古代史最大の兄弟喧嘩「中大兄と大海人の抗争」開始=「天智と天武ー新説・日本書紀ー」1・2

2023年2月18日土曜日

歴史コミック

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 飛鳥王朝を揺るがした古代日本史上最大の暗殺事件「大化の改新」、天皇の実弟と息子が政権を争って戦った古代日本最大の内乱「壬申の乱」。その二つの大事件の重要人物が、古代日本をリードし、日本の「原型」をつくりあげた「中大兄皇子(天智天皇)」と「大海人皇子(天武天皇)」です。


しかし、天智天皇の死因や大化の改新の功臣で貴族政治の中心となった藤原氏の祖・中臣鎌足の素性に不明なところもあったり、主役の天武天皇にも、天智天皇の弟ではなかったという説もあるなど、歴史的な大事件にもかかわらず、謎が多すぎる事件です。


中大兄皇子、大海人皇子が巻き起こした日本を揺るがした壮大な「兄弟喧嘩」を描いたシリーズが『園村昌弘・中村真理子「天智と天武ー新説・日本書紀ー」(ビッグコミックス)」』です。


今回は蘇我入鹿の暗殺された「乙巳の変」から大海人皇子が登場する第1巻から第2巻をレビューいたします。


あらすじと注目ポイント


第1巻 蘇我入鹿暗殺から5年後、息子の大海人、中大兄の前へ現る


第1巻の構成は


第1話 救世観音

第2話 乙巳の変

第3話 日本書記

第4話 鹿狩り

第5話 塩

第6話 入鹿の霊

第7話 石川麻呂の最期

第8話 兄弟再会

連載開始記念鼎談:怨霊こそが真実を語る


となっていて、冒頭では、明治期、秘仏とされていて厨子を開けば祟りがあると言われていた法隆寺夢殿の「救世観音」を見ようとするフェノロサと岡倉天心の姿が描かれます。


法隆寺の救世観音は、一説には聖徳太子の怨霊を鎮めるために造られたという推論があるのですが、そのわりには普通は後ろに立てた支柱で支えられている光背が頭に直に打ち付けられているというひどい扱いも受けていて、謎が多い仏様ですね。この秘密についてはシリーズの終盤で明らかになるので、そこまで待っておきましょう。


物語の本編のほうは、国立の学堂で、中大兄皇子と政治談義「蘇我入鹿」の姿から始まります。いずれ天皇となる中大兄皇子と当時の政治・文化の実検を握っていた蘇我本宗家の跡取りの会話は将来の日本の方向性が伺い知れるものなのですが、ここに朝鮮半島の新羅と百済の王子、特に百済の王子・豊璋が絡んできたことと、入鹿が当時の天皇の后。宝皇女のお気に入りだったことが、後の大化の改新の入鹿暗殺へと結びついていきます。


史実では、蘇我入鹿を暗殺したのは中大兄皇子と中臣鎌足のはずであったのですが、このシリーズではちょっと違った仕掛けが設定されています。


そしてこの事件から5年後、中大兄皇子と随従する豊璋の前に、蘇我入鹿そっくりの「大海人」と名のる若者が現れることから本格的にスタートします。彼は実は蘇我入鹿と中大兄の母・宝皇女との間の子供で、入鹿暗殺時に行方のわからなくなっていた「月皇子」の成長した姿です。


巻の後半で、彼は中大兄皇子と蘇我遠智娘の子供である太田皇女から、彼女の祖父・蘇我石川麻呂殺害の首謀者である豊璋への復讐を依頼されます。彼女の頼みを受け入れ、さらに自らの父を殺した中大兄皇子への復讐を果たすため、大海人は中大兄の従者として潜り込むこととなります。


第2巻 中大兄皇子は、現帝を旧都に置き去りにしに、力をみせつける


第2巻の構成は


第9話 月皇子

第10話 豊璋の泣き所

第11話 定恵入唐

第12話 孝徳帝の決意

第13話 大見得

第14話 孝徳置き去り

第15話 皇位継承者

第16話 重祚の条件

第17話 狂心の渠


となっていて、冒頭のところでは、父・入鹿の殺された乙巳の変で、どうやって大海人(月皇子)が蘇我毛人の屋敷から脱出し、現在まで行方をくらまして難を逃れていたかがわかります。大海人皇子は「多胡弥」という忍者を手下を使っていたほか、自らも忍者の祖であったという説があるのですが、この潜伏生活に秘密があるようです。


この時の宮中の政治情勢をみると、親百済派である中大兄皇子と百済王子・豊璋に対し、現天皇の孝徳帝は、親新羅・親唐派であるらしく外交政策が二分されているようです。


中大兄は、もともとは自らが擁立した帝でありながら、自分の外交方針に逆らう帝がじゃまになり、彼を除く陰謀を企み始めるのですが、それとセットで、かつて孝徳帝の愛妾であったことから、孝徳帝の血筋ではという疑いのある豊璋の息子・真人も邪魔になり始めています。この真人の保護に乗り出すのが、大海人皇子で、あちこちに布石を置いていく、彼の深謀遠慮が伺えます。


そして、遣唐使船廃止や新羅王子追放といった、中大兄皇子の百済よりの政策提言をことごとく棄却する孝徳帝に対し、中大兄皇子がとった強硬手段は、現在の難波宮から、飛鳥へ都を遷すというもので、彼は入鹿を暗殺した「剣」の力も背景にしながら、この策を成功裏に進め、民衆や廷臣のほとんどを引きつれて引っ越しし、孝徳帝を難波宮に置き去りにして自らの勢力を誇示します。


しかし、この強引さが次の皇位継承争いにはマイナスに作用することとなるのは、唯我独尊が目立つ中大兄皇子の欠点が見えるところです。


もっとも、ここで転んでしまわないのが中大兄皇子のスゴイところで、無理に即位しようとすれば、廷臣や豪族たちの反発を招き、対抗馬である孝徳帝の息子の有馬皇子を利するだけ、と判断した彼は、誰も想像しなかった奇策を繰り出してくるのですが、それは・・という展開で、ここは原書のほうで。


ただし、この奇策によって、大海人皇子が晴れて、宝皇女の実子として皇族デビューしてしまうのは、中大兄皇子も想定していなかったかもしれません。


レビュアーの一言


第1巻の終盤あたりで、大海人皇子が、蘇我石川麻呂が大陸渡りの仏師に、入鹿暗殺の贖罪のために依頼していた仏像製作の再開をさせるシーンが出てきます。物語的には、これが後に法隆寺の救世観音として伝わるものになっていくようです。一説には、皇位簒奪を企んでいたといわれる蘇我入鹿と、救世観音のモデルといわれる「聖徳太子」とどう関連するのかはあとのお楽しみですね。


ただ、聖徳太子のモデルとされる「厩戸王」は実在し、推古帝期の政治の中枢にいたらしい(聖徳太子の事績すべてを彼がやったことは疑わしいようですが)、ということと、入鹿が大臣として国政を担っていた皇極帝期は、天皇家と豪族たちとの勢力の差がなかった時代であるのと、皇極帝の第一皇子は別にいて、中大兄皇子は第二皇子であったことを考えると、入鹿の専横を止めるためというより、本シリーズで推測するように、中大兄皇子が政治権力を握るための、実質的なクーデターとして解釈したほうがよさそうです。


ちなみに第一皇子であった古人大兄皇子は、謀反の疑いをかけられ、中大兄皇子によって攻め滅ぼされていますね。



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