新九郎は、ようやく「申次衆」となり、プータロー脱出=ゆうきまさみ「新九郎奔る!」13(小学館)

2023年5月9日火曜日

新九郎奔る!

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 戦国時代の「下剋上」の典型として、堀越公方足利政知の息子・茶々丸を攻め滅ぼして「伊豆」を我が物にしたのを皮切りに、関東管領の上杉氏の家臣から小田原城を奪い取り、その後、相模国を領土とし、戦国大名の魁といわれる「北条早雲」の若き頃の姿を描く『ゆうきまさみ「新九郎奔る!」(小学館)』シリーズの第13弾。


前巻までで、関東で勢いをはる太田道灌や彼が仕える扇谷上杉となんとか調整して、七年後の新九郎の姉・伊都の子・龍王丸の今川家の家督相続をかち取った新九郎なのですが、当人は、大御所・足利義政の怒りが解けないままで無職状態のまま、借金だけが嵩んでいっています。


今巻では、ようやく仕官の道が開け、新九郎の幕府への正式デビューとなる一方で、対立の激しかった関東の情勢が融和に向かって動いていきます。


あらすじと注目ポイント


第13巻の構成は


第八十話 利息で食う男

第八十一話 不本意な徳政

第八十二話 都鄙和睦 その1

第八十三話 都鄙和睦 その2

第八十四話 新九郎、就職す! その1

第八十五話 新九郎、就職す! その2

第八十六話 新九郎、就職す! その3


となっていて、冒頭では、弟・弥次郎から伊勢備前守家の多額の借金について詰問されている新九郎の姿から始まります。


新九郎が当主を務める伊勢備前守家は、備中岡山の東荏原に領地を有するとはいえ、現在の新九郎は無職状態ですし、姉の伊都の子・龍王丸に駿河守護の今川家の家督を相続させるための工作資金も必要で、さらには、父の伊勢守定が当主の時は領国経営を兄・盛景に丸投げの状態だったのですから借金は嵩むのも無理はない、といえます。


ただ、この状態になっても、新九郎は弟・弥次郎が一門の別の家へ養子に入るのを渋ったり、この当時、借金の多かった武家がすがった徳政令を申請するのをためらったり、と相変わらずの煮え切らない状態を続けています。


ただ、さんざん渋った末に、弥次郎に他家を継がせ、従兄の盛頼から金を借りて分一徳政を申請する元手を工面することとなります。このあたりは、戦国で一・二を争う梟雄といわれた北条早雲の「欠片」も感じさせないところですね。


本シリーズでは、盛頼に土倉からかりている借財の一括返済用に担保として東荏原の高越山城と周辺の田畑、そして利息として備蓄米の売却益を出して借金し、このほかに東荏原の管理権を担保に、三百貫の金を借りています。新九郎は、東荏原の所領を離れ、伊豆へと本拠を移していくのですがこのあたりに理由がありそうな気がします。


一方、関東のほうでは堀越公方・足利政知に子が生まれ、茶々丸と命名されています。このシリーズでは、後に彼によって堀越公方の座を争って殺される弟・潤童子は、双子の兄という設定になっています。後に新九郎が、堀越公方を名乗る、この茶々丸を襲撃して伊豆支配の基礎を築いたのが後北条氏の始まりといっていいですね。


さらに、関東を実質的に仕切っている太田道灌が、扇谷上杉定正を唆して、関東管領の座を奪わせ、最後は上杉氏を乗っ取ろうと企んでいるという噂が流れたり、大御所・足利義政と対立関係にあった古河公方・足利成氏との間に和睦の動きが出るなど、関東の情勢が大きく変化していっています。ここでは、裏で糸を引いている、細川家の若当主・細川政元のフィクサーぶりに注目しておいたほうがよさそうです。


そうした中、後半部分では、大御所・足利義政と、将軍・足利義尚との関係が微妙になっていく隙間を埋めるかのように、新九郎が将軍付きの「申次衆」への登用が決まります。新九郎は幼い頃からの関係で、将軍・義尚のお気に入りなので、やる気に逸って暴走の傾向のある魏尚の抑え役としての役割が期待されてのことだと思われます。


「申次衆」となれば、陳情に訪れる守護や有力者たちの取次をしたときのお礼であるとか、将軍への対面に便宜を図ってもらうためのつけ届けで、新九郎の家の財政も相当改善されることとなると思われますね。


レビュアーの一言


新九郎が自家の借金をなんとかするための従兄の盛景から金を借りて申請した「分一徳政」とは、借金の10分の1ないしは5分の1の手数料(分一銭)を条件に、債権の保全か帳消しを認めたもので、もともとは一揆によって発せられた徳政令の例外として分一銭を納めれば債権を保全するというものであったようですが、後には、債権の帳消しの方法として多用されることになったようです。

金を貸していた土倉や酒屋にとっては、借金をしている農民や武士が幕府に一割の手数料を払うことで、借金が帳消しになるのですから何の得にもならないのですが、武力をもつ幕府には逆らえないのと、土一揆を放置されて店や屋敷を破壊された上に略奪にあうよりはまし、というところなのでしょうか。

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