秀吉の「唐入り」を誰も止めず、センゴクは佐竹と勝負 = 宮下英樹「センゴク権兵衛」23

2021年5月19日水曜日

宮下英樹ーセンゴク権兵衛

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 美濃・斎藤家の落ち武者から国持大名にまで出世したのに、自らの突出によって島津との戦に敗戦して改易。一家離散のどん底から再び国持大名まで出世。さらには徳川二代将軍のときには「秀忠付」に任命されるなど徳川幕府の重鎮となった「仙石久秀」のジェットコースター人生を描く「センゴク」シリーズの第4Season『宮下英樹「センゴク権兵衛」』の第23巻。


前巻で、千利休を刑死させ、政治だけでなく文化においても自らの力の支配を及ぼすことを明らかにする一方、政権内部の石田三成を中心とする奉行派と、徳川家康を中心とする勢力との内部対立が水面下で激しくなってきた豊臣政権です。ここで秀吉の嫡子「鶴松」が病死したことをきっかけに、今に至るまで東アジアの歴史に傷跡を残している秀吉による朝鮮侵略「文禄・慶長の役」が始まるのが今巻です。


構成と注目ポイント


第23巻の構成は


vol.192 夭折

vol.193 巨大事業

vol.194 太閤の激励

vol.195 同心

vol.196 卑怯者

vol.197 名護屋著陣

vol.198 人たらし

vol.199 逡巡

vol.200 渡海計画


となっていて、冒頭のところで年老いてからできた嫡子「鶴松」が病死します。三歳にならないまでの死亡で、もともと生後間もないころから病気がちであったらしいので、幼児の生存率の低かった当時としてはやむを得ないところもあったのでしょうが、この突然の死で、秀吉の心が

何らかの大きな存在

謂わば、お天道さんが

お前がやらにゃならん、とせっついてくる

といった妙な方向へと固まってきます。明国をはじめ東南アジアへ侵攻することは彼の主君であった織田信長も構想していたことなので突然出現した考えではないのですが、日本の航海能力の低さから断念していたものに再び火がついた、という感じかと思います。


ただ、本巻で描かれているように、インド副王やフィリピン総督に、高麗や明の征服を宣言し、さらにはフィリピンの服従を勧告したり、幼少の羽柴秀康(病死した弟。小一郎の息子)や豊臣秀俊(後の小早川秀秋、秀吉の北政所・ねねの兄の五男)の官位を上杉景勝や毛利輝元、前田利家並みに上げ、さらにまだ「弱輩」と言わざるを得ない「豊臣秀次」に関白位を譲るなど、明・朝鮮への軍隊派遣を睨んでの政権委譲が始まります。このへんは、織田信長の息子・信忠への政権委譲に倣ったものかもしれませんが、譲られるほうの能力が未成熟なことを考えると、性急に過ぎた感は否定できません。


本巻中での「家康」の無念の気持ちもよくわかるのですが、様々なことを踏みつぶすように、「事がなった暁には、新たに獲られる封録が授与されーー」という高揚感に突き動かされて、天正二十年、とうとう「唐入り」と呼ばれる朝鮮半島への侵攻が始まります。


一方、北条攻めでの功績で復活し、信州小諸に封じられた、このシリーズの主人公・仙石権兵衛も、動員され、九州の名護屋へ向けて兵を率いて向かうのですが、いつものようにトラブルを引き込んできます。しかも、自らが引き起こしたのではなく、「宿の優先順」でおきた、関東の常陸水戸(今の茨城県のあたりですね)五十四万石を領する「佐竹」家と、信州伊那を領する毛利秀頼(河内侍従)との争い(はっきりいうと「ケンカ」レベルですね)に巻き込まれ、佐竹勢への報復の先陣に祭り上げられてしまいます。


「唐入り」の大事な陣中での喧嘩騒ぎですので、双方に大きな被害が出れば、喧嘩両成敗に両者が改易、下手をするといいがかりをつけて騒動を起こした、ということでセンゴク側が罰を受けるという羽目になりかねないのですが、どうも、この先陣に祭り上げられたのには

かくの如く、猪武者の打ち首で手打ちとならん

もし、ならぬとて

猪の合戦ぶりは見ておきたい

という真田昌幸の意図が見え隠れするようです。

そして、三千以上の軍勢を率いて進む佐竹勢に対し、信濃衆の意地を見せるために先頭にたって飛び出した「センゴク」は今まで数多くの敗戦を経験し、領地を剥奪され一介の浪人にまで落ちぶれながら、復活した「センゴク」ならではの「解決策」が展開されるのですが、ここは原書のほうでお読みください。

格好悪い解決策ではあるのですが、戦上手で戦略家の真田昌幸は、

仙石秀久、侮りがたし

といった高評価をしています。ここらには、後の関ケ原の戦で、徳川秀忠に足止めを喰らわせた真田昌幸と、秀忠に味方した「センゴク」との前触れになっているもかもしれません。


巻の後半では、名護屋についた「センゴク」は秀吉の近習として、築城の手伝いをさせられています。「先般、喧嘩沙汰を起こした故」と登用に反対する奉行衆に対し、秀吉の意図は

彼奴めを側においとかにゃあ

何しでかすかわからん

というように描写されています。ただ、ここは秀吉が信長配下の足軽大将であった頃からのつきあいですので、彼の性格や能力はよく知っていたと解釈すべきでしょう。「センゴク」はこの肥前名護屋城の築城のほか、後の伏見城の築城でも功績を上げて加増されてますね。


そして戦局のほうは、意外にも朝鮮国の首都・漢城を陥落させたことにより、かえって混沌の度を深めます。前線の小西行長たちの主張する慎重派(朝鮮国との国交回復と統治を優先する)と加藤清正の積極派(秀吉の朝鮮入りとともに明へ侵攻すべし)との対立が激化して、その決着をつけるのは・・・ということで、まあ結局は、御大・秀吉が決断を下さないといけないわけですが、首脳陣が集合しての会議での石田三成の

御存知の通り、高麗との連絡で片道で半月・・・

返書するに一月かかり申す

思う以上に高麗は広大にござる

直ちに渡海せねば

といった「理屈」「手法」を偏重する発言が、彼のKYさを表現してますね。このあたりの詳細は原書のほうで。


レビュアーから一言


秀吉が周囲の思惑を無視して強引に進めたという印象をもたれている「文禄慶長の役」なのですが、本巻では

ワシも人の子で人の親じゃ・・・

鶴松の死を紛らわすために「唐入り」を性急に始めちまったが

もう停止できんほどに事が

トントン拍子に進んじまっとる

皆がワシを能わぬものがない

天下人と思い込んで・・・

と描かれていて、秀吉の心中の葛藤とか迷いが出ています。

秀吉死亡後の豊臣政権の瓦解の原因の一つともなったこの戦乱ですが、その結果よりも誰の止める人がいなかったということが本当の原因かもしれないですね。現在でも起こりそうなことではあるのですが・・。

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