最澄と空海、日本をつくった二大思想家の物語、開幕=おかざき真理「阿・吽」1

2020年9月16日水曜日

阿・吽

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 現代に生きる一般的な日本人の立場からすると、仏教というと、自分の生活や行動の規範理念や世界認識というよりもお盆やお彼岸、お葬式や法事といった習俗行事というイメージが強く、「宗教」として明確に認識している人はそう多くないでしょう。

しかし、平安初期に形作られた日本的な仏教の形が、僕たちの考え方や感じ方の「原型」と」なっているのは間違いなく、もし当時、この原型をつくった最澄と空海という宗教的巨人が違う形の「原型」を持ち込んでいたら、僕たちの考え方や行動の仕方も全く違ったものになっていたのは間違いないところです。

その日本の宗教界の巨人の二人、最澄と空海を描く『おかざき真理「阿・吽」(ビッグ・スピリッツ・コミックス)』の第1弾。


【構成と注目ポイント】


構成は


一話 最澄と空海

二話 阿刀大足(あとのおおたり)

三話 勤操(ごんぞう)

四話 泰範(たいはん)

五話 山の中


となっていて、シリーズの最初は、織田信長の比叡山焼討ちのシーンから開幕します。この比叡山焼き討ちの目的や提案者、殺害された者の範囲には諸説あるものの、当時の日本の宗教界を牛耳っていた勢力の一つへの大打撃であったことは間違いありません。そして、この焼き討ちされる様子を、まだ出家もしていない幼い最澄が予知するよう幻の火をみるというのが、最澄がこれから作り上げていくものの巨大さとその後の腐敗を暗示しているようです。


物語のほうは平安時代初期、それ以後の日本の宗教界を方向づけた、最澄と空海の少年・青年時代から始まります。幼い頃の描写では、母親や一族の期待を担う「秀才肌」の最澄と、その才能と突拍子もない行動で一族や周囲の者を驚愕させる「天才肌」の空海というステロタイプのようなところが見られて、「ああ、これも・・」と思わせておいて、実はごろんと驚く筋立てにもっていくのは、この作者の手練れなところですね。


まず最澄のほうは、立身出世を願って母親によって、当時のエリートコースへとつながる道であった「国分寺」へと入るのですが、山中で出会った少女が目の前で山賊に首を斬られて殺されたのがまず第一番目の転機になります。米を手に入れて弟に食わすのを楽しみにして下山するところを簡単に殺害されてしまうところに、世の無常さと己の無力さを感じる所です。

そして、修行に励み、若くして晴れて「学僧」になるのですが(もっとも、学僧の欠員をつくるために彼の母親がなにか細工をしているようですが)、その披露の席で、酒池肉林の様子に驚き、案内の僧侶を誤って殺してしまった友人の僧を殺されてしまいます。

ここで、己の理想とはかけ離れた仏教界の姿に失望し、山の中での修行と経典研究の生活に入ることとなります。この後、周囲の者がいくら進めても、山を下りようとせず経典研究を続けるのですが、その学識と頭の回転の良さで、僧侶たちが集まってくる、という筋立てです。

ちなみに、最澄はなにか心を揺るがすことがある度に、近くのものの匂いを嗅いで気を静める「匂いフェチ」のようですね。


一方、空海のほうは幼少期から、その頭の回転の速さと記憶力のよさは群を抜いています。村の古老の知識の浅さを指摘して恨みをかい、崖から突き落とされるのですが、「崖から落ちる」という感覚をつかむため、目を開けたまま落ちる姿は、まさに知識欲に憑かれている、としか言いようがありません。そして成長した後、都で大学へ入り、官僚になるための学問を学ぶことになるのですが、その化け物じみた知識欲と知識の習得力で、おおかたの書物は読破してしまい、とうとう、大学を退学して「仏典」を学ぶ道へと進みます。


そして、この二人がともに「仏教」の世界に足を踏み入れ、この道を進んでいく上での「導者」ともいえるのが、国分寺の高僧「勤操」です。普段は山中でボロボロの僧の姿でいながら、都の寺では相当の高位にあるようで、彼がひとまずのキーマンといえますね。また、同じ「仏教界」へ進むとはいっても、その立ち位置についてはかなり違った雰囲気の「最澄」と「空海」がどう描かれているかは原書のほうでお確かめください。


そして、このシリーズのメインキャストである最澄と空海のほかにも、後に最澄の弟子となるのですが世の中を恨んでいる青年・泰範や母親の命令で最澄を誘惑して、寺へ戻そうとする遊女、さらには奈良の大寺院を置き去りにして遷都しようとする桓武天皇などこのシリーズの展開に重要な役目をもつキャストが登場をしてきますのでお見逃しなく。


【レビュアーからひと言】


空海と最澄というと、司馬遼太郎さんの「空海の世界」の印象が強くあって、天才肌で感覚的に、簡単の仏法の真髄を掴んでしまう空海に対して、努力家で地道に勉学を続ける体制派の人物で、いつも空港に一歩遅れてしまう最澄、といったイメージがあるのですが、おかざき真理氏の描く最澄と空海は、その天才肌と秀才肌という色合いは残しながら、二人とも大きな「激情」をもった人物として描かれています。


日本の仏教思想、つまりは日本の「思想」「哲学」の最初の潮流となった二人の思想家のこれからがどう描かれるか楽しみなシリーズのスタートです。



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