「阬殺四十万」にも荘丹ひるまず。そして白起に転機が訪れるー王欣太「達人伝」16・17(アクションコミックス)

2021年5月27日木曜日

達人伝

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 二百年続いた中国戦国時代の晩期。西方の強国・秦が周辺諸国に強大な力を背景に強圧をかけつつあるが、他の五国にまだ、秦の強権的なやり方に反抗する力の残っていた時代に、荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」び三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描く『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズの第16弾から第17弾。


史上名高い「やらかし将軍」趙括の采配ミスで、秦軍に大敗した趙軍へ王起の過酷な戦後処理となる「阬殺」によって、勢力を一挙に削がれた趙と秦の戦いのその後と、今まで向かうところ敵なしで、悪鬼のように怖れられていた白起に翳りが見え始めた様子が描かれるのが、この第16巻と第17巻です。


構成と注目ポイント


第16巻 玄修は秦王を襲撃するが果たせず、無念の死


第16巻の構成は


第九十一話 阬殺四十万

第九十二話 月夜の遭遇

第九十三話 玄峻の剣

第九十四話 引きちぎられた翼

第九十五話 樹枝の矢

第九十六話 長平を越えて


となっていて、まずは前巻から始まった、白起の趙兵40万の生き埋めの暴挙を伝えるため、一旦、戦線から離脱し荘丹たちのもとへ向かった玄修たち。


その途中で長平へ戦車を走らせる秦の昭王に遭遇したため、押し込めていた感情が暴発、王の襲撃を図ります。


ここで玄修たちの前に立ち塞がるのが、秦国最強の刺客・鯨骨。彼と玄修と朱涯六傑の一員・梅雲、李璋との死闘シーンは読み応えがあります。


一方、白起は「阬殺」のほうは着々と仕上げ、現地にやってきた秦王へ涼しい顔で結果を報告するのですが、秦王や秦の宮廷のほうでは動揺が収まりません。秦の宮廷の重臣たちはほとんどが中原諸国の出身者なので、降伏を申し出ている兵士を兵糧が不足するから、といった冷酷な理由で皆殺する、白起の「理屈」にはついていけなかったのですが、ここに、楚の春申君が秦王に仕込んだ

  今、天下が畏れるものは、秦か?それとも白起か?

という「毒」がしっかり作用し始めた、ということかと思います。


結果、白起は王命によって本国帰還を命じられるのですが、白起は、長平での圧倒的な勝利を踏み台に、趙の国都・邯鄲を攻め落とし、勢いを保ったまま、魏、斉へと侵攻していくつもりでしたので、この命令には不満を隠せません。ここらから、秦の宮廷勢力と白起との対立が顕在化してきます。白起は次巻で、将軍を解任され蟄居させられてしまいます。


第17巻 秦は協定を破り邯鄲侵攻し、愛国の毒舌家・李談現る


第17巻の構成は


第九十七話 王の一言

第九十八話 誕生

第九十九話 邯鄲包囲

第百話   四方の守城

第百一話  愛の達人

第百二話  黒塗りの兵書


となっていて、保有する兵力の8割以上を白起によって生き埋めされ、意気消沈する趙を救うため、荘丹たちは、楚国へ救援を求めます。


秦の強力すぎる兵力を前にして、楚国の宰相・春申君も簡単に援軍を派遣する決定は下せないのですが、荘丹たちは、「項燕」という熱血漢と知り合いになります。彼は後に楚国軍の中心として最後まで、秦に対抗した人物で、項羽や劉邦たちが反・秦の狼煙をあげたときの亡くなっていても精神的な支柱となった人物ですね。


長平の戦いの後、趙と秦は一応。停戦協定を結ぶのですが、わずか8ヶ月で秦が一方的に破約し、趙都・邯鄲を包囲します。秦の宰相・范雎としては白起を最前線から引き上げ失脚させ、軍を一挙に自勢力に塗り替えるつもりだったのかもしれませんが、楚国からの項燕ら義勇軍の参加や、趙軍の大黒柱・廉頗将軍たちの踏ん張りでなんとか持ちこたえています。ここで他国からの救援があれば、戦局を有利に展開できるのですが、秦は趙を救援する国には「白起」によって攻撃させると脅しをかけていて、他国の動きは鈍いままです。この窮地を脱するため、荘丹は単身、魏国の信陵君を訪ねるのですが・・・、という展開です。


一方、宰相・范雎に警戒され、秦国内に蟄居させられたままの白起なのですが、趙を攻めあぐねている状況にしびれを切らした秦の昭王が彼を邯鄲攻めに起用するよう范雎に迫ります。


戦局が思うように動かないのと、王命には逆らえず、白起に出陣を命じるのですが、白起は「秦は「道」を失った」と王命にも従いません。果たしてその真意は・・というところですね。


ちなみに、この巻の後半部分で、荘丹は「この国はもう終わってるな」が口癖で、何にでもケチをつける毒舌家の「李談」という男と知り合いになります。一見すると、文句をいうだけのダサ男に見えるのですが、実は・・というのは次巻以降のお楽しみです。


レビュアーから一言


秦国を中国の覇者とするため冷酷な戦法も厭わない「白起」と、厳格な政治を行ってはいても「中原の倫理」から離れることのできない「范雎」たちとはもともとそりが合わないのは当然なのですが、一番食えない奴なのは、最初、長平では白起の「阬殺」を是認したように見せながら、一転して

  わしは何とも思わぬのだが

  近臣の嘆願を蔑ろにはできぬのでな

と白起を罷免。それにもかかわらず、趙の邯鄲攻めが進まないと見ると平気で「白起」を再起用しようとする、秦の昭王の「怖さ」ですね。

この王様は、秦の始皇帝(秦王・政)の祖父に当たるのですが、白起や范雎の前には、孟嘗君や魏冄を登用して「楚」の勢力を削ぐなど、秦が中国統一を果たす基盤をつくって王様で、「秦王・政」はその上にのっかって仕上げをした形なので、荘丹たちが「敵」として考えている「虎狼の国」をつくった張本人といえるでしょうね。

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