信長と本願寺和睦の陰に何があったのか = 梶川卓郎「信長のシェフ」28

2020年12月10日木曜日

信長のシェフ

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 現代からタイムスリップをしたフレンチのシェフが、織田信長の専属料理人となった上に、彼の命を受けて信長の前に立ちはだかる様々な難題を「料理」によって解決していく『梶川卓郎「信長のシェフ」(芳文社コミックス)』シリーズの第28巻。


前巻で、現代から一緒に戦国時代にタイプスリップしてきたレストランの同僚「望月」の情報を手に入れるため、本願寺に身を隠している「ようこ」に会うために、信長の企みで、近衛家の「猶子」となった「ケン」なのですが、本巻ではいよいよ、信長の仇敵・本願寺光佐顕如のいる「本願寺」へと潜入します。


構成と注目ポイント


構成は


第230話 望月のハナ

第231話 あの日の出来事

第232話 友より近い存在

第233話 両雄の見る未来

第234話 顕如の引き際

第235話 不器用な沙汰

第236話 異国を見据えて

第237話 井上さん頑張る


となっていて、まずは、近衛前久、勧修寺晴豊とともに、敵方の本丸・石山本願寺に帝の勅使として入ることに成功します。ケンは和睦交渉とは関係なく、「ようこ」に会い、話をしたいだけだと顕如に訴え、許されます。


そこで、彼は、望月の特徴が耳のところに彫られた白百合の入れ墨であることや、ケンの父親が歴史の研究者で、ケンが現代のときに勤務していたホテルが、かつて近畿地方に存在した巨大な池「巨椋池」の埋立地に建設されていることや、彼がタイプスリップした時に、何か歴史的な遺物が発見されていたらしいことを聞きます。


そろそろ本能寺の変も近い頃にさしかかっているので、ケンたちがタイムスリップした「理由」のセッティングが始まっているようです。ここのところで、当方が推測するに、「歴史の意思」によるつじつま合わせってなネタあたりでしょうか。


本編のほうは、ケンとようこが会っているときに、顕如のもとへ勧修寺や近衛が帝の勅使としてやってきた本当の理由がわかります。ここでもキーとなるのは、やはり「近衛前久」ですね。彼は、この時代の公家には珍しく武道にも長け、さらに政治的な野心もあった人物で、信長との関係も良好であったことで、歴史を動かす舞台の重要キャストとなっています。そして、彼が信長の要請で仕掛けたのは、信長と顕如との「直接対話」です。


本願寺は信長による周辺勢力の封じ込めと籠城で弱ってきているとはいえ、まだまだ強い勢力を保持していたにもかかわらず、帝の講和勧告に応じて石山を明け渡します。その理由がどこにあったのか、本誌リズなりの推理がされているのですが、詳しくは本書のほうで。

少しネタバレすると、当時のキリシタンの情勢とケンの供した「ザレーティ」という北イタリアの菓子。この菓子はもともとは小麦粉でつくられていたのですが、飢饉で小麦の収穫不足がおきたときに、トウモロコシ粉で代用され、それが定番になったというものですね。


巻の後半部分では、宣教師たちの対日政策に転換とそれに対応するために、光秀が対外政策の主担当を命じられているあたりが描かれています。仇敵の「本願寺」を降し、いよいよ信長の「天下布武」が新たなステージに入ってきたことがわかります。

そして、本能寺の変の勃発も近くなっているのですが、ここらへんまでは、信長と光秀とは政治構想も同じですし、他の重臣に比べて信長の思いを一番理解している近臣であるようです。

本能寺の変の光秀の動機についてはいろいろあって、2020年のNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」あたりは、「将軍・天皇黒幕説」っぽい感じなのですが、本シリーズでは光秀が信長に心酔していて、さらに「南蛮勢力」への対抗心も共有しているのが、意外な新説がでてくるかもしれません。


レビュアーからひと言


本巻の「不器用な沙汰」のところでは、信長が忠実な旧臣を冷酷に切り捨てたとされる「佐久間信盛の追放」が新解釈で描かれています。通説では、織田政権の新しい統治策に「つかえない」と判断した部下を長年の貢献を全く考慮せずに追放した、とされていて、光秀の本能寺の変の動機の一つであるように言われているのですが、本書では、時代の変化についていけなくなった佐久間を、彼が傷つかない形で引退させたように描かれています。


真相は不明ですが、組織が急成長するときの「去り際」と「去らせ方」をいろいろ考えさせるエピソードです。

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