中国のマキャベリ「韓非子」、スパイ疑惑の犠牲となる=原泰久「キングダム」70(ヤングジャンプコミックス)

2023年12月2日土曜日

キングダム

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 中国の春秋戦国時代の末期、戦国七雄と呼ばれる七カ国同士の攻防が続く中、中華統一を目指す秦王「嬴政」と、戦争孤児の下僕から、天下一の大将軍を目指す「信」が、ともにその夢の実現を目指していく歴史大スペクタクル『原泰久「キングダム」(ヤングジャンプコミックス)』の第70弾。


前巻で趙の将軍・李牧のしかけた壮大な「罠」に誘い込まれ、趙の北部・宜安で、秦の新・六大将軍の一人・桓騎と彼に預けられた10万余りの秦軍が壊滅させられ、旧・六大将軍の王騎が戦死した「馬陽の戦」以来の大敗北を喫し、政の中華統一もその歩を止められています。

今巻では、その敗戦から立ち直るための、国内の体制整備を行うため、韓国の公子・韓非子の招聘と、それをめぐるエピソードが描かれます。


あらすじと注目ポイント


第70巻の構成は


第758話 化かし合い

第759話 歪な国王

第760話 変わらないもの

第761話 情報戦

第762話 普通の法家

第763話 他の目的

第764話 怪物

第765話 暗い戦い

第766話 同門の友

第767話 城戸村

第768話 二人の約束


となっていて、冒頭では、法律によって国の体制を構築し、統制する法治主義を唱えた、儒教と対立する思想「法家」の第一人者である韓の公子・韓非子の招聘のため、使節団に随行する「信」の様子から始まります。


彼は使節団の一員として韓都・新鄭に入定したところで、出迎えの兵士に変装した「韓非子」から「人の本質はなんだと思う?」という問いを投げかけられます。


これは巻の中盤で、「人の本質は「善」か「悪」か」という問題について、秦王・政に若い頃から仕えている「信」に考えを聞いて、秦王の本心を探ろうという意図であることがわかります。


おそらく、この当時、趙をはじめ六国を滅ぼして版図を広げようとしている「政」の行動は、桓騎の敵兵への残虐な行為とあわせて、鬼畜の仕業とも思われているに違いなく、侵略王の典型ともいえる秦王の招きに応じて、悪魔の治世術といもいえる「法家」の思想を伝えていいかどうか悩んでの行動のようです。


そして、それに対する「信」の答えは、「善」でも「悪」でもなく、韓非子の考えを超えるもので・・という展開なのですが、その様子については原書のほうで。


ここのところはなんとなく、一休禅師の頓知問答に似たところのあるやりとりなのですが、実戦で修羅場をくぐってきた「信」と、宮殿の中で想定問答を繰り返すしかなかった「韓非子」との違いが出ているのかもしれません。


そして、「信」の答えで、「秦王・政」に興味を抱いた韓非子は招聘に応じて秦へ出向くのですが、「人の本質は善か悪か」という問いに対する政の「人の本質は光だ」という回答ですれ違ったままとなっています。

本巻では、政の「人を信じること」を政治の基本に置きたいという「政」の考えが甘いと韓非子は考えているようですね。まあ、このあたりは、その信条と桓騎など六大将軍に命じている征服戦争とのギャップが大きくて、特に敵国の出身である韓非子には信用できないことだったろう、と思われます。


しかし、この行動が韓非子にとっては悪手となります。彼と一緒に秦国へやってきていた使節団に紛れ込んでいた密偵たちが活発に秦都の様子や宮殿内の情報を収集し始め、その行動が、李斯が趙国へ忍び込ませている、彼の密偵・姚賈に見つかってしまいます。


姚賈はそのことを李斯に伝え、李斯は韓非子を尋問するのですが、ここで韓非子は姚賈に関するある重要な秘密を彼に教えるのですが・・という展開です。通史では姚賈は李斯ではなく秦王・政に仕えているのですが、ここは、あえて李斯の部下とした、ということでしょう。

この姚賈の秘密が、次巻以降で始まる「番歌の戦」での秦国の大敗北の原因の一つにもなっているような気がします。


そして、同門の人間として、韓非子の才能を高く評価する李斯は、このままでは刑死されることとなる韓非子を救おうとするのですが・・という展開です。通史では、韓非子は自分の地位が危うくなることを嫌った李斯によって投獄死させられていることになっているのですが、ここは「キングダム」なりの美しいフィクションということで。


レビュアーの一言


この巻でも、法家の大家として、母国である「韓」を強国としたいと思いながらも、母国は「儒家」一辺倒であったため、その才を用いられなかった韓非子なのですが、これは当時の「韓」の国情と国が成立した謂れがあるように思います。


当時、戦国の七雄といわれた列強の中でも「韓」は最弱で、隣国の秦国から圧迫を受け、当時は「貢物や労役を献上することは(秦の)郡県と変わらない」といわれるほど国力が低下していたので、秦の侵略行為を誘うような行動はできるだけしたくなかった、というところだったと思われます。


さらに、「韓」はその成立時、主の国「周」の有力者であった「智伯」を、趙や魏とともに滅ぼして、その領土を分け合って独立したという経緯があるので、その成り立ちの暗さを覆い隠すため、いわゆる礼儀や忠君を説く「儒教」を尊重することとなったともいえそうです。

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