登山女子の「おしゃれ山ごはん」や「ご当地山ごはん」はいかがー信濃川日出雄「山と食欲と私」9・10(バンチコミックス)

2020年11月16日月曜日

山と食欲と私

t f B! P L

 都会でセキュリティ会社の会社員をしながら、休みのときはほとんど「山」に登っているという、「山ガール」と呼ばれたくない「単独登山女子」の日々野鮎美の、単独(ときどき団体)での登山と「山ご飯」を描いたシリーズ『信濃川日出雄「山と食欲と私」(バンチコミックス)』の第9弾と第10弾。


構成と注目ポイント


第9巻 山ご飯のきわめつけ「ビッグカツカレーメシ」のB級さが際立つ


第9巻の構成は


92話 重圧のおふもち焼き

93話 終活のジェラート

94話 甲斐駒&仙丈縦走編①

   あさり岳 with 白ワイン&バター

95話 甲斐駒&仙丈縦走編②

   ビッグカツカレーメシ

96話 甲斐岳&仙丈縦走編③

   例えるならモンブラン

97話 甲斐岳&仙丈縦走編④

   花咲く女王ラーメン

98話 山小屋スイーツを開発せよ

99話 鮎美の富士山リベンジ①

   生しらす丼と富士宮やきそば

100話 鮎美の富士山リベンジ②

   カレーバロメーター

101話 鮎美の富士山リベンジ③

   成長のご来光スープ

102話 鮎美の富士山リベンジ④

   私が残したカップラーメンの汁

103話 アルストは黙して語れり


となっていて、まず第一話では「山ごはん」では珍しい「お麩」が登場します。

麩をダシと水で戻して、豚バラ肉をマヨネーズで炒めた上にスライスした餅、桜エビを載せて麩を襲、生卵を真ん中に割り入れて焼いて、お好み焼きソース、マヨネーズ、青のりをかけた「お麩もち焼き」というハイカロリーの山ごはんです。これを食すとお腹いっぱいになりすぎて「山登り」どころではなくなるかもしれません。


続く「甲斐駒&仙丈縦走編」では単独登山女子の「香山栄螺」と再会してのツイン登山となるのですが、互いに自分の食する「山ごはん」の密かな「自慢合戦」が繰り広げられます。

あさりの缶詰に白ワインとチューブのバターを入れて、水を張ったミニクッカーにかけて熱した「あさり缶with白ワイン&バター」や蝶ネクタイ型のパスタの”ファルファッレ”をクッカーで茹でつつ、一人前のミートソースとミートボールを煮込んだ上に粉チーズをかけた「ミートボールファルファッレ」といった単独登山女子の「山ごはん」はさすがオシャレと感心します。

ですが、”カレーメシ”を耐熱式ジッパー付きビニール袋に入れて持参し、駄菓子の”ビッグカツ”にトッピングした「ビッグカツカレーメシ」は、これを遥かに凌駕する魅力があるように感じます。

もっとも、仲良く登山していながらも相手の「山ごはん」のことが気になって、少しバチバチしているようなのは気のせいでしょうか?


第98話では、男性客か老人しか登山客がこないことに業を煮やした山小屋の主人が、若い山ガールを引き寄せるためのスイーツを開発する話なのですが、この主人は第4巻で鮎美が手帳を忘れた山小屋のアルバイトをしていた人ですね。年月を経て、今は長野の山小屋の支配人代理となっているようですね。ここに鮎美の友人の瀧本サヨリがアルバイトで勤めることになるのも何かの縁というものなのでしょう。


この巻の二番目の連続物「鮎美の富士山リベンジ」は、鮎美が学生時代に登って、山へと目覚めた「富士登山」の再現と罪滅ぼしです。彼女が初めての本格登山でやっちまった「原罪」は何なのかは、原書でご確認を。今も昔もツアー客でごったがえす「富士山」の様子が垣間見えます。

鮎美の最後の行動には、Amazonの書評では、偽善っぽいという批判記事もあるのですが、まあ、山のゴミ放置に対する筆者の警鐘と考えれば好意的に考えるべきだと思います。


第10巻 九州の山ご飯は「とり天うどん」に「メンタイ炊き込みご飯」


第10巻の構成は


104話 炙って焦がして

105話 しみしみのかき揚げライスバーガー

106話 謎解きの古旅館(前編)

   ヤマンバの人間鍋

107話 謎解きの古旅館(後編)

   起死回生の温泉まんじゅう

108話 鮎美の登山ガイド

   おいなりさんとかぼちゃの味噌汁

109話 鷹桑の登山ガイド

   にんにくと鶏レバーのスモーブロー

110話 秘芋

111話 夢語りの春ボッケ

112話 九州大分・くじゅう編①

   とり天うどんともつ鍋

113話 九州大分・くじゅう編②

   めんたいツナ缶の炊き込みご飯

114話 九州大分・くじゅう編③

   楽しめ!鉄輪温泉地獄蒸し!


となっていて、最初の話は鮎美が小松原と一緒に参加した婚活パーティーのビンゴで当てた「トーチバーナー」でつくる「山ごはん」の数々です。


メスティンに酢飯を詰めサーモンのお刺身を保冷剤とともに持参した「サーモン丼」を豪快に炙り、粗塩を振り掛け、最期にレモンをキュッと絞り、柚子胡椒を添えた「炙りサーモン丼」。とても魅惑的な「山ごはん」ができあがるのですが、火の元には充分気をつけないといけないようです。


106話と107話は山裾にある、ひなびた温泉旅館での奇話。登山の話の合間の「箸休め」としてお読みください。


109話では、ひさびさに単独登山男子あるいは単独男子キャンパーの「鷹桑」くんの登場です。今回は、トレラン男子として、高級なシューズに身を固めての登場なのですが、格好がきまりすぎていて、女子たちにトレラン参加を勧められ、新たな災厄を呼び寄せてしまうことになります。


10巻の最後のほうの続きもの「九州大分・くじゅう編」は、鮎美が幼い頃に死別した父親の想い出を辿る旅です。彼は20歳の頃、大学の夏休みを利用して日本中を旅していて、出発前は文学青年風であったのが、旅の後はがらっと雰囲気がかわってしまっていて、その原因探しに「くじゅう連山」を登山する、という旅ですね。

当然、ここででてくるのは、大分名物のとり天をとりだしうどんに載せた「とり天うどん」や、おそらくは九州以外では手に入らないであろう「めんたいとツナの缶詰」をご飯に炊き込んだ「めんたいツナの炊き込みご飯」いう「ご当地山ごはん」。この魅力と鮎美がどんな父親の「若い頃」に出会ったかは、原書のほうでどうぞ。


レビュアーから一言


このシリーズも最初の頃は、がっつりとした「登山もの」が多かったのですが、巻を重ねていくと、登山だけでなく、キャンプとかハイキング、今回はトレイルランと今風のものを扱った話が混じってきています。「山」が多くの人の趣味となっていくにしたがって、その楽しみ方も千差万別になっていくのを象徴しています。もっとも、このシリーズの「山ごはん」自体が、修行的な雰囲気をまとっていた「山登り」のイメージを変えた魁(さきがけ)といってもいいと思います。


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