紀元前3世紀、地中海をその支配下に収めつつあった強国「共和政ローマ」に反旗を翻し、ローマ史上最大最悪の苦難をもたらした、アフリカ大陸北岸にあったフェニキア国家「カルタゴ」の将軍・ハンニバルと、彼を斃し、ローマを滅亡の危機から救った救国の武将「スキピオ」の戦いを描いたローマ戦国史『カガノミハチ「アド・アストラ」(ヤングジャンプコミックスDIGITAL)』シリーズの第5弾から第6弾。
前巻3、4巻では、ローマ領内へ侵攻し、連戦連勝を続けるハンニバルに対し、「不戦戦略」をとって無駄な戦を避けつつも、ハンニバルの軍勢を削っていく作戦をとったファビウスによって、ローマ軍の勢いもなんとか回復してきたのですが、今回は、ファビウスの改選期をねらっらハンニバルのローマ国内戦略が効き始め、ローマが大敗を喫した「カンナエの戦い」へと転がっていきます。
あらすじと注目ポイント
第5巻 執政官になったヴァロはハンニバルに史上最悪の戦いを誘い出される
第5巻の構成は
第26話 嵐の前
第27話 会戦前夜
第28話 カンナエの戦い①
第29話 カンナエの戦い②
第30話 カンナエの戦い③
第31話 カンナエの戦い④
となっていて、カレネ・ゲルマニウム間の丘陵地の戦いで、主戦派のミヌキウスの失策をカバーし、ハンニバル軍を後退させたローマは、ファビウスの独裁官任期終了後の執政官選挙を迎えています。有力なのは貴族側候補者がファビウスの側近のアエミリウス、平民側がハンニバルとの決戦を主張するヴァロの二人で、当時、執政官は貴族・平民側双方が一人ずつ選出するきまりだったので、この二人が執政官になるのは間違いないのですが、問題なのは、ヴァロによりファビウスとハンニバルの内通の噂がばら撒かれたことで、ファビウス派はその影響力を失い、ヴァロの「一人天下」という状態になったことですね。
当然、この裏には、組し易い「ヴァロ」に実権を握らせておいて、その上でローマに大損害を与えよういうハンニバルの奸計が隠れているわけで、ここから先、ハンニバルの目論見通り、ローマ軍はカンナエの大敗北へつながる坂道を転がり落ちていきます。
紀元前216年、食料確保のためカンナエへ軍を進めてきたハンニバルを追ってきた執政官ヴァロとアエミリウス率いるローマ軍だったのですが、戦の最初は、ファビウスの指示を受けたアエミリウスの睨みもきいて、ヴァロもハンニバルの挑発行為にのらず静かにしています。
この均衡が崩れたのは、スキピオがアエミリウスにハンニバルがカンナエにあるオファント河を使った作戦を考えているという進言をヴァロが聞きつけたところから始まります。
ハンニバルの作戦が判明したと考えたヴァロは、罠がかならずあるはずと主張するアエミリアスとスキピオを非難し、機先を制して、ハンニバル軍への中央突破による分断と各個撃破を狙った総攻撃を開始します。
しかし、結果論からすればこれは悪手。最初、ローマ軍はヌミディア騎兵の猛攻によって騎兵はコテンコテンにやられるのですが、中央部の歩兵は、ハンニバル側のガリア・イベリア歩兵を押し込んで、むしろ後退をさせています。ミヌキウスに率いられた歩兵は。ハンニバル軍の弱点は中央部にあると思い込んで突入していくのですが、これはハンニバルの謀計。
ローマ軍はハンニバルの計画した「包囲陣」の中に誘い込まれ、反撃を始めた中央歩兵と側面から攻撃してくる騎兵+アルプス越えを経験してきた精鋭歩兵に襲いかかられます。
ここでチェックしておかないといけないのは、ヌミディア騎兵の猛攻撃に耐えかねて左翼騎兵を指揮していたヴァロが逃走していることですね。戦後、彼の処分が元老院で議論されるのですが、公職を解くという軽い処分に終わったことは、敗戦したことだけでは厳しい処分をしないローマ独特の対応ですね。
第6巻 「カンナエ」でローマ軍、大敗北。敗残兵となったスキピオはシシリアへ送られる
第6巻の構成は
第32巻 カンナエの戦い⑤
第33巻 カンナエの戦い⑥
