戦国一、悲惨な籠城戦「鳥取城渇え殺し」 = 宮下英樹「センゴク天正記 14」

2019年11月18日月曜日

宮下英樹ーセンゴク天正記

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 落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる宮下英樹の「センゴク」シリーズのSeason2「センゴク天正記」の第14巻。


荒木村重の逃亡、三木城の陥落を経て、織田・毛利の激突の初手となり「鳥取城」の攻防戦。前巻で、一旦は織田勢に降伏していた山名豊国を追い出した家老たちの要請を受けて、毛利が自軍の若き知将・吉川経家を新しい城番として派遣したのですが、「毛利に味方はするが、介入は許さない」というかなり身勝手な城方の申し出でわかるように、かなり苦しい守戦が予測される吉川経家と、三木城陥落後、しっかりと策を練っていた秀吉軍との、鳥取城を舞台にした織田・毛利の実質的な激突が描かれるのが、この巻です。


【構成と注目ポイント】


構成は


VOL.130 鳥取城包囲陣

VOL.131 太閤ケ原

VOL.132 補給合戦

VOL.133 両川迫る

VOL.134 ヤマイヌの計

VOL.135 囮の犬

VOL.136 真の狙い

VOL.137 哀れなる有様

VOL.138 鳥取城降伏開城

VOL.139 銭を知る者


となっていて、前巻を受けて、秀吉、太閤ヶ平へ布陣するところからスタート。ここは櫓(やぐら)がなくても、目と鼻の先に鳥取城が見下ろせるところ。


城方にとっても脅威なのですが、そんな近くの布陣は羽柴勢にとってもおっかなびっくりであったろうと推測されます。どうやら、吉川経家たち鳥取城の守将、に秀吉軍の威容を見せて圧迫する、という意図もあったようです。


ここで、石田佐吉が補給路の確保と封鎖の作戦を提案するのが「干殺しの戦法」。城を取り囲んで、兵糧が尽きるのを待つ消耗による殲滅戦ですね。


ただ、最前線で敵と近距離で対峙している現場の軍にとってはたまらない恐怖感が続くわけで、これに対し

合戦の形はすでに変わりました

寧ろ古い合戦は知らないほうがいい

という石田佐吉への反発は必至です。さらに「兵を鼓舞するのが前線の将の仕事。鉄砲で敵を倒すより、鉄砲を確保したことが大切として、「槍働きは無用」と言い切るあたりには、前線の各将軍が怒り心頭に達するのも無理のないところでしょうね。


ここでセンゴクが石田を殴り倒して、なんだかぐちゃぐちゃのうちに場は収まるのですが、秀吉は、センゴクが殴らなければ双方収まらなかったと容認します。

ただ、このへんから巨大化してきた羽柴軍の中で、すでに「武」の側と「文」の側との対立が芽生えてきていることがわかります。


この後、合戦方と帷幄方を取り結ぶ武将として、センゴクの単純さが買われて、彼は最前線に立つこととなります。ここから本格的に、秀吉軍と鳥取城方とのせめぎあいが本格化します。


一方、守る側の主将・吉川経家は城の守将たちへ、秀吉の作戦は城を囲んで囲城戦、籠城戦で、補給路の確保するための戦闘が大事と言うのですが、

我ら合議にて鳥取城での一戦を覚悟した

御託は無用

と彼らの反対にあいます。

後になってわかるのですが、城方の守将は。経家が裏切って秀吉に降伏するのでは、と疑っているのですね。


当然、経家は「上等だ!! だったら斬ってみろ」と激怒するのですが、経家は、もとの領主である「山名」が追い出された後に、鳥取城へ入ってきた毛利方、いわば新参者なので、城全体が一枚岩になりきれていないようですね。

しかし、このときにはすでに、石田佐吉がその計算能力の高さを使って、鳥取所の兵糧の量を割り出しているので、ここらで補給路の大事さを鳥取城方が気づかないと手遅れになるのですが・・・。


