトを大強国に押し上げることに成功した、ハトシェプストの権力を足元から崩していく動きが始まりますね。


第8巻の読みどころ


第8巻の構成は


第32話 新月の娘

第33話 黒き復讐者

第34話 涜神の代償

第35話 雲流るる果てへ

第36話 日暮れの鷹


となっていて、第7巻の最後の章で、カバに襲われたトトメス3世をかばって彼を船に掬い上げた彼の妃・サトイアフがワニに噛まれ命を落としてしまいます。彼女の母親・イプは、トトメス2世の妃・ソティスの寵臣であった頃から天下をとることを企んでいて、娘をトトメス3世の妃とすることで野望を果たそうと思っていたのですが、ここで夢が頓挫してしまいますね。


一方、ハトシェプストの娘・ネフェルウラーは、恩師センメトを追放する母親への反発を強めていきます。ハトシェプストの望みは、義理の息子・トトメス3世とハトシェプストの実の娘ネフェルウラーによる共同統治体制の継続なのですが、「親の心、子知らず」というところですね。

そして、ネフェルウラーは、エジプトの民衆にとって最重要な祭であり、王家に崇拝を集める儀式である「オペト祭」をすっぽかし、クーデターを企むことにより、最悪の局面を迎えることとなるのですが、詳しくは本書で。


トトメス3世から実権を剥奪し、実質的にはたった一人の「ファラオ」としてエジプトを支配していたハトシェプストの統治が大きく狂いが生じ始めた瞬間でもありますね。


レビュアーからひと言


愛妃・サトイアフの死で、トトメス3世は、それまでの自分の武術に頼り切る態度から転向し、妃が好んだ学問も学び始めます。

トトメス3世は共同統治者のハトシェプストの死後、彼女の宥和政策から一転、周辺諸国へ兵を進め、エジプトの領土を拡大し、その息子のアメンホテプ2世の時代とあわせて、エジプトの領土を最大化し、大強国としての地位を確立するのですが、武術や軍事の才能だけでない「統治力」を身につけていった最初の動機は、愛妃・サトイアフの想いに報いることであったのかもしれませんね。


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