ヒグマを狙う狩猟のリアルを描く、おすすめ「狩ガール」漫画ー「クマ撃ちの女」1〜4(バンチコミックス)

2020年10月11日日曜日

ハンティング

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 アウトドア・ブームのなか、キャンプや登山、釣りを趣味にする女性も増えてきているのですが、その極めつけともいえる「ハンティング」をやる女性を描いたのが、この『安島薮太「クマ撃ちの女」(バンチコミックス)』シリーズです。罠ではなく、ライフルでシカ撃ち、ヒグマ撃ちをする大物狙いの女性ハンターで、シカやクマ撃ちをしながら、過去に自分と姉を襲った「クマ」への復讐を狙っていく若き女性ハンターが描かれます。


あらすじと注目ポイント


第一巻 クマ撃ちハンター「チアキ」登場


第一巻は、このシリーズの主人公である「エゾヒグマ」の猟をする「小坂チアキ」が、雑誌社を退職してフリーのライターをしている、シリーズの語りて・伊藤カズキからの取材依頼を、山でヒグマを見つけ猟に没頭してスッポかしてしまうところからスタートします。


始まりとしては、若い女性のクマ撃ちハンターとして注目が集まり始めている「チアキ」の密着取材をして、ライターとして一旗あげようと目論む「伊藤」と、著書の印税の一部を報酬として払うという申し出に惹かれて、ホイホイと猟への同行を受け入れる「チアキ」の姿が絵描かれていて、かなり「軽ーい」ノリの開幕です。


その同行取材のほうは、山に慣れていない伊藤をアシスタントにして、山歩きをする中で、銃の知識であるとか、鹿の目の特性とか、熊の土饅頭の話とか、猟をやったことのないフツーの人が猟に関するTipsを仕入れることができます。


話が動くのは、第一巻の最後の方からで、雨の中の猟のさなか、崖の下でコクワの実を夢中で食っているヒグマの上へ、足を滑らせて「チアキ」が落下するというハプニングが起きます。熊と至近距離の正面へ落下した上に万が一の時の予備の弾の装填を誤り、さらには致命傷が狙える位置からの銃撃が難しいと判断した彼女がとった手段は、崖の上にいる伊藤を利用した手段で・・ということで、「ハンター」の業みたいなものを見せてくれます。


第ニ巻 熊撃ちにこだわる「彼女」の事情


続く第ニ巻は、第一巻の最後のところで遭遇した熊を仕留め、それの解体を行うところから。獲物を仕留めた時のハンターがかかる「ハンターズハイ」とか、狐に熊の肉を横取りされるところとか、猟に関するエピソードが楽しめます。


さらに、チアキがやっている、山を歩き回って行う「忍び猟」と違って、山の中を走る林道をひたすら車で走り、獲物を見つけたら撃つ、という「流し猟」の様子も描かれているので、よくある「猟」漫画では見られないところがみられるのは、このシリーズの特徴でしょう。


第一巻でチアキの「私はヒグマを撃ちたくて、撃ちたくてたまらないんです」という欲求だけは聞いていたのですが、その理由がわかってくるのが、第ニ巻の後半部分です。チアキのもとへ姉が訪ねてくるのですが、彼女はチアキが素人の伊藤を同行させて猟をし、彼を囮に使って熊を仕留めたことを聞いて激怒し、山へ入るのを止めるよう忠告するのですが、それ以後、チアキは、山に入るのが怖くなり猟ができなくなってしまいます。

伊藤は、熊撃ちのショックから銃を持つことが怖くなったと推測するのですが、姉の誘いで出かけた鳥撃ちでは、見事に野鳥を仕留めていくので、銃を持つことが怖くなったというわけではなさそうです。そして、事情のわからない伊藤が、姉・チカから聞かされたのは、この姉妹がかつて冬山で、冬眠せずの餌を求めてさまよう「穴持たず」の熊に襲われたエピソードで・・・、ということで、当時、技術力の高い猟師であった姉・チカが猟をやめた理由とか、チアキが執拗に「クマ」にこだわる理由が語られていくのですが、詳細は本書のほうで。一瞬の油断や不用意な行動が、「死」や「大怪我」を招いてしまう、野生動物との接触の怖さをあらためて教えてくれています。

