現代の高校生は「信長」となり"天下獲り"へ = 石井あゆみ「信長協奏曲」1〜3(ゲッサンコミックス)

2021年3月28日日曜日

信長協奏曲

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 現代から戦国時代へとタイムスリップしてきた高校生・サブローはなんと、あの「織田信長」とそっくり。病弱のため戦国時代を生き抜くことが難しいと自覚している「本当の信長」と入れ替わった現代高校生が天下統一へ向かっていく姿を描いたのが本シリーズ『石井あゆみ「信長協奏曲」(ゲッサンコミックス)』です。

織田信長(明智光秀)役に小栗旬、帰蝶役に柴咲コウ、秀吉役に山田孝之などといった豪華出演者でTVドラマ+映画化され人気を博したので、そこのあたりが目立つのですが、最初の入れ替わりはSF的なトンデモ設定ながら、信長の新奇好みや斬新さを現代の高校生だからといったところから説明したり、光秀や秀吉の人物像の新たな解釈を加えたりといったあたりは、優れた「歴史マンガ」と言って間違いありません。


まずは、物語のスタートから「桶狭間」の第1巻から第3巻までをレビューしておきましょう。


あらすじと注目ポイント


第1巻 現代人サブロー、尾張の当主「信長」となる


第1巻の構成は


第1話 サブロー信長

第2話 兄と弟

第3話 竹千代くん

第4話 死す

特別ミニ読切 吸血鬼タマクロー


となっていて、シリーズ最なので、現代の高校生・サブローがタイムスリップして戦国時代の家督を継ぐ前の「織田信長」と馬上でぶつかるところから始まります。


現代の崖際にある塀の上から落ちたら「戦国時代」というネタで、この「高い所から落ちる」という落下型のタイムスリップ方法は、「JIN」あたりでも使われていたネタかと思います。


入れ替わった後、美人の濃姫に惚れたり、実弟の「信行」と対立したり、織田家の人質となっている家康と仲良くなったり、といったあたりや「うつけ」といわれながら、父・信秀のの急死によって家督を継ぐが反乱続発、というところは(家康の女好きと天ぷら好きの基礎をつくったおまけは置いといて)史実に沿った展開になってます。タイムスリップものだからといって史実を無茶に歪めないところが本シリーズの好評価ポイントですね。


そして、本シリーズでは、木下藤吉郎(後の「豊臣秀吉」)は実は今川の間者の「忍び」で、織田家を攪乱するために尾張に入り込んでいるという独自設定になってます。


そして、信長の傳役の平手政秀の諫死も、自死ではなくて彼の仕業のように描かれてますね。

藤吉郎が「忍び」出身であったという仮設は、「へうげもの」でもそう推理されていて、出身が不明確な上に、「墨俣一夜城」で山賊たちの協力を得たり、情報線にやけに強かったりという藤吉郎の普通の武将では持ち得なかった才覚を説明するのは一番かもしれません。


第2巻 斎藤道三の敗死を乗り越え、尾張を固める


第2巻の構成は


第5話 MAMUSHI

第6話 急げ信長

第7話 死ぬほど嫌い

第8話 修学旅行in京都

第9話 桶狭間の戦い(前編)


となっていて、第5話では、斎藤道三との面会の場面がでてきます。


史実では、道中の小汚い服装を見て、やはり愚か者(うつけ)かと思っていたら、面会の場面では正装で現れる信長を道三が見直した、といったことになっているのですが(たしか、NHK大河ドラマの「麒麟がくる」では道中の確認は斎藤義龍と明智重兵衛(光秀)がやっていた気がする)、今シリーズでは、高校生の正装といえば・・、ということでサブローの正装姿はなんと学生服です。


ところがこの姿を見た道三から告げられた事実はなんと彼も・・・、という展開です。道三は、この後の話で、あっけなく息子と戦って敗死しているのですが、斎藤道三が「信長」をあれほど評価したのか、といったところに、うまく説明をつけてます。


第7話では、信長が尾張上総介家の内部抗争に勝利する「信行謀殺事件」が描かれるのですが、ここで暗躍するのは、やはり「木下藤吉郎」で、信行の反乱を煽ったとされているのですが、ここで注目しておきたいのは、今川の支援があるとそそのかしたこと。


