上杉謙信没す。かくしてサブロー信長、最強になる=「信長協奏曲」11-14(ゲッサンコミックス)

2021年4月4日日曜日

信長協奏曲

t f B! P L

 現代から戦国時代へとタイムスリップしてきた高校生・サブローはなんと、あの「織田信長」とそっくり。病弱のため戦国時代を生き抜くことが難しいと自覚している「本当の信長」と入れ替わった現代高校生が天下統一へ向かっていく姿を描いたのが本シリーズ『石井あゆみ「信長協奏曲」(ゲッサンコミックス)』の第11巻から第14巻まで。


前巻までで武田信玄没し、長篠の戦で武田勝頼率いる武田軍に勝利し、いよいよサブロー信長の「天下布武」の障害となるのは、上杉謙信と毛利一族を残すばかりとなってきたのですが、その一つ、上杉謙信との決着がつくのがこのタームです。


構成と注目ポイント


第11巻 上杉謙信の信長暗殺指令から「おゆき」の素性がばれる


第11巻の構成は


第57話 悩めるふたり

第58話 覚悟

第59話 暗殺

第60話 疵

第61話 選択

第62話 おかえり!


となっていて、帰蝶の侍女を務める「おゆき」に越後の上杉謙信から信長の暗殺指令がでます。


この頃はまだ、上杉と織田は同盟関係にあったのですが、武田家が長篠の戦で破れ、内部の体制固めに専心し始める隙に、越中・能登方面へと侵攻の手を伸ばし始めた謙信と、浅井・朝倉を降し、丹後・越前へと支配を拡大しつつあるサブロー信長の前線同士がそろそろぶつかり始める頃なので、ここで織田の勢いを止めておこうというのは十分考えられる作戦です。


暗殺の機会を窺うため、サブロー信長と光秀信長が会っている隣の間で盗み見したおゆきは、サブロー信長と光秀信長との間の秘密を知ることとなります。


信長の寝所に忍び込みながら、信長への想いが勝って、彼を暗殺できなかった「おゆき」は越後へ帰還します。姉・うののもとへ身を寄せて上杉家の裁きを待とうとするのですが、実は、ここで信長暗殺指令が「うの」の狂言であったことを知ります。

「うの」は「おゆき」に対し

お前だけだ、おゆき

私が守りたいのはお前だけだ

と告げます。「うの」の「おゆき」に対する濃密すぎる感情は、血はつながっていなくても、実の姉妹のように育ってきた「おゆき」と「うの」の葛藤の原因になっているようです。


ちなみに、このときから、「おゆき」はショートカットになります。現代人の我々やサブロー信長には異和感はないのでですが、当時の人々にとっては「異形の女性」であったと想像されます。その証拠に、ショートカットの「おゆき」を見た帰蝶がかなり取り乱しています。


第12巻 上杉謙信の能登侵攻から松永弾正の反乱


第12巻の構成は


第63話 小休止

第64話 幽霊・・・!?

第65話 手取川の戦い①

第66話 手取川の戦い②

第67話 裏切り

第68話 信貴山城の戦い①


となっていて、最初のほうは、長篠の戦も終わり、戦の合間の小休止といたっところです。


家康のお供の本多忠勝を見て、お市の二番目の娘・お初がひきつけをおこしたり、お市が彼を珍獣のように気に入ったりといったほんわかしたストーリが展開されているのですが、ここで注目しておくべきか、武田と引き続き戦闘状態にある家康に、信長が

ん・・・でも、まあ大丈夫だよ。家康くんが勝つよ

なんせ、徳川家康だからね

といった言葉をかけるところです。こうした「徳川家康」誉めはサブロー信長は頻繁にやっています、サブロー信長は後に家康が天下人になることを知っているので、こうした発言をしているのですが、この発言による暗示が家康に天下人を目指す気持ちをつくりあげていったのかもしれません。

さらに、信長から「帰蝶」の侍女として彼女を守るよう頼まれる「おゆき」にも、信長を守る礎となる「恋愛感情」に似た決意が芽生えています。


天下布武の戦いのほうは、「能登」の実質的な支配権をめぐって、いよいよ上杉勢と織田勢とがぶつかりあう「手取川の戦」の場面となります。


織田軍で、能登の攻略を担当していたのは柴田勝家で、彼のもとに丹羽長秀のような有力武将や前田犬千代、佐々成政といった若い頃から信長に仕えた猛将のほか、豊臣秀吉も参画しています。ただ、この能登攻めでは、拠点となる「七尾城」の城内の情勢だけでなく、能登全体の戦況も、派遣している斥候が帰ってこないため、ほとんど把握できない状況となってます。


