軍事国家の型破り軍人、軍事後進国の士官学校を鍛えなおす=「軍靴のバルツァー」1・2(バンチコミックス)

2023年4月3日月曜日

軍靴のバルツァー

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 時代的には19世紀の帝国主義まっさかりの頃、こちらの世界でいうとヨーロッパ大陸の北東部に位置する軍事国家・ヴァイセンの軍人「ベルント・バルツァー」が隣国「バーゼルランド」へ軍事顧問として派遣され、大陸の強国と弱小国の間で繰り広げられる戦争と謀略に巻き込まれながら士官学校生徒とともに国際政治の中心に乗り出していく、異世界戦争物語が『中島三千恒「軍靴のバルツァー」(バンチコミックス)』シリーズ。


今回はバルツァーが隣国バーゼルランドに派遣され、その地歩を固めていく、シリーズ発端の第1巻と第2巻をレビューします。


あらすじと注目ポイント


第1巻 軍国の型破り軍人・バルツァーが軍事後進国バーゼルランドへ派遣された理由は?


第1巻の収録は


第1話 戦場の華

第2話 嫌われ者

第3話 実践

第4話 暗雲たつ


となっていて、冒頭では強力な軍隊が大きな発言力を持っている軍事国家・ヴァイセンで、祖国の度重なる侵略戦争で功績をあげ、順調に出世コースを歩んでいるヴァイセン陸軍の少佐・ベルント・バルツァーが隣国「バーゼルランド」の軍事顧問兼士官学校教官として派遣されるところから始まります。この国は、50年前にこの大陸にあった大きな帝国内でおきた「諸国民戦争」という各国の独立戦争で分邦し、それ以後、戦争に巻き込まれることも他国へ侵攻することもなく発展してきています。このためか、士官学校も、騎兵・歩兵・砲兵という兵種ごとに身分の違いが残っているうえに、装備している武器も旧式なものが多いという状況です。


さらに以前起きた市民デモの鎮圧で誤射があったことから、砲科の演習でも実弾の発射は市民感情を考慮して行わない、というアゲインストの状況に、あえて自分の着任祝いに祝砲を発射させるという暴挙に出て、市民を刺激します。


案の定、士官学校へ抗議すす市民が押し寄せ、人気のある騎兵科の生徒がなだめに入ってケガをするのですが、バルツァーはそれを逆手にとって、押し寄せた市民を恫喝します。彼は、その騒ぎを誘導している者たちがいることを見抜いていて・・という展開です。


とはいっても、扇動者の正体を掴むところまでで、それ以上の行動を起こさないのは、何か別の魂胆が隠れているようですね。


そして、歩兵科の装備品が古いマスケット銃で、鞭と脅しで教練する古臭いやり方をみて、指導教官にいちゃもんをつけるのですが、なんとその教官が、バーゼルランド王室の第二王子であることが判明します。王族への無礼な態度と、バルツァーの主張する歩兵の訓練理論を証明するため、最新鋭のボルトアクション・ライフルと5人の囚人上がりの兵士を指揮して、彼らに向かってくる50人の囚人部隊を迎撃するという勝負に追い込まれるのですが・・という展開です。


最後のところでは、バルツァーの軍事指揮官としての才能が垣間見えるとともに、第二王子・アウグストの王室内での微妙な立場と、バルツァーをバーゼルランドへ派遣した祖国・ヴァイセンの”大人の事情”が明らかになります。


第2巻 バルツァーは士官学校生徒を率いて労働者デモ鎮圧に向かう


第2巻の収録は


第6話 志

第7話 旧知

第8話 深謀

第9話 索敵

第10話 初陣


となっていて、冒頭では、前巻の最後で囚人部隊を撃退したバルツァーは生徒たちの恐怖の的となるのですが、これに怖じずに彼の近くにやってくる歩兵科と砲兵科の生徒を使った徐々に学校の中に浸透していきます。実は、この士官学校、騎兵科=貴族の子弟、砲兵科=資本家・街の商工業者の子弟、歩兵科=農民の次男・三男、貧困層の子供、という構成になっていて、歩兵科に貧しい階級の子供を入学させたのも、第二王子・アウグストの意向です。さらに、アウグストは砲兵科の首席・ディーターの実家の兵器工場を買収するのですが、そこには彼のある決意が隠れていて・・という筋立てです。


第二話では、ヴァイセン製品の不買運動を扇動している男たちを痛めつけたバルツァーが逆に警察に拘留されてしまいます。そこから釈放させてくれたのが、バルツァーの旧友で、元ヴァイセン国陸軍第二近衛連隊長、現在はバーゼルランド第一王子フランツの側近となっている「リープクネヒト」です。


彼と出会ったことから、バルツァーの過去、ヴァイセンでおきた青年将校のクーデター事件で彼が果たした「黒歴史」が明らかになっていきます。


後半部分では、砲兵科の優等生・ディーダの実家の兵器工場・シュトルツ鉄鋼を中心に大規模な武装デモがおき、士官学校の生徒たちも動員されて鎮圧に向かいます。


ディーダの父親でシュトルツ鉄鋼の社長は経営の窮状を政府に訴えるだけのつもりだったようですが、外部の反動勢力に入り込まれ、アウグスト王子の工場買収に始まる「工業の軍国化」への反対をスローガンとする武力闘争へと変化していっています。


この動きは労働者たちの自発的なものとも思えないのですが、この裏で糸を操っている者の正体は次巻以降のお楽しみですね。しかも、創部している武器が、士官学校のものをはるかに凌駕する最新鋭のものであることから、このデモ隊を誘導しているのが、プロのデモ集団であることが想像されます。バルツァーは戦闘に不慣れな士官学校生徒を使って、どういう戦いをみせるのか・・という展開です。


レビュアーの一言


第1巻でバルツァーから旧式装備の典型であるように扱われている「マスケット銃」(「マスケット」が「銃」という意味らしいので、正確には「マスケット」でいいようですが)は、16世紀に開発され、19世紀前半まで長く使われた、銃身にライフリングの施されていない、先込式の滑腔式の歩兵銃です。弾丸の形は通常、球形なのですがいびつなものが多く、火薬が黒色火薬であるせいか発射の際に煙とガスをあたりにまき散らし、点火までに時間がかかり、点火の衝撃で照準が狂いがち、という、現代から見ると出来のよくない銃であったようです。


一説には命中精度では弓矢に劣る、という話もありますが、弓矢と違って、射撃主の養成が容易だったので、専業軍人の少ない、国民皆兵時代初期には便利な兵器であったようです。


さらに、銃弾だけでなく、たいていのものが弾がわりに発射でき、タバコの吸い殻を束ねたものも至近距離からの発射であれば殺傷能力を有した、という実験結果もあるようです。

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