秀吉は「小牧長久手の戦」で家康を追い詰め、天下を制する=「信長を殺した男 日輪のデマルカシオン」1・2

2023年2月10日金曜日

信長を殺した男

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 天下統一まであと一歩のところまで進み、第六天魔王とも怖れられた織田信長を討った明智光秀を、山崎の合戦で敗北させ、その後も次々と織田家のライバルを葬って、天下を手中におさめた、日ノ本一の出世男「豊臣秀吉」の抱える「権力欲」と「心の闇」を描くのが、「信長を殺した男」の第2シリーズ「信長を殺した男 日輪のデマルカシオン」です。


今回は、その秀吉が天下を手中にしていく、光秀が討たれた後の織田家の家督相続を決める「清州会議」から、もうひとつの天下分け目の合戦といわれた「小牧長久手の戦」が描かれる第1巻の第2巻を総解説します。


あらすじと注目ポイント


第1巻 秀吉、柴田勝家を賤ケ岳で屠り、天下に手をかける


第1巻の構成は


第1話 深淵

第2話 葬儀

第3話 後継者

第4話 柴田勝家

第5話 賤ケ岳の戦い

第6話 天正遣欧少年使節


となっていて、冒頭の朝鮮出兵の際、秀吉の最終の仮想敵が、明・ルソン・インドを超えて、当時の世界の最強国家・スペインであったと推察されています。


秀吉は、南蛮人の往来やキリスト教の布教に咸陽だった信長と違い、禁教令や宣教師追放といった施策を実行したのですが、このあたりの思惑がどこにあったのか、このシリーズで明らかになると思われます。


で、本編のほうは、織田信長とその嫡男・信忠亡き後、その家督相続について織田家の重臣たちが協議した「清須会議」から始まります。一般的には、旧来の伝統に固執する柴田勝家が秀吉の作戦にひっかかって、お市の方の嫁入りに目が眩んで「天下の権」を失ったといった風に描かれることが多いのですが、この物語は信長の死を好機に織田への攻勢を強めようとする周囲の戦国大名を牽制するため、すべて承知の上で、会議を丸く収めたと描いています。それに対し、秀吉は着々と天下の権を手中にしていく手をうっていて、このあたりの描き方の違いは、作者の「秀吉嫌い」が出ているかもしれません。


そして、柴田勝家は武辺自慢の猪武者ではなく、新田開発や検地、道路整備を進め、「刀狩り」も秀吉に先駆けて行い、橋を務結ぶ鎖や農具に転用させた”名君”として描かれています。行政手腕や交渉能力、戦の作戦指揮にも優れた柴田勝家が、織田家の天下を掠め取ろうとしている秀吉への対抗策として打ち出したのが、信長の三男・神戸信孝、滝川一益。毛利元就、前征夷大将軍・足利義昭による包囲網だったのですが、これを突き崩す秀吉の「謀略」もまた見事ですね。このへんの虚々実々のかけひきは原書のほうで。


巻の後半からは、秀吉がなぜ朝鮮出兵を行ったのか、謎解きが描かれています。


この巻ではそのさわりのところまでなのですが、この当時、戦乱で捕虜とされたり、借金のために、多くの日本人がポルトガルやスペインの商人によって買い取られ、奴隷として「輸出」されていた事実は、渡邊大門さんの「倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史」に詳しいのですが、結構ショッキングな歴史事実です。


第2巻 もう一つの天下分け目の決戦「小牧長久手の戦」の真相は?


第2巻の構成は


第7話 出生

第8話 地獄と光芒

第9話 初花

第10話 小牧・長久手の戦い

第11話 逆襲

第12話 悪虐の策


となっていて、冒頭では秀吉の出生の秘密が推測されています。秀吉の出生については謎の部分が多く、さらに、彼が大出世を遂げた後、様々な粉飾がされているのでなおさらわかりにくくなっているのですが、本書では、土地を持たない最下層の農民の子として生まれたことになっています。さらに、母親の「なか」は兵士相手に売春をして生活費を稼いでいた「御陣女郎」でもあった、と推測していて、幼少時から生まれ故郷と言われる「中々村」では村人から差別を受けて成長したことになっています。


その彼が這い上がるために選択したのが、織田信長に仕えるという途で、これは見事に賭けに成功したといえるでしょうね。


巻の中ほどでは、もう一つの天下分け目の戦いといわれる「小牧長久手の戦」が描かれます。この当時、服部半蔵の手助けによる伊賀越えによって三河に帰り着いていた徳川家康は、援軍の延期によって明智光秀を見殺しにしてしまった(このあたりの経緯は「信長を殺した男」第8巻を参照してくださいね)負い目を払拭するかのように、旧武田領を蚕食し、後北条との同盟を結び、秀吉への対決の準備を進めています。


まあ、このあたりは、光秀への義理立てとみるか、家康の領土拡張欲とみるかは判断の分かれるところでしょう。


まあ、なんにせよ天下の支配権を巡って、豊臣秀吉と織田一族+徳川家康との決戦が展開されたのが「小牧長久手の戦」なのですが、同時並行的に、大雨災害や、大地震による混乱も起きていて、兵力だけでは戦の帰趨が読めない状況となっています。


このあたり、本巻では、戦の当事者である徳川家康、豊臣秀吉、織田信雄によって語らせることによって、戦の本当の姿を描きだそうとするのですが、そこで出現するのは、豊臣秀吉の壮大かつ冷酷な作戦で、彼がいままで行ってきた、鳥取の餓え殺し、高松の水攻めなどの集大成ともいえる奇策なのですが、その内容については原書のほうで。


レビュアーの一言


本書では、小牧長久手の戦の前期、家康は本願寺勢、紀州・根来勢、伊賀・大和の服部一族、四国の長宗我部元親、中国の毛利輝元による包囲網を築いて、秀吉を追い詰めていくのですが、森長可・池田恒興の討ち死に後、巻き返しを図り、長宗我部勢や毛利勢の動きを止めて、戦況を逆転していくのですが、関ケ原の戦のときと同様、毛利勢で戦局が大きくかわっているように思えます。


天下分け目の戦の帰趨を毛利勢が握っていたともいえるのですが、最終的には中國地方の大領を失い、周防・長門に押し込められたことを考えると、その力を存分に発揮した一族とはいえないかもしれんですね。一族の輝きの頂点は、やはり毛利元就のところであったような気がします。

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