空海は密教を日本へもたらし、嵯峨帝の元でブレイクする = おかざき真理「阿・吽8・9」

2020年9月30日水曜日

阿・吽

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 平安時代の初期、日本の思想界に相次いで出現し、日本人の思考に大きな影響を与えるとともに、世俗の権力へも大きな権勢をふるった比叡山や高野山の基礎を築いた。「最澄」と「空海」、二人の天才を描く『おかざき真理「阿・吽」』シリーズの第8弾と第9弾。

前巻までで、唐に入った後、長安で契丹族のリィファやゾロアスター教の司祭・アーラシュ、唐を代表する詩人・白居易と交流しながら過ごしつつ、恵果大和尚から密教の奥義を授けられた空海は急遽、日本へ帰国し、日本での密教布教を目指すこととなります。

当時の日本は、桓武亭が崩御し、平城帝の即位、さらには平城帝の嵯峨帝への譲位と政治的な混乱が続いた時代で、その時代の波にうまく乗っていく空海と、波に翻弄される最澄の姿が描かれます。


【構成と注目ポイント】

第8巻の構成は

四十二話 生生流転
四十三話 虚往実帰
四十四話 日赤くして光無し
四十五話 平城帝誕生
四十六話 御請来目録
四十七話 炎

となっていて、密教の後継者となった空海は、それを伝えた恵果大和尚からその真意を明かされます。それは、この密教の思想を、中国から離れた安全な地、日本に避難させ、守り伝えてほしい、ということです。仏教はそれ以前も、皇帝などときの権力者の意向が変われば、弾圧されてきた歴史をもっていて、恵果もなにかそういう気配を感じつつあったということでしょうか。


ちなみに、空海が唐に渡ったほぼ40年後、武宗による宗教弾圧が845年(会昌の廃仏)に起きてます。おもに財政の逼迫のための措置で、棄却した寺院の荘園の没収、僧たちの還俗にによる農民編入など。この時、ゾロアスター教、ネストリウス派キリスト教、摩尼教も弾圧を受けているので、ゾロアスター教の司祭・アーラシュの予言は嘘ではないですね。


しかし、帰るといっても、今と違って簡単に帰れる時代ではないのですが、ここが空海の幸運を呼び寄せるところで、急遽、遣唐使が派遣されやってきます。空海たちの804年の遣唐使から1年後の805年にも派遣されたもので、実はそのあとは、およそ35年後の835年まで派遣されることはなかったので、まさに奇跡ということでしょう。
空海たちは、この時の遣唐使・高階遠成に頼み込んで、乗船させてもらうことに成功します。空海が密教を受け継ぎ、大量の仏典や仏具も日本へ持って帰るということも影響していたのかもしれません。今でいうと、アメリカで最先端の科学を習得した科学者が、その研究施設ごと日本へ帰国するようなものなので、大規模な技術移転のチャンスが向こうからやってきたようなものですものね。ただ、帰国した後、処刑されない保証はなかったので、当人にとっては生命とその後の人生をかけた大決断ではあります。

そして、別れは契丹の王族の娘。リィフォアとの間にもやってきます。契丹への帰国がかなったということで、彼女はここで契丹の「耶律」氏の一族であることを明らかにするのですが・・・ということで、前巻で彼女を襲った、母国の政治対立が彼女に身に再び降りかかることになりますね。これからおよそ100年後、耶律阿保機が契丹人の王朝「遼」を内モンゴル北部を中心に作り上げるのですが、彼女の一族とどういう関係があったのかはわからないところです。

ここで、物語のほうは一旦、最澄の話へと移ります。最澄の祈祷が続いてはいるのですが、桓武帝の病状は悪化する一方です。ここに、皇太子の安殿親王の弟の伊予親王への嫉妬は増す一方で、どうも、この桓武天皇の一族は、家督争いの機厳しい当時の中でも、近親憎悪が激しい方に属しているような気がします。そして、とうとう桓武帝崩御、そして安殿親王が平城帝として即位。平常帝は愛する「薬子」を呼び寄せるとともに、憎っくき「伊予親王」抹殺へ向けて動き出すのですが、このあたりの政治の混乱と薬子の宮廷支配の様子は原書でおどろおどろしく描かれてます。


で、こうした国の混乱と桓武亭を救えなかった苦しみが最澄を襲っているところへ空海の書と彼が持ち帰った経典の目録が届きます。最澄にとっては、この苦難を打開する最高の道具の「ありがたい」情報なのですが、空海の都への帰還策にまんまとのせられた感じがいたしますね。


続く第9巻の構成は

四十八話 橘嘉智子
四十九話 味方
五十話 波の音
五十一話 坂上田村麻呂
五十二話 風信帖
五十三話 近江海の光

となっていて、弟の伊予親王を殺害した平城天皇の精神状態はさらに不安定になっていきます。


権力を握ったうえで、怨霊から逃れるために、もう一人の弟・神野親王に帝位を譲り、自分は上皇となって平城京へ移ります。後に戦乱のもととなった二都体制となるのですが、新帝の嵯峨帝が政争から逃れるために文化振興に傾斜したことが、橘逸勢と空海が脚光を浴びていくきっかけとなりますね。


そして、最初のうちは平城上皇+藤原薬子(藤原式家)の勢力に殺されないように、猫をかぶっているのですが、側近に藤原冬嗣、坂上田村麻呂がなったあたりから、ジ徐々に平城上皇勢力の力を削っていきます。この藤原冬嗣という人は、藤原北家の出身で、その後、藤原家が平安朝以降の宮中を牛耳る基礎を築いた人で、策謀家でも有名な人で、ろくな側近もおらず、美人だが激しやすい薬子と精神不安定な平城帝を追い詰めていくのは楽勝であったのかもしれません。
結局のところ、嵯峨帝側の軍勢に攻め込まれて、平城帝側は敗北し、帝は幽閉、薬子は自害、薬子の兄の藤原仲成は射殺、ということになるのですが、首謀者以外には寛大な処置をしていて、怨霊発生を最小限にするという平安朝には欠かせない戦後処理もしています。


そして最澄のほうでは、弟子の泰範が最澄の心に忍び込み始めます。彼は史実では、後に最澄のもとを離れ、空海の門下に入った人ですね。空海の下でも高い地位に就いてるので、相当、「デキる」人であったのでしょう。

さらに、今まで宗教界の権力を握っていた東大寺をはじめ南都・奈良の寺院の勢力からの妨害活動や、弟子の引き抜きなどにあい、理想の実現と現実とのギャップに悩むのが多かったせいもあるのかもしれません。


【レビュアーからひと言】


ここまでのところでは、「桓武帝」という存在がいろんな部分での「キー」となっていたような感じです。平常京から長岡京・平安京遷都による南都の寺院勢力の没落に始まり、早良親王の憤死による平安京の「怨霊都市」化、桓武帝の愛情を争っての安殿親王と伊予親王の対立と嵯峨帝の平城攻め、そして坂上田村麻呂による東北出兵と、彼を中心として戦乱の渦が起きていたような気がします。その意味で、「大波乱を生んだ王」の一人であったことは間違いないですね。


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