第34巻 カンナエの戦い⑦
第35話 戦いのあと
第36話 それぞれのカンナエ
第38話 猛将
となっていて、第6巻の前半は前巻からの「カンナエの戦い」の続きです。スキピオやアエミリウスの指揮するローマ騎兵はヌミディア騎兵の妨害で本隊の救援にまわれず、ミヌキウスの指揮するローマ歩兵の本隊はハンニバルのイベリア・ガリア歩兵の追ってさらに前進を続けます。薄皮一枚で退却を続けるハンニバル側歩兵を捉えて包囲網を破る作戦那のですが、途中でイベリア・ガリア歩兵軍は歩みを止め、逆襲に転じます。ローマ歩兵に押されての退却というのは、彼らを包囲網の中に追い込むための戦術だったわけですね。
ここから、ハンニバル軍による、包囲されたローマ軍の「虐殺」といっていいような「根切り」が始まります。ローマ歩兵の前線を必死で支えるミヌキウスを助けるため、歩兵隊の後方にいたアエミリウスが前進を続け、さらに周縁部では、スキピオが後方のローマ本陣で待機している一万の待機兵に援軍の依頼に走るのですが、隊を預かる筆頭百人隊長のアッピウスは執政官からの命令がない限り塀は動かせないと拒否し・・という筋立てです。執政官の一人・ヴァロは逃走し、もう一人のアエミリウスはハンニバル軍との戦闘の真っ最中なのですから、命令を下せるはずもなく、有り体に言うと「戦闘拒否」ですね。
そして、この戦いでローマ軍は、アエミリウスとミヌキウスが戦死し、6万人以上のローマ兵も戦死。陣営に残っていた待機兵の多くも捕虜となる「大惨敗」を喫してしまいます。
しかし、大勝利をおさめたハンニバル軍のほうでも、恩賞をめぐってガリア兵たちが不満も抱え始めているとともに、この勢いでローマへ攻め上ることを進言する側近のマハルバルとハンニバルとの間で溝が深まっていて、ハンニバル側もけして安泰ではないことを示しています。
そして後半部分では、カンナエの戦いで大惨敗したため、ローマ元老院の実権が主戦派から持久戦派のファビウスに移り(といってもめぼしい主戦派はカンナエの戦いで戦死しているので、人材といえる人物は持久戦派にしかいなかった、ともいえるのですが)、敗残兵たちはシシリアに送られることとなります。スキピオも敗残兵の一人としてシシリア送りになるのですが、そこで「ローマの剣」と呼ばれた猛将・マルケルスのもとを送られたことが、彼の運命を変えていきます。
一方、スキピオの旧友・ガイウスはカンナエの戦いの前線部分で、ガリア兵に刺されて倒れていたのですが、九死に一生をえて、カンナエ近くの山間の小さな村の住人に助けられます。彼は、この一家の10年前に戦死した息子に似ているとして村に住むことを勧められます。ガイウスのほうもまんざらではなく、戦乱の続くローマを離れることを決断するのですが、これが彼のこれからの人生に大きな影響を及ぼすこととなっていきます。
レビュアーの一言
ローマ軍が大敗した「カンナエの戦い」の後、ハンニバルは側近のマハルバルの提案を退け、ローマ攻めをせず、ローマの同盟都市の離反も進まず、補給のことを考えてイタリア南部へと攻撃の目標を変えています。
本書ではその理由として、騎兵や力自慢のガリア兵の重点をおいた兵員構成で、工兵や攻城兵器といた城郭に囲まれたものをもっていないことや、ローマの周囲には多くの同盟都市群があり、ローマ攻略に時間をとられているうちに、それらから攻撃を受ける恐れがある、といったことを上げています。
ただ、後の「カプア」などの同盟都市の寝返りや、カルタゴ本国からの支援が、ハンニバルの属するバルカ家に反目する政敵たちの妨害で思うようにされなかったことを考えると、歴史の「if」は言ってはいけないことなのですが、戦後、イタリア半島の実質支配を狙ってローマを落とせないしても脅かし続けていればどうなったかな、と思うところではありますね。
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