上党郡の民衆蜂起をめぐって趙と秦が大激突ー王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」10・11(アクションコミックス)

2021年5月16日日曜日

達人伝

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二百年続いた中国戦国時代の晩期。西方の強国・秦が周辺諸国に強大な力を背景に強圧をかけつつあるが、他の五国にまだ、秦の強権的なやり方に反抗する力の残っていた時代に、荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」び三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描く『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズの第10弾から第11弾。


前巻までで武術修行を終え、趙の平原君のもとへ向かった荘丹たち三侠と、秦の公子・異人と知り合った呂不韋が、これからの中原をめぐる秦と趙・韓・魏・楚・斉の五国の戦乱に関わっていく新展開が始まります。


構成と注目ポイント


第10巻 呂不韋は秦の宮廷工作に成功。一方、三侠は上党郡で白起との対決開始。


第10巻の構成は


第五十五話 邯鄲の宴

第五十六話 舞姫

第五十七話 上党の領民

第五十八話 華陽夫人

第五十九話 大戦の火蓋

第六十話  後宮の商談


となっていて、秦の公子・異人を秦の太子にし、さらには皇帝の座を狙わせる、呂不韋の大陰謀がスタートします。


もともと「異人」は世継としてhの継承順位も低く、しかもいつ本格的な戦争となってもおかしくない「趙」へ人質に出されている存在なので、皇太子となる見込みは皆無に近い存在です。こういう存在を押し立てようという呂不韋の魂胆は

値の高いものには誰もが目をつけます

ですが、誰もが目をつけているところには

大きな利は生まれません

ということで、まさに投機市場で大財産を築いた彼らしいものですね。ただ、平原君と「異人」たちと囲んだ宴席で、呂不韋の愛妾の「朱姫」を「異人」に見初められたところが彼の誤算というか、瓢箪から駒の始まりですね。


そして秦国入りした呂不韋はまず、華陽夫人の姉に西域産の絹布を贈って心を掴んだ後、秦国太子・安国君の寵姫である華陽夫人に、趙国で不遇を囲っている公子・異人を養子にし、太子の世継に取り立てた時の彼女の「利益」を示唆し、彼女の協力を取り付けます。このあたりはほかの呂不韋や始皇帝を扱った小説などの「見せ場」となってますね。


一方、荘丹たち三侠のほうは、平原君の名代として、韓の「上党郡」へ派遣されることとなります。ここは今の山西省あたりに置かれていた郡で、韓・魏・趙の三国が分割統治していたところなのですが、秦としてはここを孤立させて占領し、中原のど真ん中に拠点をつくるつもりです。すでに秦将・白起によって頸城、南陽、野王城が陥とされ(もっとも、この後、白起は戦果をあげすぎて警戒され、本国に呼び戻されているのですが)、さらに秦将・王齕が上党郡入りして侵略を進めています。

この事態に対し、韓の王宮が下した決断は、なんと「上党郡割譲」です。本国に見捨てられ、悲嘆にくれる上党の太守と住民に対し、荘丹はなんと、

捨てられたんだから

もう王様の言うことなんか聞かなくていいんだ

と当時では想像もできないことを提案します。これは、いわゆる「革命」「民衆蜂起」ですね。この扇動にのって、民衆が韓の支配を拒絶したため、趙の軍勢がこの地を接収することになってしまいます。

もともと、法による厳格統制を嫌われていると自覚している秦の高官たちですが、王の命令に背いてまで秦を拒絶するとは思ってもみなかったことです。


この事態を重く見た秦の宰相・范雎は、呼び戻したばかりの「白起」に対し、上党郡の占領と、その後、趙の国都・邯鄲への進軍を命じます。いよいよ、秦・趙間の大戦争の開始です。

直情径行の猪武者の駐屯軍の主将がトップにいますので、果たしてどうなることやろら、といった感じで次巻に続きます。


第11巻 秦の軍師・笵束奪還に王齕将軍が降臨し血の雨が降る


第11巻の構成は


第六十一話 戦場に地籟を聞く

第六十二話 三人馬一体

第六十三話 軍師奪還

第六十四話 夜明けの撤退

第六十五話 廉頗の帷幕

第六十六話 武の空隙


となっていて、上党郡での民衆蜂起の情報は、早速に盗跖たちの本拠に届きます。今までは「いかなる場合でも帯を佩く者の戦には加担しない」を信条としていた「盗跖」た地の伝統でしたが、金や物資が秦へ集中していく情勢をみて、盗跖は秦国内での盗み働きを決めます。ただ、その前に2年間の休業をすことを宣言するのですが、その間、どこへ行こうとするのか、はこの巻の最後のところで明らかになります。


物語は、上党郡の民衆の要請を受けて、軍勢を送り込んだ「趙」の宮廷へと移ります。宮廷内では、この軍隊派遣によって、秦の標的となることを恐れる廷臣たちの批判の的に信陵君がさらされています。中原統一を目指す「秦」とはいずれ決戦せざるをえないのは明白なのですが、目の前の脅威に怯えている状態ですね。


一方、荘丹たちは上党郡郊外で、秦の王齕軍の参謀・笵束と対峙し、彼を捕虜とすることに成功します。直情径行の趙の派遣軍の首相・孟梁を刺激すれば必ず突進してくるので、それを倒せば趙軍が総崩れするという作戦だったのですが、ここに三侠が絡んでくるとは思ってもみなかったようです。


そして、捕虜となった参謀・笵束奪還のため、当然のように王齕が自ら乗り出してきます。

ここでも猪武者の孟梁が突出するのですが、彼の敵ではありませんね。


あやうく王齕によって殺されてしまいそうになるのですが、荘丹たちによって救出されることになります。結局のところ、秦の王齕によって上党は占拠されてしまうことになりますね。


そして、派遣されてきた趙国の廉頗軍に連行された「笵束」の奪取のため、再び王齕が自ら乗り出しきます。廉頗vs王齕の激しいバトルが繰り広げられるのですが、ここに、荘丹が割り込んできて、と予想外の展開をしていきます。


レビュアーから一言


国王の命令に逆らって秦国への従属を拒否し、趙国の支援を要請した上党郡の住民たちの動きに対し、即座に「白起」の派遣を決めた范雎なのですが、その理由は

韓から秦への上党献上を知りながら

趙はこそ泥のごとく韓から上党を奪い取った

これぞ不義

という従来型の発想からに対応です。もし、彼が「民衆の反乱」という危険性に気づいて、その防止策を秦王国のDNAの中に仕込むことができていたら、始皇帝死後の秦王朝の大瓦解のようなことは起きなかったかもしれないと思ってしまうのでした。

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