設楽原の敗戦後、天下の武田家の「撤退の美」を見よ = 宮下英樹「センゴク天正記」5

2019年10月31日木曜日

宮下英樹ーセンゴク天正記

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 落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる「センゴク」シリーズのSeason2「センゴク天正記」の第5巻。


この「センゴク天正記」では長島の一向一揆の殲滅戦から武田・上杉との一大決戦と本願寺の敗北、そして西の雄・毛利家との戦いの開始までが描かれるのだが、本巻は、その武田信玄亡き後の武田勝頼率いる戦国時代一の騎馬隊を有する武田勢と対決した「設楽原の戦闘」の後が描かれます。


【構成と注目ポイント】


構成は


VOL.40 引揚貝

VOL.41 二つの激戦地

VOL.42 真田兄入力

VOL.43 不死身の鬼美濃

VOL.44 設楽ケ原の落日

VOL.45 権兵衛の嫁取り

VOL.46 天下静謐

VOL.47 長浜城

VOL.48 お藤と権兵衛

VOL.49 婚礼の儀


となっていて武田軍の山県・内藤戦死、真田撤退を受けて、徳川・織田軍が追撃に入るところからスタート。


今まで徳川を苦しめてきた山県昌景が討ち死にしたと聞いて、「・・・そうか」と安堵する家康の気持ちが、いままで武田勢がどれだけ周辺にとって恐怖だったか、がわかりますね。


この敗戦を受けて、勝頼が「シンゲン」の本分を尽くすため、織田軍に玉砕覚悟の総攻撃をを自らが先頭にたって仕掛けようとします。ここのところの心情を、本書では

我はむしろ

一武将としての死にこそ

生の実感を得るのだ

と現しているのですは、今まで「シンゲン」として自らの感情と思いを封印してきた彼の無念さがよくわかります。武田の一族を率いる重圧と責任がなければ「智将」の上に「勇将」として天下に鳴り響いたことであろうと思います。この勝頼の決意を馬場美濃守信春が

この古老の命と山形の死を無下にすな

貴殿こそ紛うことなき、武田の屋形

と制止するのですが、武田家を守るためにやむをえなかったといえますが、もしここで勝頼が先陣を切っていたら、疲れ果て気の緩んだ織田・徳川勢はひょっとしたら、と思わないでもないですね。


史実のほうは、武田本隊が撤退する中、馬場美濃、土屋が殿軍をつとめます。ここで、馬場信春の凄いところは、織田・徳川軍が追撃する中、単純な退却ではなく「猿ケ橋の戦」で「敵に勝つほかあるまい」と退却しつつも武田勝頼が敵に討たれないように防いで、局地戦では織田に勝つ戦を展開するところ。退却する勝頼の姿が彼の幼い姿に転じてきたところを見れたのは、勝頼が諏訪家の人質として処遇されてきた頃から、馬場信春が見守ってきた現れなのでしょうか。


長篠の戦いで、武田勢は、信玄の弔い合戦として、織田・徳川軍を撃破する目論見を阻止されるのだが、さすがに信長も、これ以上、武田領へ攻め入り、武田勝頼を攻め滅ぼすまでの余力は残されておらず、勝頼は、天正十年の天目山の戦まであくまで武田家再興を目指して奮闘いたします。


巻の後半部分は、センゴクの嫁とり。センゴクの妻となるのは、織田家の鉄砲奉行を務める野々村吉成の娘「藤」という女性なのですが、センゴクの人となりをこっそり確かめにくるなど、かなりのじゃじゃ馬であります。このあたりはコミカルなタッチなので、戦闘シーンでささくれたところを癒やしてくださいな。


【レビュアーから一言】


武田の敗戦でもう一つの見どころは、真田信綱・昌輝兄弟の敗死のシーン。真田は乗っていた馬を銃撃され落馬して討ち死にするのですが、馬を撃ったセンゴク隊を

揶揄恥辱に塗れ、なお命が惜しいか

汝にも命より誇りを重んじる頃があったはず

と非難するのですが、ここらが戦術が大きく転換したことの現れなんでしょう。ただ、戦国時代の武士を象徴する武田家の、それまでの「美意識」を破壊した織田家への反論でもあるのでしょう。

 信長以前と以後では、合戦に対する考え方も大きく変わっているようであります。「敗れることの美」、そんなものも踏み潰されたような設楽原の戦闘ですね。

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