白起に連合軍は壊滅。数年間の雌伏の後、三侠と呂不韋は新展開ー王欣太「達人伝」7〜9(アクションコミックス)

2021年5月16日日曜日

達人伝

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 二百年続いた中国戦国時代の晩期。西方の強国・秦が周辺諸国に強大な力を背景に強圧をかけつつあるが、他の五国にまだ、秦の強権的なやり方に反抗する力の残っていた時代に、荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」び三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描く『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズの第7弾から第9弾。


前巻までで、華陽城や周の王都・洛陽を攻める秦の王齕との一進一退の戦が展開されてきたのですが、王齕が本国へ召喚され、新たに、白起が秦軍を率いて、魏・韓・趙の連合軍へと迫り、その酷薄な戦術をまざまざと見せつけることとなります。


構成と注目ポイント


第7巻 白起率いる秦国軍、魏・韓・趙連合軍をすり潰す


第7巻の構成は


第三十七話 仇敵

第三十八話 殺戮者

第三十九話 大法螺に生きろ!

第四十話  戦果追求

第四十一話 赤の喧伝、白の恫喝

第四十二話 毒二滴


となっていて、前巻で魏との戦に新たに投入されてきた秦の白起軍が、華陽城をスルーして一挙に魏の国都・大梁に向かったという情報を得て、魏将・魏雲将軍は華陽城の守備を趙国軍に任せ、韓の鄭晃将軍の軍勢とともに都・大梁へ向かうことにします。


大梁から出陣した魏の芒卯将軍と秦国軍を挟み撃ちにする作戦ですね。ところが、城門を開け出発しようとした魏雲将軍と鄭晃将軍を待ち受けていたのは、なんと「白起」です。


彼は大梁に向かうと見せかけて引き返し、魏軍が城門を開けた隙をついて、秦国軍を城内で攻め入らせるという戦法をとったわけですね。しかも、城内に秦国軍を突入させた後は、自らは国都・大梁に向かうという速攻の二面作戦です。白起は、大梁から華陽に向かってきていた芒卯将軍の魏軍に正面からぶつかり、簡単に撃破してしまうのですが、彼の本当の「怖さ」は魏軍ではなく、自国領へ向けて兵を引き上げようとしている「趙軍」への攻撃で示されます。


趙国軍を率いる賈偃将軍の手勢を本隊から切り離し、押しつぶすように斃したのは戦場のならいなのですが

  以後、秦に抗う者は生きることを許されない

と宣言し、逃走する趙国軍の歩兵を黄河の沿岸に追い詰め、河に落として溺死させるという戦争の続いていた当時でも誰もやらなかった「大虐殺」をしてのけます。


一方、洛陽城内のほうは、森から続く秘密の地下道を通って、宮殿内に潜入した「鯨骨」が「信陵君」の暗殺を狙って襲いかかります。ここで潜入者を追ってきた荘丹たち三侠が診療君に加勢して、刺客・鯨骨を退けるのですが、荘丹がかつて宋国で鯨骨の行った暗殺事件を思い出させたことが、次巻での旧宋都での大虐殺を呼び寄せたような気がします。


さらに、秦の国都・咸陽では、宮廷内で、春申君が、後に秦の内訌のもととなるネタを、その得意な弁説で仕込むのですが、ここは原書のほうでお確かめをください。


第8巻 荘丹の故郷は鯨骨によって壊滅する


第8巻の構成は


第四十三話 万里の大法螺

第四十四話 吐舌の城

第四十五話 禁忌の魔掌

第四十六話 命を繋ぐ

第四十七話 遺憾

第四十八話 秦王の宣告


となっていて、「魏」の「信陵君」のもとを辞して、荘丹たちは、次の戦国四君である趙の「平原君」のもとを目指すのですが、その前に、荘丹の生まれ故郷に立ち寄ることとします。


