小氷河期末の決戦「桶狭間の戦」終結す = 宮下英樹「桶狭間戦記 5」

2019年12月29日日曜日

宮下英樹

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 「東海一の弓取り」と高く評価されていながら、天下を狙う途上で非業の戦死を遂げたせいか、現代では軽く扱われることの多い今川義元と、彼を討滅した戦国時代を集結させた「魔王」織田信長の若い頃を描く、仙石権兵衛のニェットコースター人生を描いた「センゴク」シリーズのビフォーストーリーである、「桶狭間戦記」シリーズの完結巻。


前巻で、満を持して尾張へ侵攻してくる今川軍に対し、重臣たちの反対を押し切って、今川義元の本陣への奇襲を考案した信長であったのだが、そのための重要な役割を担うはずの「熱海衆」が、今川方の勇将・岡部元信によって壊滅させられてしまい、心折れそうになっていたのを、馬廻組からの「前へ出よう」という無謀な励ましに再び力を取戻した信長が、いよいよ戦国時代の一大転換となった「桶狭間」へ向かうのが本巻。


【構成と注目ポイント】


構成は


第29話 熱田と津島

第30話 今川本陣

第31話 奇跡の雨

第32話 強さと弱さ

第33話 第一陣

第34話 完璧なるもの

第35話 天運の交叉

第36話 自らの力量を以って

最終話 人間の限り


となっていて、まずは今回の今川と織田との戦の行方について津島商人の筆頭・堀田家と熱海商人の筆頭・加藤家が話し合っている場面からスタート。


彼らの目算では、笠寺あたりで停戦協定が結ばれるのでは予測するのですが、そこに織田軍大敗、信長は行方知れずという報が入り皆が動揺します。誰もが今川方の敗北は考えてもいなかった様子で、ここらでも当時の今川義元の軍勢の強大さを推し量ることができますね。


で、その今川・織田決戦の地「桶狭間」周辺では突然の雨が振り始めます、この雨にまぎれて信長は今川義元本陣への奇襲を企むのですが、

ずーーっと危なかっしいまま

足掻いて足掻いて、篩を通った

謂わば、選ばれた悲壮の軍よ

ワシらなら、能うる

と言っているところをみると、深い計略をたてての行動というよりも、窮鼠猫を噛むという手合の捨て身の攻撃のように見受けられます。

 一方、今川義元のほうは乗った輿に雨戸もつけることなく、戦況を見守っています。


もともと、第4巻で、馬から輿に変えたのも退却はしないという意志の現れであったのですが、ひょっとすると

寧ろその者は存在すらせず

乱世の民の衝動が作り出した幻影かとも思うていたよ

という形で自らへ向かって乱入してくる信長の気配を感じるためであったのかもしれません。


戦局のほうは、第一陣から第三陣までの五千の兵で守る今川の鉄壁の布陣に対し、信長の馬廻隊を中心とした奇襲部隊が軍勢を削られながらも、錐が穴を開けるように深く突進して行き、遂には今川義元の本陣まで到達します。


「今川仮名目録追加」などの法令の整備やこれによる民衆生活への関与を強め、「今川義元」を寄り親の頂点とする秩序だった「寄り親寄り子」制度により乱世を鎮めようとした「義元」の象徴される旧秩序が、法度もなく足軽を中心とする無手勝流に勢いのまま進んでいく「信長」に代表される新秩序に敗れ去る瞬間でもあります。

ここで作者は

俺たちゃあ

大変な人物を殺ったと同時に

生み出しちまったのかもしれねぇ

と兵士たちにつぶやかせ、時代の変わり目を表しています。

そして、史上名高い「桶狭間合戦」の詳細は原書のほうで。


【レビュアーから一言】


物語の最後のところで、義元の母親の「寿桂尼」が気候が緩んで暖かくなっているという感想をもたらす場面がでてきていて、この時から30年後に小氷河期は終焉を迎える、とキャプションされています。


室町・戦国時代は、足利政権の健在だった前期と応仁の乱から信長による全国一統までの落差が激しい時代なのですが、1420年代から1570年にかけてのシュペーラー極小期と呼ばれる小氷河期と時機を同じくしていて、これが下剋上の時代を特色づけた原因では、というのが本シリーズの推理です。ということは今川義元というのは、この飢饉がセットとなっていた時代の政治の最高傑作といえなくもなくて、ここらは

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