さらに鳥取城の兵糧が乏しくなりつつあることを見抜いた羽柴軍は、石田佐吉と黒田勘兵衛の提案する

猪に対し、必ず群れで同時に立ち向かい

襲っては退き、狙いが定まらぬよう翻弄する

という「ヤマイヌの計」をしかけます。これは、周囲を取り囲まれてしまっている鳥取城に対して海からの食料補給を狙う「毛利方」の動きを封じ込める作戦でもありますね。


このヤマイヌの計に従って、センゴクは鳥取城近くまで攻め入っていきます。このセンゴク隊の動きを吉川経家は、「囮」と見破っていて、鳥取城近くの「雁金の砦」が本当の狙いではと考えています。この砦をセンゴク隊を囮にしておいて、秀吉本隊が襲い、雁金の兵を鳥取城と丸山城に逃げ込ませ、乏しい兵糧をさらに削る作戦とみているわけですね。なので、センゴク隊に引き続いて、秀吉本隊が鳥取城へ攻め入る様子をみせても、経家は動きません。秀吉本隊は、早晩、「雁金砦」に向かうとみているので、そこへ向かった背後を襲おう、と予測をたてています。


ところが、黒田勘兵衛たちの戦略は流石に畿内や播磨の激戦を乗り越えてきているだけあって、さらなる仕掛けを施されているのですが、ここから先は原書のほうで。


この後、毛利の補給の道も閉ざされ、鳥取城に籠城というか、むしろ籠もらされた感のある吉川方は、飢餓状態の中で、馬どころか人まで食い合うという修羅場が城内に現出するのですが、本書ではそこまでのスプラッタな描写はされていないので、ご安心を。


ただ、もともと、この鳥取城攻めは、織田家と籠城戦を展開した後、降伏・臣従しようとした前城主の山名豊国を、家老で国侍の有力者である森下、中村たちが追い出して毛利へ加勢を頼んだことに端を発しています。彼らが城主追放を行った動機は、織田勢の降伏の条件が所領の1/4への縮減と、その後の検地による所領没収のうわさにおびえてのことであったようで、新しい道に行くことにおびえて、玉砕してもかまわぬ、といったことが本音のようです。

ここまで追い詰められたところで両者は

我々は絶望を見ねばなりませぬ

愚かにも、人たるものは、ここまでせねばわからぬのです

と呟いています

なにやら、伝統ある組織が崩れていく時に、よく見聞きすることではありますね。


そして、城内の民、兵士が飢えで全滅することが見えてき、城主の吉川経家は降伏を決断します。


このときの秀吉の出した降伏条件は、前城主を追い出した森下、中村の処罰のみで吉川経家以下は赦免するという条件なのですが、

天下の大器、羽柴秀吉に相応しい

万民に資する

条件を持ってこられぃ

と経家は蹴ります。


その理由は、この後の織田・毛利の関係を深謀遠慮した上での行動だったようですが・・・。


ともかく、「渇え殺し」で名高い鳥取城攻めは、吉川経家の切腹をもって、ここで終結します。


【レビュアーから一言】


豊臣秀吉というと、貧しい境遇から、信長に取り立てられて才能を発揮し、どんどんと出世し、といった明るい側面が強調されるのですが、彼が中国攻めのときに考案した城攻めの方法は、三木城や鳥取城の包囲戦による兵糧攻めや、備中高松城の水攻めなど、自らの兵力を温存しながら、大兵力をつかった物量戦が目立つようになりますね。ここらで、センゴクたちの武闘派の求める「戦」の有り様とは違った形になっているように当方としては思います。


軍略の中心が竹中半兵衛から黒田官兵衛へ、さらには石田佐吉といった能吏派へと変わっていったことと、ひょっとすると関係があるのでしょうか、それとも、信長の指を外れ、秀吉の自らの戦の性向が出始めたのでしょうか・・・。

このあたり、「信長を殺した男 日輪のデマルカシオン」で指摘されている秀吉の性格が出現し始めているのかもしれません。

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