天才数学者の「大和建造阻止」の「大逆転技」は味方も怪我する「ワザ」 =三田紀房「アルキメデスの大戦 3」(ヤングマガジンコミックス)

2019年10月11日金曜日

アルキメデスの大戦

t f B! P L

 太平洋戦争前の時代を舞台にして、若き天才数学者が、「戦艦大和」の建造中止を企むなど、その数学知識を使って戦争を食い止めようとする異色の戦争マンガの第3巻。菅田将暉さんが主演を務め2019年7月に実写化された「アルキメデスの大戦」の原作ですね。 


前巻までで、平山造船中将の提案する大鑑(のちの「大和」)の建造費のごまかしを暴き出した後の顛末が描かれるのが今巻。


建造費偽装を暴いても、それで悪人たちは成敗されました、といかないのが水戸黄門的時代劇と違うところで、大人の事情もからんで紆余曲折することになります。そして、さらにこの会議で「櫂」が見つけ出した当時の海軍の軍艦共通の弱みが大きくドラマを違う方向に誘導していきますので、そこらの流れの変化も楽しんでください。


なお、櫂少佐が売れっ子の芸者さんに入れ込んでいくところもでてきますので、そこらもあわせてどうぞ。


【構成と注目ポイント】


構成は


第19話 踊る会議

第20話 ヒートアップ

第21話 国と巨大建造物

第22話 違和感の正体

第23話 会議の後

第24話 一抹の不安

第25話 水雷艇「峰鶴」

第26話 責任の所在

第27話 藤岡の手紙

第28話 櫂の決断


となっていて、前巻で、平山中将の提案する「大和」の本当の建造費を独自の方法で算定し、彼の報告の嘘を明らかにしたにとどまらず、平山中将が尾崎財閥とつるんでいる、とすっぱ抜いた主人公の「櫂」であったのだが、当然、そんな話が素直に信じられるはずもなく、新艦建造会議は大荒れになります。


ただ、その「荒れ方」が、櫂の女癖の中傷や、永野長官や嶋田少将の芸者遊びなどなど、本筋とは関係のない口喧嘩となってしまい、これでは「海軍」の権威も・・・、という風情です。


こんなハチャメチャな状況の中で一人冷静なのは平山造船中将で、櫂の「明らかな不法行為だ」という糾弾に対し、「それがどうしたというのかね」と平然と答えます。そして、彼が建造費を捏造した理由を述べていくのですが、これは、原書の巻末を読むと、「大和」の建造のときに、こうしたことが真面目に考えられていたようですね。


そして、平山の発言に、海軍の予算を増大するヒントを掴んだ大臣の発言に、櫂はおもわず

巨大艦船を造れば

いずれ必ず国は滅びる

と失言してしまいますが、こういうことを軍人さんたちの前で言えばどんなリアクションがくるかは、誰しも惣蔵できるところですね。


さらには、航空母艦建造を優先したときの海軍内の状況を

到底、受け入れられるものではない

部隊の指揮官たちからは反発がおこり

省内の収拾がつかなくなるのは必至

その時、大混乱の責任は一体誰が取るのか

と予想する平山の前に、櫂の主張はとたんに形勢が悪くなります。ここらは、理論に秀でているがそれゆえに鋭く尖っている櫂の純粋さが裏目にでますね。


 ところが、ここで思ってもみない大逆転技に、櫂少佐が気づきます、平山の大艦建造案が有利になったところで、じっくりと設計図をみていた櫂が、平山の設計に潜んでいる大きな欠陥、巨大な「海流波」が艦を襲ったときの欠陥を見つけ出すことから、会議の結果は思わぬ方向へと進んでいきます。結果、自ら自案の欠陥を認めることになるのですが、その時の平山造船中将の姿には、悪役ながら「技術屋」としての潔さを感じます。


ただ、櫂が見つけた「海流波への脆さ」は、平山造船中将の設計のみにいえることではなく、海軍全体の艦設計にかかわることであったため、自陣の藤岡造船少将の設計した水雷艇「峰鶴」の沈没がこれによるものであることをあからさまにしてしまいます。鋭い刀が、味方を切りつけてしまったことになるのですが、これが海軍内にどういう混乱を招いてしまうのか、詳細のところは原書で確認してくださいね。


【レビュアーからひと言】


会議の中で、大艦主義を見直して、航空母艦優先主義を採用したときに、海軍内で起こる混乱を指摘し、

議論で大多数をまとめることはできない

常識の範囲内で人心は収まる

組織とはそういうもの

という平山造船中将の発言は、この当時の海軍だけでなく、歴史があり成功体験のある「大組織」共通のことと認識しておくべきでしょうね。そして、ここを克服できるかどうかが、組織が変化しつつ生き延びていくことができるかどうかの分かれ目であるような気がします。

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