ピサのメディチ工場の放火犯は意外にも身内のフィオレンティーナ=惣領冬実「チェーザレ」6・7(モーニングKC)

2023年6月6日火曜日

歴史コミック

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 どんな手段や非道徳的な行為であっても、結果として国家の利益を増進させるのであれな許されるという「マキャベリズム(権謀術数主義)」を唱えた、イタリア・ルネサンス期の政治思想家であるニッコロ・マキャベリから、「理想の君主」と讃えられながら、志半ばで戦乱に斃れたチェーザレ・ボルジアの半生を描いたシリーズ『惣領冬実「チェーザレ」(モーニングKC)』の第6巻から第7巻まで。


前巻ではピサ校恒例の十字軍を模した模擬戦で甲冑と馬鎧で武装した重装備のフランス団を、軽装備のスペイン団で撃破したチェーザレだったのですが、最後にフランス団のアンリとの一騎打ちで彼の強撃で負傷してしまいます。今回は大きな政治的な動きはないものの、ピサの工場放火の意外な犯人が浮かび上がってきます。


あらすじと注目ポイント


第6巻 メディチ工場の放火犯は意外にも身内?


第6巻の構成は


Virtù45 不協和音

Virtù46 背後の敵

Virtù47 それぞれの闇

Virtù48 主よ、願わくば魂を

Virtù49 アランチャ

Virtù50 二人のホアン

Virtù51 ささやかな自負

Virtù52 憧憬

Virtù53 盟友


となっていて、冒頭では前巻での模擬戦でフランス団のアンリからうけた強撃はかなりのもので、ロドリーゴ・ボルジアからピサでのお目付け役として派遣されているフランチェスコはチェーザレを諫めるのですが、チェーザレは意に介しません。チェーザレはのちに教皇の裏切りによって没落することになるのですが、自分を頼むことが大きすぎるという悪弊がその時まで続いていたせいかもしれません。


一方、アンジェロのほうは、フィレンツェ出身者たちと水浴びに来ているのですが、その際に親友のロベルトの肩に新しい火傷の跡を見つけます。メディチ家の工場の放火した犯人も肩に火傷を負っているはずで、アンジェロの心に、ロベルトに対する疑惑が生じた瞬間です。


そして、その夜に開かれた模擬戦の「以南軍」の祝勝会の席で、ロベルトから近くの建物に呼び出されたアンジェロは、彼から放火したのは自分だと告白された上に命を狙われます。そこに現れたのがチェーザレで、という予測どおりの展開なのですが、実は放火の黒幕は別にいて、と予測以上の展開をしていきます。


このことで、ジョヴァンニ・ド・メディチは二人の側近を失ってしまうことになるのですが、事件の真相は原書のほうで。


中程では、ローマのボルジア邸でチェーザレの武勇伝に苛立つ父のロドリーゴ・ボルジアなのですが、妹のクレツィアはブラコンのままです。しかし、弟のホアンはチェーザレへの批判を隠そうとしたいません。ここらが、後にホアン暗殺の黒幕としてチェーザレが疑われる因となるような気がします。さらに、ホアンと義姉のジュリアとの反目も明らかになっていて、あいかわらずボルジア家の中は腹の探りあいと対立の巣窟ですね。


後半にかけては、チェーザレに影のように付き従い、彼を護衛するとともに、良き助言者でもある「ミゲル」とチェーザレとの出会いと今までが語られます。


ミゲルは「ユダヤ人」で本来ならチェーザレの側近になれる境遇ではないのですが、そのあたりには父・ロドリーゴの考えが入っていそうです。


第7巻 カノッサの屈辱とダンテの故事からチェーザレの理想を垣間見る


第7巻の構成は


Virtù54 聖夜

Virtù55 問う者

Virtù56 二つの太陽

Virtù57 カノッサ

Virtù58 向かい合う者

Virtù59 王座に座る者

Virtù60 神の望む者

Virtù61 機知と精神


となっていて、冒頭ではクリスマスの聖夜のミサの様子が描かれているのですが、忠実な従者と思っていたドラギニャッツオに裏切られたショックが隠せないジュリアーノ・メディチがいるせいかしんみりした雰囲気のピサに対し、ローマの教皇庁ではロドリーゴ・ボルジア枢機卿とローヴェレ枢機卿の権力闘争がミサの主宰をめぐって表面化しています。


この当時、もっとも政治化した場所であったヴァチカンらしい光景ですね。


そして後半部分は、ピサ大聖堂に祀られているハインリヒ四世の墓碑を前にしてチェーザレと従兄弟のホアン・ボルジアとが、カノッサの屈辱の真相や、その二百年後、神曲の作者・ダンテが神聖ローマ帝国皇帝・ハインリヒ七世に託した「皇帝至上」の体制などについて語られます。


この歴史譚を通じて、チェーザレが目指している世界がどんなものか、その一端が伺い知れることとなりますが、詳しくは原書で。


レビュアーの一言


今回、ピサの工場を放火した黒幕は、ジョヴァンニの幼い頃からの側近で、メディチ家の係累の人物であることがわかるのですが、彼が犯行に手を染めたのは。彼が「庶子」で財産の相続などができず不満をかこっていたことが原因です。庶子であることはチェーザレも同じなのですが、貴族の聖職者の庶子と一般階級の庶子では大きな違いがあるように言っています。


当時、非嫡出子も「自由人」であることは法律上は認められるようになっていたのですが、「相続」に関しては相続権はないものとする見解が多数だったようですね。ただ、養子縁組をすれば認められた、とか実質的な占有をして周りから反対が出なければOKとかいろいろ抜け道はあったようです。

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