前巻までで、加藤清正が柳生の手によって雪隠詰めで殺され、福島正則も病にかかって隠居、さらには徳川方にありながら、豊臣方とも気脈を通じて天下を狙っていた長谷川長安もサウナ風呂で脳卒中で倒れるといった、織部に味方する有力者たちがどんどん表舞台から去っていき、織部の陣営もかなり劣勢になってきている。その劣勢の中、徳川と豊臣の合体を目指すも、あちこちで水がダダ漏れをはじめる気配が濃厚になる慶長17年(1612年)8月から慶長19年6月までが描かれるのが、この『 「へうげもの 20」(モーニングKC)』である。
慶長19年7月には、徳川家康が豊臣家にいちゃもんをつける「方広寺鐘銘事件」がおき、11月には「大阪冬の陣」が起こされています。織部の念願というか最後の望みが崩れ落ちる前の、太陽が没する寸前、といったところかな。
【収録と注目ポイント】
収録は
第二百九話 貴殿はNo Good
第二百十話 CUT&GO
第二百十一話 CUT&GO(Remix)
第二百十二話 ハートのACE
第二百十三話 AGAINST ALL ODDS
第二百十四話 もう俺以外愛さない
第二百十五話 わ・か・や・ま
第二百十六話 サイテーなFUCK YOU!
第二百十七話 さびしんぼう
第二百十八話 A song for OUR brother
第二百十九話 The love has GONE
となっていて、まずは駿府城での茶席のシーンからスタート。茶席の主人は織部正がつとめているのだが、その席で
誰ぞ、銀の扇をもっておらぬか?
茶碗の上にかざしたい
と、家康が古田織部に疑いをもっているというのを自ら見せつけたり、その言葉を受けた織部が、関ヶ原で大小便をちびった家康の姿を描いた銀泥を塗った扇子を差し出したり、といった駆け引きが演じられる。
このあたり、双方引き分けという意見もあるのだが、家康の目的は、茶席に出席した有力者の前で豊臣家と古田織部への不信感をおおっぴらに示したことにあるようで、ここは家康の謀略が見事に滑り出した、というところでしょうか。
これに対して織部正も手は打っているのだが、お江との仲をとりもって信頼を得た秀忠の意見に家康は従う気もなく、さらには家臣、特に本多一族にはかなりの信頼をよせていたはずなのだが、
一つ聞く、正純
長安は真に幕府転覆を謀っておったのか?
幕府内の争いで、その方らが仕組んだことではないのか?
といった風で、「自分しか信じられる者はいない」という人質時代の意識に還っていっているようですね。三つ子のの魂云々というのはこういうことを言うのでしょうか?
そして時代の方は、豊徳合体といった「牧歌的」な時代はそろそろオシマイになったようで、大久保長安の一族の処刑、長安を取り立てた徳川の重臣・大久保忠隣の失脚、キリスト教の禁教による高山右近の追放、といったように展開していく。ここのところについて多くの小説は、徳川家康が豊臣秀頼・茶々の権力を奪って日本の支配を固めていく視点で描かれる「権力闘争」的に描かれるのだが、「へうげもの」シリーズでは
日の本を野暮本にされては困りますゆえ
と豊臣方の大野治長が徳川家康に言い放つように、安土桃山と江戸初期の美意識・価値観の対立、といった観点でとらえられているのが斬新でありますね。
【レビュアーから一言】
本巻の途中、伊達政宗の野心を諌めるため、織部が
墨跡半分で我慢しなされ
されば私も、幕府や上様にシラを切るのを手助けできよう
墨跡を例にあげ、「伊達に天下を獲る気なし」・・・と
と語りシーンででてくる「流れ圜悟」は、前半部分の19字のものが、江戸時代になって松江の松平不昧公の所蔵となって、今は東京国立博物館にあるようですね。「e国宝」のサイトを見ると、この巻で一字はみ出た「透」の下のほうを織部が切ったというエピソードどおりになってますね。
興味のある方は「e国宝」の印可状(流れ圜悟)で確認できますので念の為。後半部分は書かれていた内容はわかるものの現物は失われているとのこと。この部分も含めてしっかり再現するところは筆者の執念ですね
0 件のコメント:
コメントを投稿