マリー・アントワネットとマリー・サンソンが出会い、革命前夜へ物語は進む=「イノサン」7~9

2023年6月24日土曜日

イノサン

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 フランス国王からの委託を受けて、パリで死刑を宣告された囚人の処刑を執り行う一族「サンソン家」の一員で、ルイ16世やマリーアントワネット、ロベスピエールなどフランス革命期の多くの有名人をはじめ300人の人間の首を刎ねた伝説の処刑人「シャルル・アンリ・サンソン」とその妹「マリー・ジョセフ・サンソン」を中心に、フランス革命を裏面からとらえた歴史コミック・シリーズ『坂本眞一「イノサン」(ヤングジャンプコミックス)』の第7弾と第9弾。


前巻までで、マリーがランスとベルサイユの処刑人「プレヴォテ・ド・ロテル」の職を引き継ぎ、オルレアン公の出した「立像斬首」の難題を見事果たし、処刑人として独り立ちする一方、シャルルはルイ16世と出会い、さらにマリー・アントワネットがフランス王家に嫁いできて、物語は革命前夜へと進んでいきます。


あらすじと注目ポイント


第7巻 シャルルはベルサイユに張られた罠を跳ね返し、マリーは王妃の警護役となる


第7巻の構成は


n°65 美しき死刑執行人

n°66 ある侯爵夫人の訴え

n°67 宮殿に棲む闇黒

n°68 正義の光

n°69 青き装束の処刑人

n°70 シャルルの自己弁論

n°71 白い嵐の予感

n°72 奇跡の花嫁

n°73 供犠の薔薇

n°74 ピカレスクの娘

n°75 ”血”の闘争


となっていて、冒頭では宮廷の昼餐会に招かれて、シャルル・サンソンがベルサイユの宮廷へやってくるところから始まります。


実はこの招待は、後のルイ16世となる「ルイ・オーギュスト」の招致ということになっているんですが、3カ月前にパリ郊外のレストランで出会い、一夜を共にしたマルレ侯爵夫人がシャルルへ身分を隠して貴族に近づいた謝罪と、今後死刑執行人とわかる印をつけて外出するよう高等法院に申し立てことを使って、シャルルをベルサイユ宮殿で臨時裁判にかけ、「ルイ・オーギュスト」の権威を失墜させようと、オルレアン公「ルイ・フィリップ」が企んだことですね。


そして、オルレアン家の家臣である近衛重騎兵隊のエティエンヌ・バルナックがマルレ侯爵夫人の代理人となり、この茶番の裁判が始まります。ここでサンソン一族が担う死刑執行の職務が貴族の称号と同じく価値のあるものだというシャルルの主張をとりあげ、エティエンヌは貴族と国王への不敬罪として死刑を求刑するのですが、シャルルの流麗な弁論に圧倒されて激高し、思わず剣を抜いてしまいます。これが彼の命を縮めてしまう原因となってしまうのですが、何が起きたかは、原書のほうで。


出世と引き換えにルイ・フィリップの企みにのったエティエンヌなのですが、思わぬ裏切りにあってしまってますね。


巻の後半は、舞台がかわってオーストリアの女帝「マリア・テレジア」の宮殿へ移ります。ここで彼女の美しい娘たちの様子が描かれるのですが、ここで姉たちが相次いで天然痘にかかって死亡したりして、フランスの王家へ嫁ぐ役目が十一女の「マリア・アントニア」へ回ってきています。このあたりで、彼女が政略結婚の役目認識もなくフランス王家へ嫁いでいったのでろうとことがうかがえます。


この無邪気なマリア・アントニア(後の王妃まりー・アントワネット)とは対照的にパリの貧民街でマリー。サンソンの従者をしていたアンドレからパンをもらっている娘「ジャンヌ・ド・ヴァロア」へと場面転換します。彼女はヴァロア家の末裔と名乗っているのですが、実家はすでに没落しているようですね。彼女は後の「王妃の首飾り事件」の重要キャストとなってきます。


そして、マリー・サンソンがオーストリアからフランスへ嫁入りするマリア・アントニアの警護を務めることとなり、アンドレを迎えにきたことから、二人のマリーとジャンヌの運命が絡み合っていくことにまなります。


第8巻 マリー・サンソンの嫁入りと引退をかけて、兄妹が決闘を始める


第8巻の構成は


n°76 星宿す花嫁

n°77 青き祝祭

n°78 王太子妃の門出

n°79 因果の刃

n°80 燻熟の叡智

n°81 天体のユリイカ

n°82 紅き本能

n°83 薔薇の誓い

n°84 清き冒涜

n°85 逆説の血族

n°86 無垢の決闘

n°87 燃える剣


となっていて、冒頭ではオーストリアからフランス国境を越えるアントワネットをマリー・サンソンがエスコートしています。ここでアントワネットはマリーの足を踏んづけてしまうのですが、このシーンはシリーズ最後のほうのアントワネット処刑のシーンの大事なポイントとなるので覚えておきましょう。


その後、ルイ・オーギュストとアントワネットは結婚初夜を迎えるのですが、史実ではここで二人の間に性交渉がなく、この原因はオーギュストの包茎のせいであったらしいのですが、本書では、彼が王政を自分の代で絶つためにアントワネットと関係をもととしなかったため、とされています。


