新米編集者・黒沢心は、初単行本で発売前重版の快挙達成=松田奈緒子「重版出来!」8~10(ビッグコミックス)

2023年2月7日火曜日

重版出来

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 オリンピック出場を目指していた女子柔道選手・黒沢心が心機一転、大手出版社・興都館の青年マンガ雑誌「バイブス」の編集部員となり、一癖も二癖もある編集者たちに揉まれながら、変人やナイーブなマンガ家たちを担当しながら編集者として成長していく、編集者のお仕事系マンガのシリーズ「重版出来!」の第8弾から第10弾。


前巻までで、新人の原稿持ち込み段階から担当していた中田伯の連載デビューが決まる一方、自分の担当から外れてベテラン編集者の担当へ移っていった東江絹が、マンガ家の道を断念するといった意気消沈の事態があったのですが、このタームでは、伯の単行本で発売前重版決定や、新フォント作製、「たんぽぽ鉄道」映像化といった怒涛の展開が押し寄せます。


構成と注目ポイント


第8巻 「ピーヴ遷移」は発売前「重版」決定の快挙


第8巻の構成は


第四十二刷 信じて待つ!

第四十三刷 ON・OFF!

第四十四刷 のってけ のってけ!

第四十五刷 めざせ平台!序

第四十六刷 めざせ平台!破

第四十七刷 めざせ平台!急


となっていて、前半部分では、昔の人気漫画家であった牛露田の娘・あゆちゃんも中学3年となり進路をどうするかといった悩みも出てきたところで、興都館のティーン雑誌の読モのアリバイトが始まったり、中田伯くんには、生き別れとなっている父親の状況を知らせる通知が届いたり、とそれぞれに環境変化が起きてきています。黒沢心の場合は、実家から出て一人暮らしを始めるといった、かなり平和な「環境変化」なのですが、彼女の家族にとっては「一大事」であるようです。


中盤部分では、薔薇族系ギャグ漫画を描いている女性マンガ家「性・二―ルソン」が登場します。彼女はこれから弟ともども要所要所で登場して騒ぎを起こすので覚えておきましょう。


後半の「めざせ平台」は、「ピーヴ遷移」の単行本第一巻の発行をひかえて、書店の平台へ陳列されるよう奮闘する黒沢たちの姿が描かれます。作者の中田も単行本用のカバーラフの作画に専念すべきところなのですが、先だっての父親に関する福祉事務所からの連絡であったり、これまた絶縁状態となっている母親が現れたり、とか、縁を切ったはずの「家族」に悩まされる姿が描かれます。


第9巻 中田伯の「天才性」はアシスタントを浸食する


第9巻の構成は


第四十八刷 はじめの一歩!

第四十九刷 モンスター!

第五十刷 ハッピー!

第五十一刷 夢への道のり!

第五十二刷 面白いマンガは読みやすい!

第五十三刷 やまおり たにおり!


の構成は、一躍売れっ子になって大忙しとなる伯だったのですが、手伝ってくれるアシスタントが彼の独特な性格ゆえにいつかない様子が描かれます。臨時的に手伝ってくれていた栗山も自分の連載が始まり、手伝いをやめることとなり、困り果てる黒沢だったのですが、以前、伯のアシスタントを一時期やってくれていた志田が手伝ってくれることとなります。これで一件落着と思いきや、志田が伯とシンクロしすぎて、彼のマンガに悪影響が・・という展開です。芸術家同士ってのはなかなか難しいものですな。


中ほどでは、アユちゃんが将来の夢の姿が語られたり、新人マンガ家を指導する中堅マンガ家・高畑一心の言葉が熱かったり、とか周辺キャラがいい味を出しています。


そして、最終話の「やまおり、たにおり」は雑誌の紙付録にまつわる物語です。


現在の豪華な「雑誌付録」の文化は、宝島社の「スウィート」から始まっているようなのですが、今回、黒沢が取り組むのは、紙の組立付録です。戦後すぐのあたりから、付録製造に関わっている「付録設計士」の職人魂が描かれています。


第10巻 タンポポ鉄道、映像化決定。しかしトラブルは続く


第10巻の構成は


第五十四刷 声のかたち!

第五十五刷 君の名は!

第五十六刷 クールジャパン!

第五十七刷 誰がための映像化!

第五十八刷 ベスト・ベスト・ベスト!

第五十九刷 何千本ブーメラン!


となっていて、前半部分では、作品イメージにかかわる小説家の依頼で、その作品特注の「フォント」をつくりあげていく話が語られます。パソコンに「フォント」という概念をもちこんだのは、学生時代、「カリグラフィー」に凝っていたスティーブ・ジョブズ田と言われているのですが、今話では、平安時代の女性の筆による「かな文字」から新フォントがつくりだされていきます。


中盤からは、第1巻で黒沢も販促活動に関わった「たんぽぽ鉄道」の映画化をめぐっての騒動です。


マンガの映像化なのですが、アニメではなく実写版ということで、若手俳優から大物俳優までキャストされるのですが、その中でもキーとなる居酒屋の親父の役にキャストされた大物俳優のプロダクションが、突然、イメージを損なうので脚本を変えろ、と言いだします。もっと知的なイメージの役どころに変えろという要求なのですが、原作にないキャラに変えれば、今度は原作イメージが損なわれるのは間違いなく、映像監督は脚本を変えるなら担当を降りると言いだします。


映像化そのものが空中分解しそうなところで、プロデューサーの出した結論は・・といった展開です。


レビュアーの一言


第9巻の最終話のテーマとなる「雑誌付録」ですが、はじまりは大正時代中期と古く、昭和の始めには、講談社の「少年時代」で軍艦三笠の組立付録で人気を博すなど、少年雑誌にはなくてはならないものになっていったようです。


その後、第二次大戦中は物資不足で途絶えたものの、戦後の1950年代になると「少年画報」や「少年」といった月刊雑誌間で大付録競争がおき、カメラや幻灯機といった豪華付録まで登場したようです。


その後、鉄道の輸送料金の値上げや週刊マンガ誌の流行で、付録文化は小学館や学研の学年誌だけの残るだけとなっていたようですが、女性誌の豪華付録ブームを皮切りに男性誌にも波及して現在に至っています。付録で雑誌の売れ行きが変わる昨今の状況をみると「付録文化」は、日本固有の文化となった、といってもいいかもしれませんね。

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