ドイツから帰国した櫂をクーデターが襲う=アルキメデスの大戦12〜13「新・大和建造編2」(ヤングマガジンコミックス)

2021年10月30日土曜日

アルキメデスの大戦

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 世界大戦へと進んでいく日本の運命を変えるため、その象徴となる「戦艦大和建造」を阻止するため。海軍に入り、内部から太平洋戦争をとめようとする天才数学者の姿を描いたシリーズ『三田紀房「アルキメデスの大戦」(ヤングマガジンコミックス)』シリーズの第12弾から第13弾。


前巻で海軍高等技術会議で、櫂少佐の設計した「大和」が採択され、海軍内のサボタージュをかいくぐって、艦政本部の若手設計者たちによって艦隊設計をはじめたのですが、新型戦艦建造用の大型機械の購入と新技術の導入のため、ドイツでの奮闘と、帰国後の日本を揺るがすクーデターに巻き込まれる櫂少佐が描かれます。


 あらすじと注目ポイント


第12巻 ドイツとの取引のキモはユダヤ人コミュニティ


第12巻の構成は


第109話 シベリア鉄道

第110話 闇夜の襲撃者

第111話 ナチスドイツ

第112話 アドルフ・ヒトラー

第113話 黄金の魔法

第114話 ユダヤ人コミュニティ

第115話 入手ルート

第116話 洋上取引

第117話 シュバルツの願い

第118話 亡命決行


となっていて、今巻で、櫂少佐に託されたのは、ドイツでの新・大和建造のための器材買付のほかに、暗号表をドイツ駐在武官へ渡すという指名です。命令をうけたときの感じでは、機材代金の600万円相当の金塊よりも「暗号表」の防衛のほうが重要な使命のように思われます。


シベリア鉄道でのソ連のスパイの襲撃を撃退し、無事、ドイツのベルリンに到着した櫂少佐は早速に機械の買付の交渉を始めるのですが、当初の目的にとどまらず、それ以外に、ガスタービン、電気溶接、ロケットといった新技術の獲得交渉を始めるのが彼らしいところです。


しかし、購入のためにドイツへ持ってきた金塊は限られています。櫂の作戦は、この金塊をドイツが入手に苦労しているレアメタルに換え、持ち込んだ購入代金の価値を嵩増しし、それを新技術購入に充てるというもので、レアメタルの入手には、ユダヤ人コミュニティを使うつもりです。


当時すでにユダヤ人への迫害は始まっており、また以前知り合いになったドイツ軍諸侯シュワルツの情報では、ユダヤ人の隔離政策も始まろうかというところですので、相当危ない橋を渡っているのは間違いないのですが、当時のユダヤ人たちがヨーロッパ経済で大きな力を持っていることを示してもいますね。


少しネタバレすると、この交換取引の追加条件として、ユダヤ人コミュニティから数名のユダヤ人科学者たちの亡命を提示されるのですが、彼らがもたらす新技術が新・大和建造や、櫂が行う外交交渉の重要な切り札となってくるのですから、人助けはしておくもんですね。


この亡命を成功させるため、ドイツのナチスの秘密警察とのバトルが展開されるのですが、詳細は原書のほうで。


第13巻 二・二六事件に巻き込まれ、櫂は生死の境を彷徨う


第13巻の構成は


第119話 久方ぶりの日本

第120話 新型戦艦「大和」

第121話 ユダヤ人科学者

第122話 高橋是清

第123話 2月26日

第124話 二・二六事件

第125話 櫂の安否

第126話 終わりの始まり

第127話 山本からの命令

第128話 亡霊


となっていて、ドイツでの交渉を無事済ませ、日本へ帰還した櫂だったのですが、帰り着いた我が家に、恋人の「佳つ世」こと「ひさ」は軍部の説得で身を引き台湾へ渡っています。この巻から、櫂は生命の危機に何度もさらされることになるので設定的に身軽にしておく必要があるのでしょう。


物語のほうは、帰国早々、ドイツ出張前に大和の設計を一任した桑野少佐が集めた艦政本部の有能な若手設計士たちによる斬新な「新・大和」の全貌が明らかになります。それは艦砲ではなく誘導ロケット弾を配備したもので、呉鎮守府の平山中将の設計するオーソドクスな「大和」とは対照的な設計なのですが、この新型・大和を待つ運命はかなり過酷なものですね。


そして、昇進し中佐となった櫂のもとへ、時の大蔵大臣・高橋是清から面談して話を聞きたい、という電話が入ったところから、物語が急転。櫂は国家を揺るがすクーデターに巻き込まれていくことになります。


高橋是清邸で、今後の政治情勢や戦争に突入した時の戦費などを話しているうちに早朝となり、ここで屋敷に侵入してきた昭和維新を訴える陸軍の青年将校たちによって、高橋と一緒に襲撃されます。政府高官を多数暗殺し、日本が戦争へと進んでいくはずみをつけた「二・二六事件」に巻き込まれ、青年将校たちに銃撃され櫂は生死の境を彷徨うこととなります。


レビュアーの一言


ドイツで櫂少佐が機材調達と新技術購入の交渉相手とするのがナチス・ドイツ政権下で経済大臣を務めた「ヒャルマル・シャハト」です。彼はアメリカからドイツに帰国した銀行家出身の政治家で、1934年から1937年の間、経済大臣としてドイツの経済政策をリードしました。


市場経済主義の支持者で、ダイムラー・ベンツ、シーメンス、クルップなどの大企業に対するナチス党の干渉や支配に対する防波堤となっていたほか、反ユダヤ主義に対しても快く思っておらず、彼が経済大臣の時はユダヤ人企業をドイツ人企業に安価で売却させる「アーリア化」も進められませんでした。その意味で、櫂少佐の交渉相手としてはうってつけだったわけですね。

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