新九郎は妻を迎え、関東の巨星・道灌、堕つ=「新九郎奔る!」14

2023年10月28日土曜日

新九郎奔る!

t f B! P L

 戦国時代の「下剋上」の典型として、堀越公方足利政知の息子・茶々丸を攻め滅ぼして「伊豆」を我が物にしたのを皮切りに、関東管領の上杉氏の家臣から小田原城を奪い取り、その後、相模国を領土とし、戦国大名の魁といわれる「北条早雲」の若き頃の姿を描く『ゆうきまさみ「新九郎奔る!」(小学館)』シリーズの第14弾。


前巻で、幕府+鎌倉公方と古河公方の長期間の対立も、両者がそれぞれ痛み分けする格好で鎮まり、さらに大御所・足利義政の怒りもおさまって、ようやく、将軍・義尚の申次衆に就くことのできた新九郎なのですが、義政と義尚の対立が深まるとともに、東国の情勢も大きく乱れてくるのが今巻です。


あらすじと注目ポイント


14巻の構成は


第八十七話 奥方は18歳 その1

第八十八話 奥方は18歳 その2

第八十九話 文明十七年の動乱 その1

第九十話  文明十七年の動乱 その2

第九十一話 和睦の傷痕 その1

第九十二話 和睦の傷痕 その2

第九十三話 当方滅亡


となっていて、冒頭では出所している新九郎が、将軍・義尚の近習・広沢尚正に将軍の元へ出頭するよう命じられるところから始まります。

「広沢」という姓は、足利本宗家の初代・足利義康の孫・広沢義実に由来する名門なのですが、彼はそれとは血筋的には関係なく、男色の相手として寵愛していた尚正を足利一族として取り立てるため、広沢を名乗らせたもので、もともとは観世流の猿楽師の出身ですね。


その出身のせいで、幕府内の武士たちは彼を嫌う者も多かった、とのことですが、嫌われる理由はそれだけでなく、君主の寵愛を受けて成り上がった者の通例通り、権勢を笠に着る振る舞いが多かったと伝わっています。


彼をはじめとして寵愛する者を高い地位につけたり、女性関係もあちこちに手を付けるというより、寵愛する女性を偏愛するという彼の性向はその政治姿勢にも現れていて、これが父・義政との激しい対立を生み、幕政を二分した原因とも思われます。もっとも、院政を布いていっこうに実権を渡そうとしない、義政の態度もどうかとは思いますが・・・。

今巻では、一旦、義尚が義政を出家させ、実権をすべて握ることに成功するのですが、史実をたどると、この後、義尚の側近政治の弊害がでて、再び義政の政治権力が復活しています。


新九郎のほうは、将軍・義尚の気まぐれや広沢尚正の高飛車な振る舞いに、内心では腹をたてながらも、渋々従っているのですが、結果として、彼と将軍・義尚の女性漁り(どうやら彼らはバイ・セクシャルだったようですね)が、新九郎に妻をもたらすことになります。その詳細は原書のほうで。


新九郎の妻となる「ぬい」は天真爛漫な女性で、幕府の「弓馬師範」を務め、武家社会の規範となる故実を伝えていた家である小笠原家の出身なのですが、実家は権力闘争の面ではあまり頼りにならなかったようです。案外、これが新九郎を都での政治闘争から離れさせ、ついには伊豆への進出、そして戦国大名の誕生へと導いたのかもしれません。


なかほどでは、太田道灌を中心として均衡していた、と思われていた関東の情勢が一挙に不安定化していってます。


声望があがり、実質的な関東随一の有力者となった道灌は、主家である扇谷上杉の当主・上杉貞正を関東管領の座につけようとあれこれそそのかすのですが、これがかえって、貞正の不信を招き、さらに、道灌家の跡取りを巡って、貞正の意見を無視したことから決定的な事態を迎えることとなります。

ただ、新九郎にしてみれば、今川の家督争いの時も大きな壁となっていた「太田道灌」という存在が消えたことにより、新たな関東戦略が見えてくることになりますね。


レビュアーの一言


今巻の途中で新九郎は、取次衆の役目のための京が生活の中心となるのが続くため、統治が少々重荷になってきた東荏原の所領を買わないか、と一族の伊勢盛頼に持ちかけています。

この時はまとまらずに終わっているのですが、伊勢新九郎が、関東へ下校し、もともとの本拠地であった備中の領地を手放した種明かしを、作者はここで試みているようです。

当方は、京都務めが長くなったせいで、親族の伊勢掃部助家に乗っ取られたのでは、と考えていたのですが、ここの領地争いに執着しなかったのには、新九郎にわりきる理由があったのかもしれません。

このブログを検索

ブログ アーカイブ

ラベル

3月のライオン (7) 7人のシェイクスピア (17) etc (30) アウトドア (6) あおのたつき (9) あかね噺 (12) アサギロ (13) アド・アストラ (6) アルキメデスの大戦 (20) アルテ (9) イサック (9) イノサン (9) ヴィンランド・サガ (10) ヴラド・ドラクラ (4) キングダム (35) グルメ (12) ゴールデンカムイ (23) こざき亜衣 (5) スポーツもの (1) ちるらん (16) つぐもも (9) ハコヅメ (8) パパと親父のウチご飯 (14) ハンティング (3) ヒストリエ (11) フィッシング (7) ふしぎの国のバード (9) フラジャイル (14) プリニウス (12) ブルーピリオド (5) へうげもの (20) ベルセルク (13) ミステリと言う勿れ (8) ゆるキャン△ (12) リアル (4) ローズ・ベルタン (9) 阿・吽 (8) 医療コミック (8) 応天の門 (18) 乙嫁語り (12) 怪獣8号 (4) 鬼滅の刃 (1) 宮下英樹 (8) 宮下英樹ーセンゴク (10) 宮下英樹ーセンゴク一統記 (10) 宮下英樹ーセンゴク権兵衛 (27) 宮下英樹ーセンゴク天正記 (13) 極東事変 (2) 軍靴のバルツァー (9) 高橋葉介 (3) 高橋留美子 (2) 山と食欲と私 (11) 重版出来 (7) 諸星大二郎 (2) 信長のシェフ (33) 信長を殺した男 (9) 信長協奏曲 (6) 新九郎奔る! (15) 秦三子ーだんドーン (1) 推しの子 (5) 星野之宣 (22) 戦記もの (5) 戦国小町苦労譚 (12) 惣領冬実 (1) 葬送のフリーレン (6) 達人伝 (17) 断頭のアルカンジュ (4) 賭ケグルイ (28) 土山しげる (4) 東村アキコ (10) 卑弥呼 (15) 舞妓さんちのまかないさん (7) 紛争でしたら八田まで (7) 碧いホルスの瞳 (1) 亡国のマルグリッド (4) 忘却のサチコ (7) 幕末 (21) 満州アヘンスクワッド (9) 矢口高雄 (2) 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (10) 憂国のモリアーティ (10) 歴史コミック (56)

自己紹介

自分の写真
日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

楽天市場

ネットオフ

QooQ