古代史を揺るがした壮大な兄弟喧嘩、ここに完結=「天智と天武ー新説・日本書紀ー」9〜11

2023年2月22日水曜日

歴史コミック

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 古代史最大の暗殺事件「乙巳の変」で、その当時で一番の権力者であった蘇我氏の入鹿を殺害して実権を握り、その後、対外的には親百済政策をとって、唐・新羅と戦い、日本を初めての対外戦争の敗北に追い込んだ天智天皇と、入鹿の実子として生まれ、「乙巳の変」の混乱を生き延びて、その後皇族として復帰し、最後は帝位についた「天武天皇」との日本古代史を揺るがせた壮大な「兄弟喧嘩」を描くシリーズ『園村昌弘・中村真理子「天智と天武ー新説・日本書紀ー」(ビッグコミックス)」』の第9弾から第11弾。


前巻までで、白村江の敗戦を受けて、国土防衛体制を整備し、長年の称制をやめて天皇位につき、天智天皇となった中大兄皇子だったのですが、愛妾の額田王は再び大海人皇子になびき、さらに、息子の大友皇子には、大海人と額田の娘・十市皇女が嫁し、周辺を大海人によって固められつつあります。そして、蘇我入鹿を暗殺した乙巳の変以来の盟友・豊璋こと中臣鎌足が病死し、いよいよ、中大兄と大海人の最終対決、そして、天智朝と天武朝の政権を争う戦へと発展していきます。


あらすじと注目ポイント


第9巻 斑鳩寺焼失。仏像を守る大海人と中大兄のアヤシイ関係


第9巻の構成は


第69話 言いたかった言葉

第70話 入鹿との再会

第71話 斑鳩寺炎上

第72話 後継指名

第73話 寝所のいざない

第74話 翼を持った虎

第75話 沓

第76話 吉野の再会

第77話 妻たちの覚悟


となっていて、中臣鎌足の病死後、自らの政権固めのために、中大兄皇子(天智天皇)は鎌足の第二子である「史」の取り込みを図るとともに、入鹿を模して造られた仏像を消滅させようと斑鳩寺へ火をかけます。ここで、仏像を守ろうとしてやってきた大海人皇子と中大兄皇子(天智天皇)の間で、BL的展開があるのですが、ここは好みによりますね。

当方的には、もっと政治的なドロドロのほうで描いてほしかったなーという感じです。


斑鳩寺の焼失後、中大兄皇子(天智天皇)は体調を崩し、寝込んでしまうのですが、ここで突然、息子の大友皇子を呼び出し、次の帝位は、大海人に譲りたいと告げます。その後、大海人が御所に呼び出され、譲位を告げられるのですが、彼は出家して、父・入鹿を模した仏像を祀る生活に入りたい、と帝位を継ぐのを固辞します。

中大兄皇子(天智天皇)がかつて有間皇子にしかけた罠と同じ臭いを嗅ぎつけたのでしょうな。


宮殿を退出した大海人の後を追って、山科でおいついた中大兄皇子(天智天皇)は、そこで最後の兄弟対決として刃を交えるのですが、詳細は原書のほうで。

ちなみに、天智天皇の死は公式には確認されていなくて、山科の原っぱに履が落ちていたところが亡くなったと頃とされているぐらい、あやふやなのですが、今巻ではそのあたりの真相を推理しています。


第10巻 壬申の乱は大海人皇子の勝利で決着するが、藤原不比等の動きが流れを変える


第10巻の構成は


第78話 天啓

第79話 壬申の乱

第80話 奇襲

第81話 瀬田橋

第82話 決着

第83話 謎の訪問者

第84話 祟りの正体

第85話 最高級の名前


となっていて、前半部分では、中大兄皇子(天智天皇)が行方知れずになった後、帝位をめぐっての大友皇子と大海人皇子が争った「壬申の乱」の様子が描かれます。


もともとこのシリーズでは、大友皇子は、大海人皇子を慕い、尊敬しているという設定なのですが、彼が剣を持って争うようになった心境の変化については原書でどうぞ。天智天皇の無念が乗り移った感じで、顔つきも変化し、自ら帝位につくことを宣言します。

明治期ぐらいまでは、大友皇子は皇統譜には天皇として扱われていなかったのですが、最近では即位していたことは間違いないようです。


これに対し、大海人皇子も帝位を奪うことを宣言し、天皇家の二系統が争う内乱へと発展していきます。


さらに、この壬申の乱については、妻の十市皇女のスパイ行為が注目されるのですが、そのあたりも描かれています。


後半部分では、藤原不比等の晩年へと時代が移ります。壬申の乱を勝った大海人皇子は、天武天皇として即位して実権を握るのですが、その血筋は後世に伝わることなく、天智系へと帝位が受け継がれていっています。これは、大海人皇子を、実兄・定恵を殺した黒幕と思い込んだ不比等が関与しています。その上、不比等は日本書紀の編纂を通じて、蘇我入鹿の業績を塗りつぶしていっています。


さらに、最終盤では、さらに時代が聖武天皇と光明皇后の時代、つまり、奈良の大仏がつくられた時代へと移ります。皇族以外で初めて立后された光明皇后には藤原氏の大きな期待がかかる一方、政争によって失脚死した長屋王の呪いや、蘇我入鹿の怨念やら、あれたこれやの恨みつらみが集中します。

まあ、思い込みにすぎないのですが、怨霊信仰盛んなこの時代、光明皇后たちは、自分と藤原一族を呪う首魁・蘇我入鹿を鎮魂するために、僧・行進のある策にのっかるのですが、それは法隆寺の秘密につながるもので・・という展開です。


第11巻 法隆寺の夢殿秘仏の謎、ここに完成


第11巻の構成は


第86話 創作された聖人

第87話 夢殿

第88話 世界一の大仏

第89話 怨霊封じの条件

第90話 決闘

第91話 厭魅の罪

第92話 祟りの歴史

最終話 愛情


となっていて、蘇我入鹿の鎮魂のため、法隆寺夢殿の建立が進みます。そこへ祀られるのは、大海人皇子が、父・入鹿の面影を写して彫らせたものなのですが、安置しても光明皇后の甥・藤原広嗣の反乱が起き、聖武天皇は行信を退け、自ら「大仏」の建立を決定します。


しかし、それでも地震や山火事の天災は収まらず、光明皇后は、再び行信を頼ることとなり、という展開です。ここで、明治になるまで「秘仏」となった夢殿の救世観音の秘密へと結びついていきます。


レビュアーの一言


日本の古代史を揺るがした、壮大な兄弟喧嘩もこの第11巻で完結し、ついでに、梅原猛先生が提起した法隆寺の夢殿と聖徳太子の秘密もここで解き明かされていくのですが、ここにBL風味を持ち込んだのが本書の特徴です。しかも、天智・天武の間柄だけではなく、蘇我入鹿から天智・天武、そして大友皇子までつながる三代にわたるBLにしたてたアイデアは独特ですね。

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