これは、上杉勢の「忍び」が密かに斥候を始末しているためなのですが、これに気づくのは、やはり「忍び」出身の秀吉の弟・秀長ぐらいなんでしょうね。


秀長はその秘密以外にも、七尾城がすでに上杉勢の支配下に入っていて、上杉勢が虎視眈々と織田軍に奇襲をかける機会を狙っていることをつきとめ、秀吉に報告します。秀吉は、その情報を柴田勝家たちに提供することなく独占した上で、自軍は一番後方に陣取らせ、上杉軍にぶつかる柴田・丹羽軍の退路を絶つことを画策します。ここで、信長の有力武将たちを一挙に壊滅させようという企みですね。


しかし、この企みも弟・秀長が勝手に秀吉軍を退却させたため、大幅変更を余儀なくされます。これが手取川の戦で、秀吉が勝家に喧嘩をふっかけて、勝手に自軍を退却させた逸話の。本シリーズ特有の謎解きとなってます。こうしてみると、「秀長」という人物は単純に「秀吉」の味方といっていいのかどうかわからなくなるところがありますね。

最近の研究では、秀長は秀吉の陪臣ではなく、独立しての信長に仕えていたのでは、という説や、秀吉より重用されていたのでは、といった研究もあるようなので、このシリーズの解釈も頷けるところであります。


ただ、そうはいっても敵前逃亡なので本来なら「刑死」もやむをえない秀吉なのですが、平身低頭の謝罪と弁舌、そして、松永久秀が再び謀反を起こしたことで、死罪は免れることとなります。彼の運の良さもあるのでしょうが、織田軍の中で彼の力が無視できないほど大きくなっていた証拠でもあるのでしょう。


第13巻ー第14巻 松永弾正の爆死から上杉謙信の死去


第13巻から第14巻にかけては、天正5年10月の松永久秀の自害から天正6年10月の荒木村重の反乱までが描かれています。


第13巻は


第69話 信貴山城の戦い②

第70話 休息&旅立ち

第71話 ミッチー 理由を知る

第72話 意外と

第73話 共有者たち

第74話 重大なお知らせ


となっていて、まず前巻の最後のところでおきた松永久秀の謀反の決着がつくこととなります。


この松永久秀という人物は、第15代将軍・足利義輝を弑殺したり、元の主家の三好家を追放したり、信長にも何度も反乱を繰り返したり、という人物なのですが、彼が謀反を繰り返したわけを本シリーズでは

この体に傷と痛みを刻んで行きてきた

それが俺の生き様だ

平成だろうが戦国だろうが、それは変わらねぇ

と森長可へ語る場面で解釈しています。このシリーズでは久秀は現代からのタイムスリップ者という設定なので、ここはこのシリーズ特有の解釈としておきましょう。


中盤から後半にかけては、サブロー信長と光秀信長の顔がそっくりであることを知る「おゆき」「森蘭丸」たちがその情報を共有することとなります。


第14巻の構成は


第75話 謙信さまの死

第76話 お久しぶり

第77話 見物会

第78話 来ちゃった

第79話 角力大会!!

第80話 結びの一番!


となっていて、武田信玄も没し、戦国の雄として信長を脅かすたった一人の存在であった、上杉謙信も病に倒れることとなります。


このシリーズでは、「おゆき」の回想シーンの後ろ姿しかでてこなくてキャラ的には薄いのですが、実際にはとても強大な存在であったことは間違いなく、彼が後継指名をしていなかったことが上杉勢が戦国の覇者争いから脱落していった一因でもあります。


さらに、豊臣秀吉・秀長兄弟の牽制をしている竹中半兵衛なのですが、そろそろ「死亡フラグ」が出始めていますね。


レビュアーから一言


第11巻から第14巻までは、武田信玄没し、長篠の合戦で武田家も破れ、さらには上杉謙信も急死したことにより、信長包囲網が一挙に崩れて、サブロー信長の周辺も少し「ゆったり」とした感じが漂います。しかし、中国地方の雄・毛利氏といよいよ全面対決となり、次巻以降は再び謀反と戦闘が相次いでくるので、これも束の間のことですね。

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