鹿児島の出身で日本警察の基礎を築いた「川路利良」を中心人物にすえて、ペリー艦隊の来訪から安政の大獄を経て明治へ続く幕末の時代を、「ハコヅメ」の作者・泰三子が、倒幕の片翼を担った「薩摩藩」や「彦根藩」の視点から描いた幕末歴史コミック・シリーズ「だんドーン」の第8弾。
あらすじと注目ポイント
第8巻の構成は
第六十話 白々しい大根侍役者
第六十一話 生麦事件
第六十二話 西から聞こえる地鳴り
第六十三話 この刃の鋒に
第六十四話 薩摩のカワセミ
第六十五話 根強い信念に愛は芽吹く
第六十六話 ラブハリケーン1号・逢い引き
第六十七話 ラブハリケーン2号・色男
第六十八話 暗殺の極意
となっていて、冒頭は上洛後、勅使・大原重徳とともに江戸へ行き、幕府の老中たちに対し、
・将軍の率兵上京
・薩摩、土佐、仙台伊達,加賀前田など有力大名の大老就任
・朝廷と幕府との和合
の三事策の実行を迫る場面から始まります。
幕府との交渉は当然難航を極めるのですが、薩摩藩士の武力を背景にとうとう押し切ってしまいますね。まあ、ここまでは大成功といっていいのですが、交渉後、再び京へ帰ろうとする道中で、乗馬してピクニック気分でやってくるイギリス商人一行と出くわします。
馬に乗り慣れておらず、日本の風習もほとんど知らないイギリス人と蛮勇で有名だった薩摩藩との不幸な出会いとしかいいようがない状況で、薩摩藩士がイギリス商人を斬り捨ててしまった「生麦事件」が勃発します。
事態の重さから小松帯刀などの薩摩藩の指導層が混乱に陥る中、久光一行は遮二無二、京都を目指すのですが、自国民を殺害されたイギリス政府が黙っているはずもなく、当時の世界最強軍艦ユーライアラス号が横浜に到着します。幕府内では、一橋慶喜が責任をなんとか誤魔化す策を講じているのですが果たして・・という展開です。
中盤では、多賀者の主軸・島田左近のその後が描かれます。寺田屋事件以降、逃亡生活を続けていた島田左近だったのですが、頭の「タカ」たちが潜伏している屋敷に立ち寄ったところを、薩摩藩の田中新兵衛たちに踏み込まれます。最盛期なら新兵衛たちの動きに気づかないはずはないのですが、逃亡生活の疲れと、同じ多賀者の猿の文吉の娘・君香との◯◯◯のせいか、身体が思うように動きません。
それでも彼は、病み上がりの「タカ」と新兵衛によって目を斬られて失明したモモ助を逃がし、田中新兵衛を三条大橋の河原まで引き離すのですが・・という展開です。
この島田左近の暗殺以降、旧井伊派はインテリジェンスの主柱を喪い、直弼の近臣たちは失脚、そして直弼の寵臣で多賀者のナンバー2であった長野主膳も罪に問われ、斬首されてしまいます。彼の遺体は埋葬を禁じられ、打ち捨て、さらに桜田門外の井伊直弼の行列を守っていて生き延びた家臣たちは死罪、彦根藩は30万石から20万石に減封の上、京都守護職も解任されるという厳しい措置を受けることとなります。この手のひらを返すような幕府の対応が、鳥羽伏見戦争での井伊家の寝返りの要因の一つではないかと思えてしまいます。
巻の後半では、川路と半次郎の嫁取りが始まります。生麦事件でイギリスと戦争になる可能性が高まったため、お家存続のために子作りにはげむよう風向きが変わったおかげですね。暗殺やら陰謀やらのネタが多いこのシリーズには珍しく、薩摩藩士の日常生活が垣間見える二話になってます。
最終話では、京都に残った田中新兵衛と土佐の岡田以蔵が、武市半平太や久坂玄瑞によって暗殺者として華々しいデビューをし、時代は人斬りが闊歩する「天誅全盛時代」へと突入していきます。
レビュアーのひとこと
「生麦事件」は一般の民間外国人が地方公務員的立場である薩摩藩の藩士によって斬りつけられ1名死亡、2名重傷を負った事件ですが、その原因については、薩摩藩の攘夷思想の影響だけではないようで、イギリスなど諸外国の反応も薩摩側を非難するものばかりではないようです。
死亡したチャールズは頑固で向こう見ずでこういう事態も想定された、というものや(修好通商)条約は外国人に居住と貿易の自由を与えたが、日本の慣習や法を犯すことを認めたわけではない、といった厳しい意見が当時あったようです。
ちなみに、この事件の数時間前。久光の一行と遭遇したアメリカ人商人は、すぐさま下馬して馬を道端に寄せ、脱帽して行列に礼をしめしたため、薩摩藩の一行も外国人が敬意をしめしたと判断して何も問題はおこらなかったようです。
ちなみに、この事件のイギリスへの賠償金は薩摩藩ではなく、幕府が負担しており、幕府としては勝手に外交関係を悪くして、さらに多額の支払いを押し付けられた踏んだり蹴ったりの結末で、幕府に同情してしまいます。
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