「長篠の戦」の孤児は、武田家の希望の星・信勝とともに闘う ー 岩明均・室井大賀「レイリ 1〜3」

2019年8月26日月曜日

歴史コミック

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 武田信玄亡き後の「武田家」というのは、なにかと信玄時代と比べられて、勝頼の才覚がどうとか、重臣たちの信玄崇拝が大きすぎて、とか、かなり散々な書き方をされることが多いのだが、そこは敗れ滅びた一族の悲しさというもの。


ただ、勝者の立場から描かれた歴史ものほどつまらないものはなくて、そのあたり、勝頼の息子・信勝と彼の影武者を務める少女の立場から長篠の戦い(1575年)の敗北から天目山の戦い(1582年)までの7年間の武田家の衰亡が描かれるのが「レイリ」である。


全体は6巻で構成されているのだが、筋立て的には第1巻から第3巻、第4巻から第5巻、第6巻に分けることができる。


【構成と注目ポイント】


第1巻から第3巻の構成は


第1巻


第1話 雑兵どもの慣例

第2話 夜の客

第3話 サムライ

第4話 訪れた客


第2巻


第5話 片手にて

第6話 出立

第7話 任務

第8話 影

第9話 修練


第3巻


第10話 襲撃

第11話 囮

第12話 襲撃・再

第13話 血風

第14話 主

第15話 書状2通


となっていて、長篠の戦の余波で、父母と弟を織田兵によって殺害されたレイリが、そも四年後、武田家の岡部丹波守の領内で、剣の遣い手として成長しているところからスタート。この岡部丹波守元信は、元は今川家の家臣で、桶狭間の戦で破れた今川義元の「首」を取り返したことで有名な猛将ですね。


ただ、猛将というだけでなく、武人として立派な人物として描かれていて、父母・弟の死によって、

殺して、殺しまくって

そして、最後は丹波様の盾になって、ちゃんと死にます

ちゃんと最後、死にますから

といった風に、剣の腕を磨いて戦に出て死ぬことを急いでいる「レイリ」を案じているのが印象的ですね。レイリがなぜ死に急ぐ原因の父母・弟の死の詳細は原書で確認してほしいのだが、当時も、非戦闘民が巻き込まれるのは今の戦争と変わらないのだが、その原因が「報奨目当て」というのがなんとも・・ですね。


この岡部元信は、この「レイリ」シリーズの後半部分でも重要な役回りを務めていて、1巻の最後のほうで高天神城に守将として入ることになるのですが、2巻の最初のほうで「失せよ、不吉な者よ」とレイリを遠ざけています。岡部元信は、その後、徳川方に攻められ、高天神城で討ち死にするので、ここはレイリを無駄死にから救ったと解釈しておきましょう。


この後、岡部丹波守と別れて土屋想三に連れられ、武田家の本拠・府中に行くことになるのですが、そこで会うのは武田信玄亡き後の次期当主に指名された武田勝頼の息子の信勝です。

レイリは信勝のそっくりということで影武者に仕立て上げられます。ここからレイリの運命ががらっと変わっていくことになります

ちなみに、この巻で武田家の仇ともいえる織田信長が登場するのですが、「信長のシェフ」や「センゴク」といった織田寄りのコミックとは違って、いかにも「奇人」のように描かれています。


そして、第三巻では、レイリ、信勝が、刺客に襲われることになるのですが、これを退けるレイリの強さは半端ないですね。

で、信勝を襲ったのは信長か、ということになるのだが、信長はこんなつまらない一手は打たない人物で、もっと深いところに楔を打ち込んでいるのだが、詳細はシリーズの後半部分で。


そして、第三巻では、織田・武田の戦の後半戦の山場である「高天神城の攻防」へと話が展開していきます。高天神の救援をしようとする父・武田勝頼に対し、信勝は「信長の罠だ」として、高天神城を捨てるようと進言するのだが、家中の評議の場はかんたんにはまとまらない、というあたりが武田家の中の難しさを表していますね。まあ、結論としては、救援を断念することに決定するのだが、高天神城の主将は、レイリの恩人で、彼女が尊敬している岡部元信。彼がこのままでは織田勢に攻め滅ぼされるのが見えている中で、レイリどうする、といったところで次巻以降に続きます。


【レビュアーから一言】


ほかの作品では、才能はあるが悲運の武将として描かれることある信勝の父・武田勝頼がこの作品では、かなり嫉妬深い、武将の才の薄い人物として描かれていますね。

 このあたり、信玄が偉大すぎて、勝頼の才がいくら優れていても、シンボルとしての信玄を超えられないことが明白なため、一代おいた孫の信勝に家督を譲ることとした、ってな解釈を当方はするのだが、いかがなものでしょうか。

 ただ、これから衰亡へと進んでいく武田家の姿をみると、素直に勝頼に家督を譲っておいたほうが、勝機もあったのでは、と思わないでもないのですが・・・

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