刑事裁判の人間模様を描く「裁判所」コミック=浅見理都「イチケイのカラス」(モーニングコミックス)

2021年5月8日土曜日

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 武蔵野地方裁判所の刑事裁判を担当する第一刑事部を舞台にして、「イチケイ」に赴任してきた「堅物」の若手裁判官「坂間真平」と「トリックスター」的にからむ弁護士任官の裁判官「入間みちお」との掛け合いで、裁判を媒介にした現代の人間模様が描かれるリーガル・スト-リーが『浅見理都「イチケイのカラス」(モーニングコミックス)』シリーズです。


このシリーズは2021年に、「坂間真平」を「坂間千鶴」という女性に変えた役に黒木華、トリックスター的先輩裁判官「入間みちお」役に竹野内豊、「駒沢部長」役に小日向文世をあて、ストーリーを裁判事件の真相解明と「入間みちお」が過去にかかわった事件の真相究明に焦点をかえてドラマ化されています。


【構成と注目ポイント】


第1巻 イチケイ赴任の堅物裁判官を待つのは型破りの先輩裁判官


第1巻の構成は


第1話 武蔵野地方裁判所

第2話 見えない壁の向こう側

第3話 初めての合議事件

第4話 型を崩す

第5話 夜間検証

第6話 イチケイのこたえ

第7話 ピヨピヨたち


となっていて、まずは「武蔵野地方裁判所」へ若手の裁判官・坂間真平が配属されてくるところからシリーズが始まります。


彼の風貌は、かなりハイレベルの「真面目人間」という人物設定がされていて、裁判所見学の中学生の「年収はいくら」という質問に対し

君はどういった趣旨で

その質問をしているのですか

といったド直球の質問返しをしていますし、巻の途中のエピソードでは、アルコールは歓送迎会かイベント(結婚式とかのことでしょうね)しか飲まないといって、居酒屋で話をしたがっている同僚裁判官の希望は無視する、といったKYさを前面に押し出しています。


この彼に絡んでくるのが、弁護士から裁判官に転身した風変わりな裁判官「入間みちお」で、職場の机の上はぐちゃぐちゃ、お菓子食べ放題といったタイプなのですが、彼の裁判をウォッチしている「みちおを見守る会」というWebサイトもあるという人物ですね。さらに、ここに控訴審でひっくり返されない無罪判決を出すことで、(業界内では)有名な駒沢部長、やけになれなれしい書記官の石倉文太、のんびり系の事務官・一ノ瀬糸子が登場人物として加わります。


で、物語のほうは、純文学系の有名人気作家が、夜の10時頃、駅の外にある女子トイレで被害者の背後から胸を揉むわいせつ行為をした、という事件の裁判が始まります。有名作家の犯行ということで、世間の注目を浴びている上に、被告は犯行を否定ということで、世間は「無罪指示」が大勢です。さらに、弁護士から、現場の状況から当時、犯人の識別はできなかったと裁判所の再検証の請求がでます。これに対し「イチケイ」は再検証を行うのですが・・・いう筋立てですです。再検証はしたものの、世間の「無罪支持」の風の中で、「裁判官」の「判断」というのが試される展開です。

「みちお」が「坂間」にかける

俺達はカラスじゃなきゃダメなんだ

という言葉がこのシリーズのテーマとなっています。


第2巻 老ホームレスの病院脅迫事件へ「みちお」の下す判決は?


第2巻の構成は


第8話 みちおの訴訟指揮

第9話 涙の理由

第10話 静かな怒り

第11話 前略 入間みちお裁判官様

第12話 令状当番

第13話 奮闘と衝動

第14話 クレプトマニア

第15話 ひとりでできるもん

第16話 大丈夫じゃない


となっていて、まず前半では、長年連れったホームレスの夫婦の妻のほうが病死します。夫が医者の診断ミスだと病院におしかけたのですが、窓口でもめたときに床に叩きつけたタオルに包丁がくるまれていた、という事案です。


妻が死んでしまったことにより

自分はもう、1分1秒も、この世にいたくないんですわ

という心境にいる年老いた被告に対し、今回主席を務める「入間みちお」は、検察官が請求し、弁護士がやむなしと考えている「実刑」に対し、「罰金刑」の判決を下した上に「更生緊急保護」の便宜を検察官に頼むのですが、その意味するところは、といったところが注目ポイントですね。

ちなみに、保護観察所への送致を嫌がる弁護士に対する井出検察官の表情が印象的です。この人はヤンキーな風貌で、冷徹な検察官という感じなのですが、物語の進行につれて「入間みちお」と同類のような感じがしてきます。


後半の事案は、クレプトマニア、いわゆる病的な万引常習犯の女性の裁判です。今回、主席を担当するのは、真面目人間の「坂間」くんですが、ここに、熱血弁護士の堤弁護士がからんでくる、という設定ですね。

被告には小学校1年生の幼い子どもがいて、夫は仕事一辺倒で単身赴任。しかも寝たきりの義母を介護中といった家庭環境の中で、「坂間」は実刑判決を下すのか・・といったところが焦点となります。

途中で、公判中に被告の娘「ほたる」が傍聴席に入り込んで

ママ・・。ママー、がんばれー

と激励するアクシデントで泣かせる場面もでてくるのですが、さて・・というところで第3巻の第一話で判決がくだされます。


第3巻 公園でおきた過失致死事件の有罪性は?