このエピソードを教えてもらったかわりに、伊藤は、第三巻の冒頭でチアキに狩猟を辞めさせることに協力することを約束させられますね。


第三巻 違法ハンター、熊に襲われる


続く第三巻は、チアキの師匠として「クマ」撃ちの技術を教えてもらっているという、ジビエ・レストランを経営する「光本」という人物とのエピソードが中心となります。

この人物、正規の処理場でないところで解体をしたり、狩猟が禁止されている鳥を客に提供したり、さらに二人を連れていったシカ撃ちの現場でも路上発射とか法律違反を連発します。このあたりは、違法行為について描写していくことがそれを誘発するのでは、という批判がAmazonなどのレビュー欄でも書かれているところなのですが、素人の立場からは何が違法になるのか知らない部分もあるので、きちんと違反行為を知らしめる意味できちんと描いておいたほうがいいと思いますね。


そして、チアキが人格的には下劣と思っているこの人物に狩猟の技術を教わるために「師匠」として遇するところや、(第4巻では。光本がチアキを弟子としている下心とかも描かれています)この狩猟の世界の閉鎖性とかを垣間見せられている感じがします。

さらに、少しネタバレしておくと、この「光本」というレストラン・オーナーは、度重なる違法行為が見つからなかったので心が緩んだのか、射止めたつもりのクマに逆襲されることとなります。息の根をとめたと思って近づき、興奮した熊に指を食い千切られ、頭を押さえつけられるという絶対絶命の状態でチアキたちに救出されるのですが、ここでチアキの射撃の腕が悪かったら、あの世行きという感じですね。


彼は、動物たちをレストランで出す「食材」、あるいは金儲けの材料としか見ていないので、この展開は、ああ、やっぱり天罰が、といった感じは否定できませんね。しかし、彼の言動のはしばしに、チアキが影響され、彼女に微妙な変化が現れてきているのが気になるところです


第四巻 チアキ、クマ撃ちに目覚める


第四巻では、襲われた光本をチアキが絶妙の射撃の腕で救出します。しかし、銃撃したあと、ハンターズ・ハイが悪いほうへ影響したのか、少し狂気を孕んだ目つきになるところは心配です。


救出した経験が活きてきたのか、チアキの「クマ撃ち」の腕が突然、開眼します。熊の母子づれをはじめ立て続けに熊を仕留めて、このシーズン累計で5頭を撃つという猟果です。しかし、母熊が倒れたところに帰ってきた子熊を撃ち、

私はクマを撃ちたいわけですから、親も子も関係ありませぇん

撃ちたいだけ、撃ちますぅ

というあたりには、たしかに母グマに死なれた子グマは生きていくのが難しいという理屈はわかるにせよ、なにか暴走の気配を感じてしまいます。


で、物語のほうは、熊撃ちガールの話が伝わり、地元の猟友会から、牧場を襲うヒグマの駆除を頼まれることとなります。このヒグマを撮影した映像を見たチアキは、「左の犬歯」が欠けているのを見つけるのですが、それは、姉妹が10年前に襲われ、姉が瀕死の重症を負った上、片足を失った原因となった熊の特徴と同じで、彼女の「復讐心」に火をつけることなります。

これは、牧場の周囲を見回って、ヒグマが襲った子牛を隠している「雪饅頭」を発見しても、猟友会の他のメンバーに伝えることなく、一人で待ち伏せ猟をする行動へと繋がります。彼女が、姉が襲われた時に体が動けず、姉の大怪我を防げなかったというトラウマが表へ現れてきたということなのでしょうね。


このほか第4巻では、鹿肉や熊肉の料理や旭川の風情も、時折挿入される小編も描かれていて、ちょっとした「休憩話」も楽しめます。


レビュアーからひと言


ヒグマを扱ったものは吉村昭さんの「羆嵐」とか、戸川幸夫さんの「野生伝説 羆風」とかが有名ですし、野生動物を扱ったマンガでは矢口高雄さんの「マタギ」とか、狩猟をあつかったものは、自分の手で動物の生命を奪うというシチュエーションのせいか深刻になるものが多いのですが、このシリーズは、描写がリアルではあるものの、思想性とかは少ない狩猟マンガになっているのが特徴なのですが、一方で、銃を持ち、野生動物を狩る「人間」の「欲」や「嗜好性」を垣間見せてくれるドラマともなっています。 

 

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