しかし、そこで見たのは、宋の国王を殺害し、先だっては信陵君の命を狙った、秦の刺客「鯨骨」によって、住人の多くが惨殺され、焼き払われた街の様子でした。


鯨骨は、朱涯とともに宋国の国王を殺害してから「悪運」に付きまとわれていると考えていて、その悪運を祓うために、朱涯たちを生贄とするためにやってきたのでした。


凶悪な「鯨骨」のために、死体の山が築かれていくのですが、荘丹の親友であった玄信の子供の「峻」と「修」は難を逃れます。この二人が、後に、三侠たちの反乱軍に参加し、一人は盗跖の跡目を継ぐことになりますね。


そして、「鯨骨」の難を逃れたのはもう一人います。街から逃れ彷徨っているのを旅芸人に助けられた少女は、この後、「皺朱」と名づけられ、旅芸人のもとで芸を習っているところを、呂不韋と出会うこととなります。


第9巻 三侠は趙へ、呂不韋は奇貨を得、物語は新展開へ


第9巻の構成は


第四十九話 完璧の使者

第五十話  己が欲望の深淵

第五十一話 睚眦の怨み

第五十二話 ふたりの宰相

第五十三話 刎頸の交わり

第五十四話 奇貨居くべし


となっていて、冒頭のところでは、前巻での「皺朱」と呂不韋との出会いの続きです。


幼い「皺朱」に舞に「周王朝で流行った舞踊の流れ」を見出した呂不韋は彼女の後見人として見受けして育てることを申し出ます。この彼女が中国の三大悪女の一人といわれた「趙姫」と呼ばれ秦王「政」(始皇帝)の生母となる美姫ですね。この巻の後半で、数年後、皺朱は「朱姫」と名を改めて、呂不韋の愛妾となっているので、幼い頃から美人に育ちそうな感じだったようですが、彼女に何か見抜かれているようですね。


この後、藺相如と面会した呂不韋は、彼からも、心の奥底に無理やし押し込めている「野望」を見透かされてしまいますね。


で、物語のほうは、ここで5~6年タイムズリップします。趙の趙奢に敗れてから信陵君の部下「蔡要」から武芸を習得した荘丹たち三侠なのですが、しばらく静かだった秦の動きがまた活発化し始めたため、「蔡要」は魏の信陵君のもとへ還り、三侠は趙の平原君のもとへ行くことになります。


秦の動きというのは、この頃から中国の政局に大きな影響力を持ち始めた秦の宰相・范雎が魏にいた頃に、当時の魏の王族で宰相だった魏斉からトイレの肥溜めの中に放り込まれて小便をかけられたという昔受けた恥辱を晴らすため魏の使者の須賈に彼の首を差し出すよう命じたものです。


秦王の力を恐れた魏王や趙王が、魏斉を殺そうとするところを彼が、趙へ逃げ込んだりして、魏や趙を巻き込む騒動となったもので、秦の底力を見せつけたものなのですが、彼の死を境にして、今巻の後半では、秦軍を敗北させその動きをとめていた趙の「趙奢」将軍が死去、秦の白起将軍の韓国侵攻を始めるなど、秦の侵略戦争が活発化していきます。

さらに、呂不韋は趙国に人質として出されている秦国の公子「異人」と知り合い、大きく時代が動きはじめることとなります。


レビュアーから一言


秦の宰相・范雎の力を見せつけたこの「睚眦の怨み」の騒動も、元はと言えば魏斉が范雎の才能に嫉妬したことから起きたことなのですが、魏斉という人物は最後まで

  信陵君め

  そもそも同じ魏の公子であることを重んじて情を厚くする奴じゃない

  なにが信陵君だ、なにが天下の大侠だ

  秦王に脅された魏王趙王が差し出そうとする

  この首に怖気づきやがって

といった感じで「唯我独尊」的態度のまま、信陵君の信義を疑ったまま、自害してしまいます。なんとも独りよがりのお騒がせ人物なのですが、案外あなたの近くにも似たような人物がいませんか。だとすると范雎のような人物の復讐の巻き添えを食

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