地動説は天才少女ヨレンタから流浪の女性ドゥラカへと繋がれる=魚豊「チ。ー地球の運動について」6・7(ビッグコミックスピリッツ)

2022年5月5日木曜日

歴史コミック

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 地球がまだ宇宙の中心で、太陽をはじめ天空の星が地球を中心に回転していることが「定説」であるとともに「神の教え」であったころ、天体の観測結果と「異端」の人々が遺した記録から「地動説」に憑かれ、迫害を受けながらそれを受け継いでいった人々の姿を描いている『魚豊「チ。ー地球の運動について」(ビッグコミックスピリッツ)』の第6弾から第7弾。


前巻までで、12歳のラファウから修道士のパデーニと代闘士のオグジーまで引き継がれてきた「地動説」の文書が、異端審問官・ノヴァクによって滅失され、さらにパデーニたちと行動をともにしていたノヴァクの娘・ヨレンタも失踪して25年後、異端派の動きが活発化し、C教が根底からゆらぎ始めている時代の地動説をめぐる人々の動きが描かれます。


あらすじと注目ポイント


第6巻 C教正統派に異端解放戦線が激しく抵抗する


第6巻の冒頭で異端派に占拠された村から、C教正統派の親子が逃げ出すところから始まります。この親子は両親が異端派の弟に殺され、息子は逃げ出すのですが、このシーンで聖職者への信頼が薄れ、異端派の力が前巻とは違って増してきているのがわかります。

前巻までは絶対的な信仰上の力を誇り、異端審問官も絶大な力をもっていたC教社会だったのですが、正統派の教えに反対し、審問所を襲撃して囚われている「異端」と呼ばれる人々を解放する「異端解放戦線」が徐々に勢力を伸ばしてきています。


彼らは、審問所を襲撃するときに「爆薬」を利用しているのですが、C教正統派の神父たちは爆薬についてあまり知識はないようなので、爆薬がヨーロッパに伝わり、ドイツで自主製造され始めた13世紀末から14世紀初頭にかけての時代と考えておけばいいのかもしれません。


今巻の主要登場人物の一人である異端解放戦線のシュミット隊長は、オグジーとバデーニの記録が記された書物、おそら二人が下層民の頭部に遺した文章を写本したものと思われるのですが、それを見つけ出し、「組織長」のところへ届ける任務を帯びているようです。「組織長」の正体については巻の最後で明らかになるので、原書の最後でお確かめくださいね。


もうひとりの主要人物となるのは、ジプシーのドゥラカです。実は、オグジーとバデーニが遺した地動説の写本は、ドゥラカの叔父が密かに見つけた地下室に残されていて、叔父によってそこにおびき寄せられたドゥラカが偶然見つけ、その内容を暗記します。

そして、本を探しているシュミット隊長の前でそれを焼き捨て、彼女の頭の中にあるものしか原本がない状態にして、それを交換材料に、異端解放戦線から金を引き出そうという作戦です。


異端解放戦線に確保されたドゥラカが彼らの本拠地につれていかれるのですが、その馬車の中で、彼らが「活版印刷」を使って、地動説の「本」を大量につくり出版することであることを知ります。今までは密かに、地動説を伝えてきたのですが、これを一挙に広めようとするもので、まあ「情報テロ」といえるかもしれません。

さらに、ここで、異端解放戦線の本部についたドゥラカが出会った「組織長」とは・・という展開です。


第7巻 ヨレンタは活版印刷機を守り、遺志はドゥラカに繋がれる


第7巻の冒頭では、腕利きの異端審問官・アッシュが異端派の逮捕者を水責めにする拷問を行っているところから始まります。一般的には、「拷問」は人目につかないところでやるのが常なのですが、異端審問の場合は街中の運河でやってるんですね。これは目鱗でした。


彼は異端解放戦線の動きが活発になって、正統派の審問所が遊撃されたり、審問官が殺害される事件が相次いでいることに怒りを抱いていて、そこに「地動説」が絡んでいることをつかみます。そして、その捜査にあたるため、「宇宙論」に詳しい人物を探していたところ、元異端審問官で、今は酒浸りになっている人物を他の司教から紹介されます。それが、ヨレンタの失踪によって身を持ち崩してしまった元腕利きの審問官・ノヴァクで、という筋立てです。


最初はアッシュの相手をしなかったノヴァクですが、地動説の関係者が復活したという話を聞いて、再び冷酷な審問官の心が蘇ります。

ここで、双方が意識しないうちに、父親と娘の因縁の対決が始まることとなります。


一方、異端解放戦線の本拠地へ連れて行かれたドゥラカは、ヨレンタによって「地動説」の教育を受けています。教育とはいっても、ヨレンタの今までの経験をレクチャーしているだけなのですが、ドゥラカは反発しながらも、知らず識らず、ヨレンタの後継者としての意識が芽生えていっています。


そして、本拠地へ迫ってくる異端審問官のノヴァクたちから、異端解放戦線の秘密兵器である「活版印刷機」を守るため、ヨレンタのとった方法は・・という展開です。ここでも、C教正統派が思って見なかった最新技術が使われているのが印象的です。


そして、ヨレンタの犠牲によって守られた活版印刷機によって、地動説についての本「地球の運動について」が印刷され製本されていきます。しかし、製本が本格的に軌道にのろうかという時、解放戦線の中にC教正統派の信者の裏切り者が混じっていることが判明。活版印刷機を置いている隠れ家に、ノヴァクたち異端審問官と騎士団が迫ってきます。ここで、解放戦線のメンバーとドゥラカのとった選択は・・という展開です。


ちなみに、このC教正統派の内通者と第6巻の冒頭のエピソードとが結びついてくるので見落とさないようにしてくださいね。


レビュアーの一言


C教正統派と異端派との違いは、天動説か地動説かというところ以外に、異端派が爆薬であるとか活版印刷であるとか最新技術を積極的に使っているところが強調されていて、ここは守旧派と急進派というよくある図式になっているのですが、これは今の時代でも見られるところだと思います。


さらに、地動説の情報を、活版印刷によって広く流布しようとする異端解放戦線と、それを葬り去ろうとするC教正統派の動きは、「情報」の確保をめぐってあちこちで戦われている事象を見るような気がしています。


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