現地の揉め事を「地政学」でスパッと解決する女性コンサルタント登場=「紛争でしたら八田まで」1・2(モーニングKC)

2023年5月3日水曜日

紛争でしたら八田まで

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 目まぐるしく動く国際情勢や、他国人にはわからない民族対立が原因でおこる様々な揉め事を、「地政学」的知識と、無鉄砲な行動力+プロレス技で解決していくリスク・コンサルタントの「八田百合」の活躍を描く、紛争解決マンガ・シリーズ「紛争でしたら八田まで」(モーニングコミックス)の第1巻と第2巻をご紹介。


あらすじと注目ポイント


第1巻 地政学コンサル・八田百合は、ミャンマーの民族対立に巻き込まれる


第1巻の収録は


第1話 八田百合

第2話 ミャンマー 企業紛争編①

第3話 ミャンマー 企業紛争編②

第4話 ミャンマー 企業紛争編【完結】

第5話 タンザニア 魔女狩り騒乱編①

第6話 タンザニア 魔女狩り騒乱編②

第7話 タンザニア 魔女狩り騒乱編③


となっていて、冒頭の第一話ではイギリスのバーミンガムで、ビールの製造過程で増殖した酵母とセロリエキスやスパイスを入れて瓶詰した、イギリス連邦諸国では国民食ともいわれているが、日本人からは臭くてまずいという説もある「マーマイト」をたっぷり塗ったパンをかじりながらストリートを歩く本シリーズの主人公「八田百合」の姿から始まります。


彼女の素性は、後巻でだんだんと明らかになっていくのですが、ここで少し  ネタバレしておくと、日本人の母親と中国系シンガポール人の父親のハーフで、シンガポールのハイスクールを卒業後、イギリスに国費留学したものの母国シンガポールには帰国せず、イギリスの「セント・ポール・アシスタンス」(S・P・A)というコンサル会社に就職。現在はS・P・Aを退社しながらも、そこからの依頼を受けて、フリーの地政学コンサルタントとして世界各地を飛び回って、現地の揉め事を、現地の政治・経済・宗教・軍事などの広範な知識と地政学的な分析で解決するのを仕事にしています。


登場話でも、インド人の少年が経営者の父親の代理でバーテンダーをしているパブで、アイルランド人失業者とのトラブルに、しっかりと巻き込まれています。


紛争解決のお仕事の一番目は「ミャンマー」に進出している日系のメーカー企業が直面している、従業員のデモ活動の解決。現地に八田が出向くと、ちょうど座り込みデモの最中で、そのうちの社長直属の部下で優良な従業員であったサイホムに社長が声をかけると、現地語で「賃金の問題ではない。あなたは理解できない」という返答が返ってきます。そして、ストライキ・デモをしている従業員に、同じ工場の従業員が、「シャン族はでていけ」とスト破りをしかけてきて現場は大混乱となり、という展開です。


この後、街の路上で、同じ工場の従業員たちから襲撃を受けるサイホムを八田が救い出すと、彼から「彼らはカレン族だから」という返答が返ってきます。


民族の本拠地から考えると、この工場にわざわざカレン族が働きにくるはずはないのですが、という筋立てです。


工場内に従業員の対立と見えて、実は、根深い民族対立に根差している、といったあたりは、一般の日本人には見えずらいところですね。


さらに、この話の裏には、2015年におきたミャンマーの民主化の影響があるのですが、軍部が2021年にクーデターを起こし、中国政府が支援している現在では、ちょっと情勢が変わって見えるもかもしれません。


後半部分はタンザニアで診療所を運営している日本人医師の妻・ジョイスが拉致された事件の解決です。その妻は、現地の金鉱山を所有していた有力者の娘で、最近、父の死によって鉱山の所有権を相続していて、夫と鉱山の共同経営者の、死んだ有力者の弟が捜索を依頼してきたのですが、呪術がまだ信じられている村で、先進的だった父親のおかげで、ジョイスは「魔女認定」されてしまっているという状況です。


