女景虎シリーズ完結。景虎は信玄と川中島で直接対決ー東村アキコ「雪花の虎 10」

2021年2月23日火曜日

東村アキコ

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 「越後の虎」あるいは「越後の龍」と称され、「甲斐の虎」武田信玄とがっぷり四つで死闘を繰り広げ、「風雲児」織田信長を怖れさせ「軍神」でありつつも、生涯、妻を娶らず、子もなさなかった、「義」に厚い武将「上杉謙信」が実は女性であったという、驚きの設定で展開する戦国の物語である『東村アキコ「雪花の虎」』シリーズの最終巻となる第10弾。

前巻までで幕府奉公衆で室町幕府十三代将軍・足利義輝の側近の「進士源十郎」と恋仲になって、彼の子供を宿したのだが、関東管領・上杉憲政の救援のための関東出兵の途上で流産。その心の傷を抱えつつも、武田信玄との宿命の決戦に挑む「景虎」が描かれるのが今巻。


あらすじと注目ポイント


女景虎、越後へ復帰する

まずは、お腹の子を流産した後も、武田信玄との川中島の戦いや、越後の国の政に取り組んでいるうちに心が疲れ果て、琵琶湖の近く、近江国の坂本に居住する進士源十郎のもとへ逃れてきた「景虎」だったのですが、ここへ長尾家の軍師・宗謙が迎えにやってきます。ここで、詫びる景虎を守れなかったことを詫びる源十郎と景虎に対し、

男にできない政(まつりごと)を

あなたがやってくれると信じて

皆、あなたに命を預けておるのですよ

という宗謙の言葉が「景虎」の越後や幕府内での立ち位置を現しています。彼女は弱い、庇護されるべき存在ではなく、男以上の「為政者」としての役割が期待される存在になっているというわけですね。この四年後の永禄四年、景虎は山内上杉家と関東管領の職を受け継ぎます。ようやく、歴史ドラマでお目にかかる姿になったわけですね。


第四次川中島の戦、開幕

そして、一方の武田信玄も出家し法体姿となります。こちらのほうも「武田信玄」となって、いよいよ、「桶狭間の戦」や「関ヶ原の戦」と並んで、戦国時代で最も有名な「戦」の一つで、本当に、上杉ー武田が激突した「第4次川中島の戦」の開幕です。
といっても、最初のほうは、それまでの第一次から第三次までの「川中島の戦」と同じ感じで、武田勢は川中島統治のために新しく築いた「海津城」の籠もって相手方の様子を伺い、上杉勢のほうも海津城を窺う茶臼山を大軍で取り囲んで牽制を続ける(茶臼山というは本書の解釈。妻女山というのが通説らしいです)という布陣で、このままではとうてい「激突」状態は生まれないのは明白です。

もっとも、本書によると戦国時代の合戦は、石つぶての投げあいから始まって、双方が名乗りあい、小競り合いを始めたところで、趨勢をみた劣勢側の兵が戦線離脱して戦闘終結、というパターンがほとんどのようで、命がけの戦闘は少なく「激突」状態はまれだったようですね。この頃の「兵」は農民兵がほとんで、普段は農業で生計をたてているのですから、動員はされても明確な主従関係のない殿様のために命を賭けるのはまっぴら御免、ということでしょうか。

さて、通常ではおこらない「両軍激突」が起こった原因についてなのですが、本書では「女人謙信」がちょうど月のものによる腹の痛みをおさえるために湯治にでかけた「仙仁温泉」で、これまた、上杉軍から謙信の側女らしき女性が出かけたという情報をもとにやってきた信玄と出くわし、謙信が挑発したことが、そもそもの原因とされてますね。まあ、このあたりはフィクションとしても、信玄と謙信との性格の違いを現しているようで興味深いところです。


ただ、両人ともそこは戦国武将の典型みたいな人たちなので、簡単に挑発にのったりのられたり、といったことだけなく、双方が信濃支配の決着をつけるために謙信は茶臼山周辺に発生する霧にまぎれての信玄本陣への急襲、信玄は啄木鳥の戦法で夜襲をかけ、上杉軍をつつきだしての挟み撃ちを狙っての采配が、偶然、両将が直接ぶつかりあう状況となったと推測しています。


第四次川中島の戦の勝者は?

このなかば偶然がもたらした上杉・武田両軍のガチンコの大激突の乱戦の中、手薄となった信玄本陣に景虎がなぐりこみをかけ、両雄の激突があった・・・という話が残っています。この第四次川中島の戦の場面は、このシリーズの最後の見せ場というべきものなので、詳細なアクションシーンは原書のほうでぜひどうぞ。


さらに、この戦では、武田軍4千、上杉軍3千、あわせて7千人という、戦国史上でも一・二を争う戦死者を出しています。勝敗については、上杉。武田とも自分の勝利を主張していることと、戦局の動きから「前半は上杉勢の勝ち、後半は武田の勝ち」という説もあるのですが、戦死者の数と信玄の弟・典厩信繁や軍師・山本勘助といった戦死した武将にお大物度からいうと、武田の負けといった感じがしてきます。ここで、典厩信繁、山本勘助が生き残っていれば、家康を蹴散らし、信長を追い詰めながらも信玄急死で野望を立たれた、武田軍の上洛も違った様相を見せていたような気がします。

本シリーズは、この後の武田信玄が今川の塩断ちによって難儀しているところへ、越後の塩商人が甲斐で塩を商うことを許可した「敵に塩を送る」のエピソードや、明智光秀と名を改めた進士源十郎が織田信長の使いで、景虎のもとを訪れるシーンで終幕とされてます。「女景虎」の物語の完結でありますね。

レビュアーから一言

戦国史上名高い、第四次川中島の戦を最後の見せ場としてこのシリーズは完結されてます。景虎の「戦」は、これからも武田、北条、さらには新興の織田信長との戦いが続いていくのですが、信玄と直接刀を交えたといわれる「第四次川中島の戦」がフィナーレとして一番、という作者の解釈によるものだと思います。レビュアー的には、「上杉謙信は女性だった」という異説でここまで描いてきたのですから、明智光秀の本能寺攻めは、進士源十郎による景虎の敵討ちだった、ってなトンデモ説が最後にでてくると奇想天外であったのですが・・・。


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