もともと母親の土田御膳から嫌われていた信長に対し、信行は愛する息子であったのですが、彼が信長暗殺を企んだ影には、外部勢力の後押しがあったのは予測できるところで、信長の美濃の後ろ盾に対抗して、駿河・三河を領有する大勢力の「今川」の手が伸びていたというのは納得できるところですね。


そして、後半では、織田信長が世に出た大一番である「桶狭間の合戦」の前半部分が描かれます。籠城を主張する家臣たちに対し、最後までその意向を明らかにせず、突然「奇襲」に打って出るのはお決まりなのですが、ここで今川義元軍に誤算だったのは、今川の間者であった藤吉郎が織田軍内に入り込んでいて、「籠城間違いなし」の情報を今川勢にリリースしていたこと。藤吉郎は優秀な間者のようですので、彼のもたらした誤報が、今川軍の敗戦をもたらした原因の一つ、といっても過言ではないですね。


第3巻 桶狭間で今川敗北、信長は一躍トップスター


第3巻の構成は


第10話 桶狭間の戦い(後編)

第11話 松平さんがやって来た

第12話 信長、色々おもいつく

第13話 稲葉山城をください

第14話 美濃奪取

第15話 デート中の出来事


となっていて、本巻では、尾張の一地方領主に過ぎなかった信長の名を高めた「桶狭間の戦」と、今シリーズの描き方とはちょっと違うのですが、本当は強敵・斎藤家をやっとのことで追放した「美濃攻略」が描かれます。


「桶狭間の戦」では、織田家を弱小勢力と侮る今川勢の油断をついて、奇襲によって今川義元を討つところは史実どおりなのですが、本シリーズでは、第2巻で、今川勢が安心して野営していたのは、今川方の間者・木下藤吉郎から、信長籠城の情報が入っていたせいもあったとされています。

この当時、織田信長は尾張の下半分は勢力下においていたかもしれませんが、まだ尾張統一をはたしていない時期であったので、藤吉郎のもたらした情報だけでなく、「籠城するに違いない」という今川方の思い込みもあっただろうと思います。その意味で、「桶狭間」は物理的なだけでなく、心理的な「奇襲戦」でもあったといえますね。

秀吉は、桶狭間の後、信長を

信長は籠城など考える男ではなかった

俺は少し・・信長を甘くみていたようじゃ

と再評価しています。


そして、「桶狭間」のあと、信長は、瀬戸焼の基盤をつくったり、半農半兵の軍隊であった織田軍(もっとも、日本のほとんどの武将の軍がそうなのですが)を、跡継ぎになれず下働きで人生を終わる農家の次男坊以下を兵士とする「専業兵士」で構成する近代軍制に変えたりと言った大改革をやっていくのですが、その様子は原書のほうでどうぞ。


桶狭間の戦で勝利した後、美濃へと侵攻していく信長に食い込んできたのが藤吉郎で、彼は今川義元の復讐を果たすために野盗と組んで墨俣砦を造るなど、しっかりと織田家内に入り込んでいきます。


今巻で追放される「斎藤竜興」は、今シリーズでは「酒好き」「女好き」の殿さまなので、将来を憂えた西美濃三人衆に追放され、信長は美濃攻略に成功します。


家臣の流出も相次いでいる上に、竹中半兵衛の稲葉山城無血占拠といった事態もおきており、祖父・道三、父・義龍がいずれも謀略の才に溢れた、これぞ戦国大名といった人たちだったので、この重圧を受け止めきれなかったのかもしせません。もっとも、宮下英樹さんの「センゴク」シリーズでは、最後まで謀略を尽くして信長に抵抗する武将として描かれているので、一面的な解釈は禁物かもしれません。


レビュアーのひとこと


「信長を殺した男」では、裏切りの謀反人として位置付けられていた「明智光秀」の捉え方をひっくり返し、豊臣秀吉を天下を狙う野望を心におさめた悪人みたいな描き方がされていて、賛否両論を産んだのですが、豊臣秀吉を忍者あがりで陰謀をたくらむ悪人っぽく位置付けたのは、本シリーズか「へうげもの」が最初かもしれません。明るいイメージで包まれることの多い秀吉の行動を、暗い方から解釈するとこう見えるのか、と新たな発見がありますね。

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