まあ、この性的不満がアントワネットを贅沢やスキャンダルの数々に走らせ、これが王制転覆の原因の一つとなったという説もあるので、ここは結果としては同じであったということでしょうか。


ちなみに、この時にはべキューはルイ15世の公妾「デュ・バリー夫人」として宮廷内に入り込んでいるのですが、アントワネットからは無視されている状態で、いわゆる「挨拶戦争」の前哨戦が始まっています。


一方、サンソン家のほうでは、処刑人の役目を、パリは兄シャルルが統括し、ベルサイユは妹マリーが統括するとともに彼女は宮廷の護衛を務めるという二頭体制になっているのですが、マリーがアントワネットに接近し始めたことで、サンソン家が政治抗争に巻き込まれることを恐れたシャルルによって、マリーの婚姻話が進められていきます。彼女をサンソン一族の一員でグルノーブルの処刑人を務めるガスパールの妻にして、ベルサイユの処刑人「プレヴォテ・ド・ロテル」を引退させようとという魂胆ですね。


この二人の対決は「決闘」によって決せられることになるのですが、勝負の趨勢は原書のほうでお確かめください。


第9巻 挨拶戦争でアントワネットが敗北するが、マリーは「プレヴォテ・ド・ロテル」の座を守る


第9巻の構成は


n°88 家族愛

n°89 ”業”継承

n°90 鳥籠の快楽

n°91 自由と秩序

n°92 修羅の園

n°93 貫く意志

n°94 無垢な世界

n°95 妹マリーの結婚

n°96 疾風の騎士

n°97 マリーの初恋

n°98 遥かな理想

n°99 真紅の誓い


となっていて、兄妹の決闘は、兄シャルルの勝利に終わり、マリーは処刑の際に血がつくのを嫌って刈り上げていた髪を伸ばすためと理屈をつけて花嫁修業に入ります。まあ、ここには彼女のある企みが隠されていますね。


そして、ベルサイユ宮廷のほうでは、マリー・サンソンや叔母たちにそそのかされたマリー・アントワネットがデュー・バリー夫人を徹底的に無視する「挨拶戦争」が本格化しているのですが、これがルイ15世の不興を買い、フランスとオーストリアの関係が極度に悪化するとともに、ルイ・オーギュストの廃嫡騒動にまで発展していってます。


もともとルイ・オーギュストには優秀な兄ルイ・ジョセフがいて彼が将来は国王となる予定だったのですが、結核で早世したため、三男の彼が王太子となったという経緯がある上に、このころ、ルイ15世によって王権が著しく強化されたことに反発した高等法院派がデュ・バリー夫人のネガティブ・キャンペーンをはっているときだったので、とりわけナーバスになったのだと思われます。


この「挨拶戦争」は1772年の新年祝賀会で、アントワネットがデュ・バリー夫人に「今日はたいへんな人出ですね」という一言をかけたことで終結します。デュ・バリー夫人は性格は明るく、気立ても良い女性で、宮廷の人気も高かったようなので、アントワネットも無視し続けることは難しかったのでしょうね。


そして、この挨拶戦争でのアントワネットの敗北を見届けたマリーは、兄によっていよいよグルノーブルの処刑人と結婚させられることになるのですが、土壇場で、かつてルイ15世の暗殺の嫌疑をかけられたダミアンの八つ裂き刑のショックで修道士となっていた叔父二コラと組んで、一発逆転の離れ業を仕掛け、「プレヴォテ・ド・ロテル」の座を維持することに成功します。この事件以来、この兄妹の対立が始まっていきます。


後半部分では、サンソン家からの独立を果たしたマリーと、幼馴染であるカリブ海の農園主「アラン・ベルナール」との再会物語が描かれています。このアランの死が、マリーを「革命」の道へと導いていくことになるのですが、詳しくは原書と次シリーズ「イノサン・Rouge」で。


レビュアーの一言


第8巻の兄シャルルと妹マリーの決闘の場面で、マリーの立会人として登場する女装の騎士「シュヴァリエ・デオン」は実在の人物で、ルイ15世直属のスパイ機関に所属して、ロシア王室に潜入して女帝エリザヴェータ付きの女官となり、ロシア内の反ハプスブルグ・親フランス工作を行ったり、ロンドンへ特命全権大使となって派遣され、情報収集活動を行っています。


彼は竜騎兵の制服をいつも着ていたのですが、女性ではないかといううわさが絶えず、自伝では彼自身が女性として生まれたが、父親が財産相続のために男性として育てたんもだ、と主張しています。「軍靴のバルツァー」の女性騎兵「ヘルムート」みたいな設定ですね。


彼は生涯の前半を男性の姿で、後半を女性の姿でおくったのですが、死後、解剖した結果では、身体形状的には男性であったことが判明しているので、いわゆる性同一性障害であったのでしょうね。


ちなみに、マリー・アントワネットは、いつも軍服姿でいるデオンに同情して、当時の流行の最先端をいくモード商・ローズ・ベルタンのデザインしたドレスを贈ったことがあるそうです。

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