アルテはフィレンツェを脱出し、カスティリャの宮廷画家となる=大久保圭「アルテ」14〜15(ゼノンコミックス)

2022年5月4日水曜日

アルテ

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 芸術・文化が花開き、多くの優れた画家が生まれてはいるが、まだまだ女性が自らの才能を思う存分発揮して活躍することが難しかった「ルネサンス」の時代に、貧しい貴族の家を出て、自分の才能を信じ、一流の画家となることを目指して修行する女性の奮闘を描く『大久保圭「アルテ」(ゼノンコミックス)』シリーズの第14弾から第15弾。


前巻までで、スペイン貴族の「イレーネ」こと神聖ローマ帝国兼スペイン国王・カール五世の妹であるカタリーナ王女付きの宮廷画家となって、スペイン王室の情報を流すよう、フィレンツェの大物枢機卿・シルヴィオの要請を断ったため、絵画の報酬詐欺と脱獄の疑いで指名手配されたアルテだったのですが、カタリーナ王女の助けで、フィレンツェを脱出し、スペインへと向かい、宮廷画家としての新たな生活が始まります。


あらすじと注目ポイント


第14巻 アルテはフィレンツェを脱出し、母親の実家へ向かう


第14巻の構成は


第65話 イレーネからの手紙

第66話 ふたり

第67話 アルテのいない日

第68話 訪問

第69話 信じない


となっていて、まずはスペインへ向かうカタリーナ王女の一行に匿われているアルテの姿が描かれます。


レオ親方との突然の別れに悲しむアルテをみかねて、カタリーナ王女は一通の手紙を子どもたちに託し、レオ親方への伝言をしようとするのですが、という筋立てです。まあ、この手紙が素直に到着せずに、二人はこのまま別れてしまうのか・・というのは恋愛もののお決まりの設定ではありますね。


いくつかの回り道の末、アルテはようやくレオ親方に自分を想いを打ち明けることができて・・という設定なので、ここ少々甘ったるいのですが、アルテの恋バナを読んでやってくださいな。でも、かなりの年の差恋愛であるような気がするのですが・・。


フィレンツェをでて数日後、カタリーナ王女の一行は、片田舎の小さな町で宿を探すこととなります。しかし、貴族階級の者が泊まれるレベルの宿がなく、近くの大きな邸宅へ宿泊を依頼するのですが、ここが偶然、アルテの母親の実家で・・という流れです。


父の死後、縁談をすすめる母親と喧嘩別れして、家を飛び出し、絵画職人の道を歩み始めたアルテは、厳格な母親のことを苦手にしていたのですが、フィレンツェでの噂が伝わり、カタリーナ王女一行を追い出そうとする叔父を制して、アルテを館に受け入れてくれたことをきっかけに、母親の真意を知ることとなります。


ここではアルテの母親の「娘」を信じる気持ちと度量の大きさが目立つのですが、仮にカタリーナ王女たちを追い出していたら、スペイン王家から後にとんでもない報復がされていたことは間違いなくて、叔父たちのようなイタリアの成り上がり貴族はひとたまりもなかったでしょうから、あやうく難を逃れた、というところでしょう。


第15巻 母娘の絆を確認し、アルテはカスティリャ宮廷へ


第15巻の構成は


第70話 まるで小さな

第71話 お父様のこと

第72話 頑張って生きて

第73話 彼の国

第74話 宮廷画家


となっていて、前半部分は前巻に続いて、カタリーナ王女たちをもてなす晩餐であったり、父と母の若い頃の一風変わった仲の良さが語られていきます。


アルテの母親は、シリーズ前半のところでは、ガチガチの貴族主義者であるかのように描かれていたのですが、実はかなりの現実主義者で、金で身分を買った成り上がり貴族の家から、多額の持参金で名家の貴族へ嫁入りした自分の姿と、根っからの貴族で生活力のない夫のことを冷静に見ている女性であることがわかります。


アルテが母親の肖像画を描いていく中で、今まで娘が絵画の道に進んだことに無理解で、娘の描いたものはすべて焼き捨てていたはずであった母親の本当の姿と母娘の絆の確認のエピソードは原書のほうでどうぞ。


巻の後半では、現代のスペインであるカスティリャ王国に入り、宮廷生活を送るアルテが描かれます。当時、カスティリャでは内乱がおきているのですが、これはカタリーナ王女の兄・カール五世(スペイン国王としてはカルロス1世)がスペイン入りし、自治都市に40万ドゥカードの御用金を課したことに始まる「コムネーロスの乱」のことかと思われます。この内乱はほぼ半年続くのですが、結局のところ、国王軍に鎮圧されます。この「アルテ」シリーズ的にはよかった、よかったなのですが、これによって自治都市の活動は以後制約され、スペインにおける織物工業発展の芽が摘み取られることとなります。


さらに、カタリーナ王女が、外国である「イタリア」から宮廷画家を呼び寄せたことへの宮廷内の貴族の反発など、カルロス一世政権も一枚岩でないことがわかります。


フィレンツェでは女性であるがゆえに絵画工房から締め出されそうになったり、カスティリヤ宮廷では「外国人」と敬遠されたりと、差別的待遇をうけるアルテなのですが、彼女の「気の強さ」が試されるところですね。


レビュアーの一言


注目しておきたいのは、カタリーナ王女とアルテが、母親の実家を訪ねるシーンで、急な客の来訪でで十分な量の鶏肉が確保できず、家人の分は皿の下に豚肉を敷いて、上に鶏肉を載せるという嵩増しを行うところがでてきます。当時、肉の序列は豚肉より鶏肉のほうが上だったようですね。当時、街中に豚が放し飼いにされていて、排泄物やゴミを食べさせる「天然の掃除機」としても使われていたので、そんなあたりが影響しているのかもしれません。


さらに当時の「豚」はイノシシに近い気の荒い動物で、フランス王ルイ6世の長子フィリップは、乗っていた馬に豚が突進してきたせいで落馬し、この怪我がもとで数日後に亡くなり、「豚に殺された王」という称号をもらっています。

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