第3巻の構成は


第17巻 補充質問、そして判決

第18巻 刑事部会

第19話 8人の裁判員

第20話 いざ、初公判

第21話 ファイティングポーズ

第22話 ヤベー仕事

第23話 裁判官はつらいよ

第24話 ふたりの証人

第25話 妻


となっていて、今巻では裁判員裁判が描かれます。


まずは裁判員候補として選ばれた若手のいちサラリーマンや「坂間」くんたちの目を通して、裁判官として選ばれる人たちお当惑や、裁判員を受け入れる裁判所や検察側のとまどいが描かれています。


このあたりの制度の不慣れ感は、まだ続いているのかもしれませんね。


で、この巻の中心となる事案は、公園内での「タバコのポイ捨て」を注意した被告を、被害者が追いかけてきて揉め事になり、喧嘩をふっかけてきた被害者に対し反撃した被告のパンチで昏倒し、死亡してしまった、というもの。被告の行為が正当防衛になるか、ということが焦点なのですが、その時の様子や被害者の態度など判断に迷うところが多数でてきそうな案件ですね。


当然、裁判での尋問をめぐって、裁判員の一人から、他の裁判員へ

あんたね、さっきの奥さんへの質問。いかがなものかと思うよ

奥さんの身にもなってみなさいよ

裁判はあんたの考えを披瀝する場所じゃないんだから

といった感じの発言もあり、裁判員同士が対立することもでてきます。


第4巻 学校でおきた生徒暴行事件が暴走する


第4巻の構成は


第26話 俺は悪くないんだ!

第27話 人を動かすもの

第28話 最終弁論

第29話 評議の行方

第30話 教えなかった人

第31話 出会いと決意

第32話 最終兵器

第33話 孤独と恐怖

第34話 裁判官の仕事


となっていて、前半は第3巻での公園での暴行過失致死事件の裁判です。


前巻で、ポイ捨てを注意されたことに腹をたてて被告に喧嘩をふっかけてきた被害者の態度とか、被告の奥さんの証言で、被告に同情が集まりかけていたのですが、この巻の冒頭での

俺は悪くないんだ、絶対に

という被告の発言で雰囲気が変わり始めます。ここのところは、正直、検察側の捜査に被告が大きく反応していることに弁護士が気づかなったところもあるかもしれません。


ただ、裁判員裁判というものがかなり「感情」の部分で左右されるのだねー、という印象は持ちましたね。まあ、ここで混乱していく裁判員に対する駒沢部長の

皆さんは刑事裁判におけう最大の悲劇はなんだと思いますか

という言葉から始まる助言で、ストーリーが落ち着いていきます。


後半部分では、授業で騒いでいた生徒を注意して生徒指導室へ連れて行こうとして、勢い余って怪我をさせてしまった教師の事件が扱われます。生徒に暴行したということで、両親からの非難が過激化し、同級生からSNSへアップされて教師への非難の声も広がり、といった感じで進んでいくのですが、被害者の生徒抜きで物事が動いていく怖さが描かれています。


最後のところで、被害者の生徒の何かを訴える様子で、主席裁判官を務める「坂間」が彼に証言をもとめると、彼は真実を証言し始め、という展開です。


結果、彼の両親が騒ぎすぎてコトが大きくなった、という結末になるのですが、

しばらくは巣堂くんは孤立するかもな、学校でも、家庭でも

自分の言う正しさが多数派だと安心して相手をボコボコにする

そういう自覚のない悪童には反吐が出る

という「入間みちお」の言葉に事件の余波で被害者の彼の周辺で逆流が始まるのかも、と思ってしまうところです。


レビュアーから一言


このシリーズは、入間みちお役に竹之内豊さん、坂間千鶴役に黒木華さん、駒沢義男裁判長に小日向分世さんというキャストでフジテレビでTVドラマ化されています。TVドラマのほうは、竹之内さん扮する「入間みちお」が、裁判所主導による現場検証を重ねながら、裁判となっている事案の真実を暴く、と言う感じの推理ドラマになっていて、黒木華さん演じる「坂間千鶴」が「入間みちお」にカリカリしながら懸命に奮闘する姿が魅力のドラマなのですが、裁判をめぐる人間模様を描いているこっちの「マンガ」とは別の物語と考えたほうがいいようです。

事件の謎解きを中心に据えたミステリーではなく、「裁判」をめぐる人間模様を描いた物語として読んだほうがモヤモヤ感を抱かずにすみそうです。本シリーズ全4巻で完結になっているのは、そんな「裁判」周辺の描き方の難しさ故かもしれません。

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