女性冒険家誕生の瞬間を垣間見る ー 佐々大河「ふしぎの国のバード」5(HARTA COMIX)

2018年11月6日火曜日

ふしぎの国のバード

t f B! P L

 明治の女性探検家・イザベラ・バードを主人公に彼女の横浜から蝦夷地までの日本の奥地探検をテーマにした「ふしぎの国バードシリーズ」の第5巻。


前巻までで、江戸から出発して、日本海側に抜け、新潟、山形あたりまでたどり着いたのだが、案内役をつとめる伊藤に、プラント・ハンター・マリーズからの強い引き抜きの動きのある中、彼女の持病の腰は悪化する一方で、ということで前途に暗雲漂う中での、秋田へ向かって旅を続ける第5巻のスタートである。


【収録は】


第20話 金山①

第21話 バードの記憶①

第22話 バードの記憶②

第23話 バードの記憶③

第24話 金山②


となっていて、旅的には山形県の「金山」を舞台にしながら、蜂毒で倒れたバードの意識の中に、過去のエピソードを思い出させることによって、バードがなぜ旅を志ざしたか、あるいは、バードが旅行家として果たそうとしたことは何かといったことが明らかになってくる。


【注目ポイント】


「金山」は、今では愛知県の「金山」のほうが有名かもしれないが、このマンガの舞台は、新庄盆地、上台台地を抜けた、金山盆地にある秋田県との県境の町「山形県金山町」である。


Wikipediaによると


山形県北東部にある町。最上郡に属する。

町域の4分の3を占める森林からの金山杉と、白壁を用いた「美しく古びる」を目指した金山型住宅、また石造りの大堰と呼ぶ農業用水路には錦鯉を放流するなど、景観施策に意欲的な町として複数の町並みコンクールにおいて受賞実績がある。


というところであるらしく、町のHPをみると、「イザベラ・バード記念碑」も建立されているらしく、


 明治11年(1878) 7月、英国の作家イザベラ・バード女史が金山を訪れ、そのときの紀行文「日本奥地紀行」 に、『ロマンチックな雰囲気の場所である』 と印象を述べています。イザベラ・バード女史の来訪100年を記念し建てられました。


とある。バードの「日本奥地紀行」には


今朝新庄を出てから、険しい尾根を越えて、非常に美しい風変りな盆地に入った。ピラミッド形の丘陵が半円を描いており、その山項までピラミッド形の杉の林で覆われ、北方へ向う通行をすべて阻上しているように見えるので、ますます奇異の感を与えた。その麓に金山の町がある。ロマンチックな雰囲気の場所である。


と記述されている地であるそうだ。ただ、マンガの中の描写では、とても「ロマンチック」とはいいがたく、土砂降りの豪雨で道の状況は最悪であるし、蟻や蜂などの毒を持つ虫が大量にいる、およそ「文明の地」とは程遠い描写なんである。もっとも、おそらくは当時の日本はこういうところが通常であったろうと推測し、こういうところを探検した彼女のタフさには恐れ入るばかりである。


そして、こうした「日本」の未開の状況を見せた上で、「追想」の場面は、バードがまだ英国にいる頃、背中と腰の持病のせいで生きる気力を失っていたときから始まる。

その神経症の治療のため、長期旅行へ出発し、途中の航海中の暴風雨やハワイで「旅行家」といして覚醒するあたりが、読ませどころなんだが、これも日本という「未開地」と英国という「文明地」の対比がくっきりと際立っているせいか、旅行家・イザベラ・バードの誕生秘話がなんとも感動的である。

ちなみに彼女が覚醒するきっかけとなり女性旅行家メアリ・カープは調べてみたが素性はよくわからない。ご存知の方があったらお教え願いたい。


さらには、意識を取り戻した後で、これ以上の旅行を止めようとする伊藤に対して、バードの言う

危険を冒さなければ出会えないものがあるの

人は皆、当たり前の日常なんて気にもとめずに過ごすものよ

それがたとえ、滅びる運命だとしても

ただ一人、旅人だけが

奥地に眠る不思議な日常を記録に残すことができる

のあたりは、紛争地へ行くカメラマンや未開地のジャングルや深海底で行く冒険家兼研究者たちの心情もそうなのかもしれんな、と思うのである。


【レビュアーから一言】


旅行記的には、足踏み状態で、まだ本州の途中である。これから蝦夷地までどれだけ時間がかかるかは、全く想像もできない。


ただ、昔の日本を旅した女性の冒険記としてではなく、女性冒険家となった19世紀の一人の女性の覚醒の瞬間の記録、そして冒険家たちに共通するものは何かを感じとる目的で読めば、けして「足踏みの巻」ではない。


長い旅行記の中に挟み込まれた、少々長い「コラム」として読んでみてはいかがでありましょうか。

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