空海は「唐」で密教の奥義を受け継ぐ = おかざき真理「阿・吽6,7」

2020年9月29日火曜日

阿・吽

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 平安時代の初期、日本の思想界に相次いで出現し、日本人の思考に大きな影響を与えるとともに、世俗の権力へも大きな権勢をふるった比叡山や高野山の基礎を築いた。「最澄」と「空海」、二人の天才を描く『おかざき真理「阿・吽」』シリーズの第6弾と第7弾。

前巻までで、唐に渡り、日本では学ぶことのできない最新の仏教の習得を始めた最澄と空海なのですが、正規の留学僧かそうでないか、あるいは在唐できる期間の長短によって、ふたりは台州と長安とに分かれてそれぞれが活動を始めるのですが、これが大きな「違い」をうむ原因ともなって、という展開です。


【構成と注目ポイント】

第6巻の構成は

三十話 大唐の春
三十一話 夜行解禁
三十二話 サンスクリット
三十三話 上尸節
三十四話 白居居
三十五話 道

となっていて、福州で藩鎮や地方長官・閻済美を、空海の「文章」の力でたぶらかして、やっとのことで首都・長安に到着します。大国・唐の首都のきらびやかさに圧倒される空海一行で、隋の煬帝の頃は、周辺国の使者が到来した時は木に白布を巻き付けたりして国威をみせつけたそうですが、この当時の長安は放っておいても富とビジネスチャンスを求めて、人が集まってきている状況だったと思います。


そして、民族の坩堝であった長安で、ゾロアスター教の司祭・アーラシュと契丹族の王族の娘・リィフォアと出会います。国際都市・長安で日本人以外の人間と親しく過ごしたことが、最澄との宗教色の違いを産んだ原因の一つだったかもしれません。
そして、空海たちは宿泊先のお寺の紹介で、天竺から来ている高僧たちによって「密教」の教えを受けることになるのですが、その様子は原書のビジュアルでないと伝わらないと思うのでそちらでご確認を。


空海と同じく長安入りしていた橘逸勢は、唐を代表する大詩人・白居易と出会い、彼から、有名な売れっ子遊女・清玄機への「文」の代作を頼まれます。もちろん、白居易には辺境の国から来た無名の書生に代作を頼むのは、魂胆があってのことですが、空海がその意図を見抜き、見事な代作を仕上げることで、彼と空海たちとの付き合いが始まります。
一方、最澄のほうは台州、今の浙江省にあった天台山で経典をむさぼり読む毎日です。最澄は空海と違って国費留学生の立場で唐への滞在期間も短く、長安に行く時間も惜しかった、ということなんでしょう。

もちろん、頭もよく、中国語も読める最澄のことなので、寺にあった経典はすべて理解していくのですが、留学期間が8ヶ月と短い上に、会話ができないため現地の僧と「問答」もできず、さらに密教の知識を得たのは留学期間の最後の方で、時間がなくて、長安にいる密教の高僧のもとへ行って「真髄」のところを学べなかったことが大失敗でしたね。受けた恩義に忠実に報いようとするところが、最澄の優しさであり限界なのかもしれません。


続く第7巻の構成は

三十六話 三人の親王
三十七話 灌頂
三十八話 青龍寺
三十九話 曼荼羅
四十話 恵果
四十一話 三十帖冊子

となっていて、最澄が密教の本場の寺に行かないで帰国したのには、国費留学生なので期間が限られていたということもあるのですが、「桓武帝」が病気で倒れ、最澄の帰りを待っている、ということが原因でもあります。

そして、その桓武には、早良親王や他戸親王の怨霊がとりついている上に、皇太子の安殿親王は父親へのわだかまりが消えない上に、弟の伊予親王に父親の愛を奪われた、と思い込んでいるという、まあ、これから内紛がおきるよね、という雰囲気ばりばりの設定です。


その中で、朝廷から、最澄には、帝の病気平癒と国家鎮護の密教による修法が依頼されてきます。最澄としては、理論的な「天台法華」を唐からもちかえり、この布教を第一番に考えていた上に、宗派の中もごたごたする原因となるので、かなり不本意だったのでしょうが、帝のため、ということで引き受けることとなります。これが良かったのかどうかは、ちょっと判断に迷うところですね。

一方、唐に残っている空海は、唐の密教の大本山である「青龍寺」の恵果大和尚のもとへ向かい、彼から密教を伝授されることとなります。

しかし、「伝授」ということにはなっているのですが、実態は、恵果大和尚と空海との「精神面」でのぶつかり合い、食い合い、でどちらか弱いほうの精神が、強い方で呑み込まれてしまう、という精神的な「戦闘」です。この戦いの詳細は原書で確認してほしいのですが、結果、密教の奥義を受け継ぐことになったのは、史実のとおりです。


そして、奥義を受け継ぎ、密教の後継者となると膨大な仏典の書写と仏具の製作が必要となるのですが、留学僧の留学費用では足りるはずもなく、ここで「白居易」からの支援が活きてくるのですが、空海がその代償として支払ったのは、出発前に、水銀造りの「ニウツ」からもらった彼女の髪、ということで、日本で空海を応援していた人たちの思いがここに結集して彼を助けていく、という展開です。帝をはじめとした上流の人々に愛される「最澄」と、民衆に支えられる「空海」との違いがここらにも現れているようです。


【レビュアーからひと言】

第7巻にでてくる高級遊女・清玄機は、筆者のTwitterによると森鴎外の「魚玄機」をもじってつけたそうで、架空の遊女さんです。森鴎外の「魚玄機」は、恋人のお気に入りになりそうな召使いの娘を、売れっ子妓女の玄機が殺してしまう話なのですが、無料で提供されている「青空文庫」で読めますので、気になった方はそちらでどうぞ。このほかにも女流詩人としても有名な「薛濤」とか、昔も今も「夜の街」には特徴ある人が多いようですね。



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