前巻で長篠・設楽原での武田軍を大敗北に追い込み、武田勝頼は逃したものの天下布武に向けて大きく前進した織田信長なのだが、上杉謙信、石山本願寺、朝廷などの信長に対する警戒感と自らの存続への危機感が高まる中、信長が次なる奇手をうってくるのが本巻である。
その奇手とは、「家督を信忠に譲る」ということなのだが、まだ気力も体力も十分な今、なぜ家督を譲るのか、といったのがテーマとなる。
【収録と注目ポイント】
収録は
第134話 信長の息子
第135話 信長の意思
第136話 それぞれの晩餐
第137話 継ぐものの重み
第138話 信孝の企み
第139話 踏みにじられた宴
第140話 欠点と利点
第141話 信長の引越し先
となっていて、まずは信長が信忠に家督を譲るので、ケンに家督相続の宴の料理頭をしろ、と命じるところが今巻の始まり。
◇守成の名将・信忠◇
信忠の人となりを見ないと、その命令を受けるかどうか判断できないというケンが向かったのは、東美濃の岩村城の包囲陣。そこで見たものは岩村城の城主・秋山信友の降伏の申し出に対し、「お館さま(信長)」の意向は?と気にする信忠の家臣で、彼らは
おぬしはずっと御館様のお側に控えておっただろう
おぬしならば御館様の御意向が分かるに違いない
信忠様に御館様のご意思を教えてさしあげるのじゃ
とケンに詰め寄ります。
このあたりは、信忠が家臣の目からみても織田の棟梁としては役不足で、」信長はまだまだ織田政権内の中心であることを示しています。なおさら今なぜ家督を、という疑問は晴れないところ。
そうした中で、信忠は、秋山城を救出するために出陣した武田勝頼と戦わず和睦する判断を下すのだが、ケンの示唆があったにせよ、守成の将として一流であることは間違いない。
このあたりは徳川家康が、徳川秀忠に将軍位を譲った判断と似たものがあるようですね。
◇信孝、クーデターを企む◇
まあ、そうした信忠の判断を是とするか否とするかは人によって違って、織田家の場合は、三男に血気盛んな神戸信孝を抱えていたために、相続の宴で騒動が起こることになるというわけ。もちろん、彼が企んだのはこの時点で武力によるクーデターというより、信忠が跡目相続の宴に出す料理を台無しにすることで、諸侯や貴族、寺院の評価を落とす、という高等かつ陰険な手段です。
ケンたち料理人たちは台所から追い出されて別の場所に隔離されるのだが、さて、この危機をどう切り抜けるか・・、というのが本巻のクライマックスですね。
ケンがどういう手をうったかは、原書で確認いただくとして、宴に出したのは「鯉のなます泡仕立て」「鴨豆腐土佐揚味噌ソース」。どんな料理だったかも、原書で確認してくださいな。
で、最後のほうで、なぜこの時期に信長が信忠に家督を譲ることにしたか、という種明かしがされるのだが、けして、疲れたとか、気力が衰えたといった、フツーの人が言う「引退理由」ではないのが、信長らしいところ。
そして歴史が証明するように、まだまだ天下平定のための「戦」は続いていきます。
【レビュアーから一言】
仮に信長の家督を、守りのタイプの「信忠」ではなくて、「攻め」のタイプの「信孝」に譲ることにしていたら、本能寺の後の織田家がどうなっていたか、という、歴史の「もしも」を想像してみても面白いかもしれないです。
案外、信長の救援にはすぐに向かわず、兵を立て直して、明智光秀を討伐し、織田政権を維持。秀吉の結んだ毛利と和睦を破棄し、織田・毛利の激突がおきる・・・、ってなことになっていたかもしれないですね。
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