鹿児島の出身で日本警察の基礎を築いた「川路利良」を中心人物にすえて、ペリー艦隊の来訪から安政の大獄を経て明治へ続く幕末の時代を、「ハコヅメ」の作者・泰三子が、倒幕の片翼を担った「薩摩藩」や「彦根藩」の視点から描いた幕末歴史コミック・シリーズ「だんドーン」の第3弾。
前巻での島津斉彬の死によって、一橋派はかなりの打撃をうけるのですが、本巻では井伊大老の一橋派や反対勢力への弾圧がパワーを上げ、薩摩藩にも危機が迫ります。
あらすじと注目ポイント
第3巻の構成は
第十七話 人を繋ぎ止める本質
第十八話 コスプレ逃避行
第十九話 不名誉で不衛生で不適切
第二十話 月夜の謀
第二十一話 チェスト侍
第二十二話 役者はそろった
第二十三話 圧縮上死点
第二十四話 泣こよかひっ飛ぶ男の名
第二十五話 用を下がって見えた景色
となっていて、島津斉彬公の死後、一橋派の盛り返しを図るため、「戊午の密勅」を水戸藩に届けた後が語られます。
水戸藩に勅書は届いたのですが、徳川斉昭が隠居させられた後、すっかりビビってしまった水戸藩はこれを無視します。さらに、反井伊派の学者・梅田雲浜が捕縛され、彼が隠していた同士の情報が井伊派に流れ、これをもとに、戊午の密勅の首謀者の一人である「月照」と薩摩藩の西郷隆盛を始めとする斉彬派への弾圧が始まります。川路たちは、月照と西郷を井伊大老の毒牙から護るため、変装させて薩摩へ逃亡させようとするのですが、すでに薩摩藩は斉彬と対立してきた斉彬の父・斉興が実権を取り戻していて・・という展開です。
この騒動をきっかけに、大久保一蔵(利通)が島津久光の側近として台頭してきます。当時、斉彬とは対極の保守派として捉えられていた島津久光ですが、このシリーズでは実は斉彬の方向性と合致していたように描かれています。ついでにネタバレしておくと、薩摩名産の芋焼酎は、斉彬に行っていた事業に必要な工業用アルコールの副産物として生産され、この時期急速に薩摩藩内に広まったとウンチクが語られています。
ただ、大久保や川路の努力も虚しく、西郷・月照の助命はできず、彼らがうった最終手段は、西郷ふだけは助けるという究極の選択をとらざるをえず、という筋立てです。つまり、月照は移送の途中で事故死、月照と生死をともにする予定であった西郷を無理やり引き離して奄美に隔離という作戦なのですが、井伊大老の命を受けて検死に訪れた幕吏たちの姿勢は強硬です。あくまで二人の遺体をだせと強弁する彼らに対してとった薩摩藩の行動は・・、ということで、戦に怯むことのない薩摩兵児に対し、緩んでいた幕臣が敵うわけはありませんね、この詳細は原書のほうで。
この月照の死と西郷の島流しの後、藩内はさらに沸騰します。兵を挙げようとしない上層部に反発し、有馬新七を筆頭とする急進派は、脱藩してでも京へ上るべきと主張し、藩が二分されようとします。ここで川路と小松帯刀が打った手は、国父である島津久光を担ぎだすことで、なんとか急進派の若手武士を鎮めるのですが、その余波で川路が江戸へ派遣され、政局に関わる情報収集を命じられます。
ここから、川路が再び、幕末の動乱に巻き込まれていくことになります。
後半からは一橋派の弾圧によって幕政の実権を握った井伊直弼が公武合体による幕府勢力の回復と反対派への弾圧を強化していきます。
これによって、薩摩藩と水戸藩を繋いでいた日下部伊三治は獄死、息子の裕之進も出頭を命じられたほか、娘のまつまでも取り調べの対象となってきます。薩摩や水戸の一橋派の撲滅を狙った作戦ですね。
さらにこの探索の手は、井伊直弼の忠実な忍びである「多賀者」たちへも伸びてきます。そしてとうとう、川路が内通者として使っていた「犬丸」が二重スパイであることがバレてしまい、彼らによって処刑されてします。さらに、処刑の直前に、犬丸は多賀者の首領・タカに井伊大老襲撃計画の内容を喋ってしまうのですが・・という展開です。
この犬丸のタレコミがどんな効果を生み出すか、は次巻以降で明らかになってきます。
レビュアーのひとこと
島津斉彬の実父である島津斉興は、自らの跡目相続で島津久光を推したため、斉彬派との間に「お由羅騒動」と呼ばれるお家騒動がおき、幕末期の薩摩藩に深刻な陰をおとすこととなります。
ただ、蘭癖大名・学者大名と呼ばれた祖父の島津重豪が行った文化政策や幕政への関与による莫大な藩財政の赤字を、借金の250年分割払いへの強制的な契約変更、清との密貿易、奄美の砂糖専売化を行い黒字転換したことが、斉彬が産業振興や幕政関与で邁進できることにつながったのですから、あまり悪くいうことはできませんね。
ちなみに、薩摩切子は斉興が製薬館設立の際に、薬瓶製造のために江戸から職人を招いたことが源になっているそうです。

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