一見、迷信深い地域での進歩派住民の拉致事件と見えるのですが、八田は、村の呪術師が、若い青年で、ジョイスの幼馴染である上に、ジョイスを拉致した一団が、タンザニアの公用語であるスワヒリ語ではなく、隣国のルワンダ語を話していたことから、陰のなにか別の企みがあると見抜いて・・という展開です。


第2巻 百合はブレクジットが原因のパブのケンカ騒動に巻き込まれる


第2巻の構成は


第8話 タンザニア 魔女狩り騒乱編④

第9話 タンザニア 魔女狩り騒乱編【完結】

第10話 八田百合の日常

第11話 イギリス 酒場で酔狂乱闘編①

第12話 イギリス 酒場で酔狂乱闘編②

第13話 イギリス 酒場で酔狂乱闘編③

第14話 イギリス 酒場で酔狂乱闘編【完結】

第15話 ウクライナ 愛と暴力と資金提供篇①

第16話 ウクライナ 愛と暴力と資金提供篇②


となっていて、前半部分は、前巻のタンザニアでの揉め事の解決編です。


ジョイスが監禁されていた呪術師のヤングMの屋敷に、黒幕に雇われたルワンダの傭兵が襲撃してくるのですが、彼らの動きをとめる百合の作戦は、「フツ族とツチ族のエピソードを使う」なのですが、これはルワンダの黒歴史を利用した反則技に近いですね。


ちなみに、この「別の企み」をプラニングして、黒幕に伝授している人物が、後々、いろんな場面で、百合の邪魔をしてくることになりますね。


タンザニアでの医師の妻というより金鉱山の相続人拉致事件の黒幕を暴いた百合は、イギリスへ帰国し、大手パブチェーンのオーナー「トラヴィス・キング」からの仕事を請け負います。


このオーナーは、労働者階級出身である上に愛国者で知られていて、その成功物語は庶民の間で人気があったのですが、EUを離脱するブレグジット決定後、パブの従業員が移民が多いことや、株主の40%が外資であることなどが反EU派の批判の的とまり、それが原因なのか、チェーンのパブ内で乱闘騒ぎが頻発するようになっています。


百合は「トラヴィス」が、反EU派対策で、チェーン全店で英国酒のみ取り扱うといた方針が北アイルランド店まで対象となったことがIRAの過激派を刺激したのでは、と推測し現地へ調査にでかけるのですが、実はそこには民族的な対立ではなく、トラヴィス自身の若い頃の「裏切り」が原因であることを、犯行日がサッカー放送日であることや、乱闘で殴られた店員の名前から、隠された真実に気付くのですがそれは・・という展開です。


トラブルの原因は非常にプライベートなものだったのですが解決の方法が「階級対立」の逆用というのがイギリス的です。


後半では、百合の母校「キングス・カレッジ・ロンドン」の同級生のウクライナ人のオクサナの要請でウクライナのキエフ入りをします。時期的には、ロシアによるウクライナ侵攻以前のロシアによってクリミアが併合され、東部地域を親ロシア勢力が占拠し始めた頃の物語です。


ウクライナ編の詳細は、第3巻のレビューのほうで語りますね。


レビュアーの一言


このシリーズの特徴は、国際紛争などの知識とそれを動かしている(と思われる)地政学的な知識がたくさんでてきて、なんとなく国際事情通っぽくなれるところなのですが、それとあわせて、百合が現地で食す、特色ある民族食の数々がでてくることでしょう。


第1巻の冒頭ではマーマイトがでてくるのですが、そのほかにもミャンマー編では、川魚ナマズの面煎りスープ「モヒンガー」、ひよこ豆の粉を温水でといた「トーフヌエ」、竹蟲とコオロギ、タンザニア編では、料理用バナナを煮込んだスープ「ムトリ」、第2巻のイギリス篇では各種のペールエールやヨークシャープディングと生ソーセージを合わせた「トード・イン・ザ・ホール」、豚の血や脂身、オートミールを入れた「ブラック・プディング」などなど。


現地に行かないと食べられないものもあるようですが、新型コロナの渡航制限や外出制限が大幅緩和になった今が出かけるチャンスかもしれません。

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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