虎狼の国「秦」に抗う三人の「くせもの」の物語、開幕 = 王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」1〜3(アクションコミックス)

2021年5月15日土曜日

達人伝

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 秦の始皇帝こと秦王・政とそれを支えた秦国の将軍・李信を主人公にして、二百年余り続いた中国古代の戦国時代を統一していく過程を描いた「キングダム」に対して、それより前、秦国が強大な力を及ぼしつつあるが、まだ他の五国の勢力も衰えていなかった時代。荘子の孫「荘丹」、伝説の料理人・包丁の甥「丁烹」、周の貴族出身ながらある事情でそれを捨てた「無名」という三人の男が、「法律」と「統制」で民衆を縛る秦の中原統一の野望に抵抗する姿を描いたのがこの『王欣太「達人伝ー9万里を風に乗りー」(アクションコミックス)』シリーズです。


今回は、その始まりと、天下の盗賊・盗跖、戦国四君の一人・孟嘗君との出会いが描かれる1〜3巻をレビューしましょう。


構成と注目ポイント


第1巻 故国の滅亡が、三人の「くせもの」の出会いを招く


第1巻の構成は


第一話 中原のふたり

第二話 9年の約定

第三話 紀昌

第四話 あの孟嘗君

第五話 かけがえなき男


となっていて、まずはこのシリーズの主人公の一人、荘丹の故国が隣国によって攻めこまれ、その敵軍と交戦しているところから開幕します。


小国とはいえ、その団結力と外交で生き残ってきたのですが、今回ばかりは、宮殿内まで攻め込まれ、秦の刺客によって王の身柄を拘束されたのが運の尽きというところですね。


しかし、この亡国の運命は、この国だけにふりかかるだけでなく、秦の刺客・鯨骨によって首をはねられた国王は、10年後、すべての国が秦に滅ぼされる、と予言します。秦による中原征服の皮切りですね。国王と一緒に親友を殺された荘丹は、

滅亡から生じた達人たちが揃えば

一国のほしいままにはならないっ

9年後、全土の「達人」を集めて秦に抵抗するために帰還する、と故国を滅ぼした斉の朱涯将軍に約束することとなります。


国が滅び、失意のどん底にいて、しかも熱病を併発した荘丹は、「無名」と名乗る同年輩の男性と出会います。彼の頭の中には、中国各地にいる「すんごい奴」つまりは達人の情報がぎっしりと詰まっていて、

いつかは本名を列伝に連ならす侠(おとこ)になる

というのを目標にしている男です。名前は「無名」つまりは「名前無し」ということなのですがその理由は後の巻で彼の故郷である「周」を訪ねたときに明らかになります。


さらに、「無名」は熱病で動けなくなっている「荘丹」を見捨てておけず、彼を背負っていった近くの町で、伝説の料理人の甥・丁烹に出会います。


彼はこの町にやってくるという「孟嘗君」に自分の料理を提供して食客にしてもらおうとやってきたのですが、「孟嘗君」の奥方と称する女性が真っ赤な偽物で、盗跖の妹・盗扇であることを知り、盗賊たちを相手に大暴れをすることになるのですが、詳細は原書のほうで。


第2巻 荘丹たちは大盗賊・盗跖に気に入られる


第2巻の構成は


第六話 侠の精神

第七話 天下の大盗

第八話 深き霧中の会

第九話 天道を行け

第十話 秦の将軍

第十一話 天下の経穴


となっていて、荘丹と丁烹は、盗跖の妹・盗扇に勧誘されて、盗賊たちの本拠に行った「無名」を追って盗賊たちの本拠へ向かいます。


ここで、盗跖たちによってあやうく殺されてしまいそうになる二人なのですが、盗跖の砦を探りにきていて秦の密偵と盗跖たちの小競り合いに命拾いをすることになります。


秦の勢力と監視が、六国ばかりでなく、盗跖のような闇の勢力まで及んできていて、これが進めばとても息苦しい世の中になることを嘆く盗跖に対し、荘丹も

虎狼の国の作る、その巨大な国は

人を徹底的に締め上げる

冷酷な法の国だ

と警告します。ここらは「キングダム」が秦国側から描かれているに対し、このシリーズは反・秦国をここで明確にしています。


そして、

大盗賊は虎視眈々と天の時を盗む

そして天地の底に大穴を開けて笑うんだ

というのが盗跖に対する、荘丹の提案ですね。これがきっかけで盗跖と仲間となります。


ついでに妹の盗扇は、荘丹にちょっと惚れてしまうこととなります。


第3巻 秦の魔将軍・白起、楚の宗廟を焼く


第3巻の構成は


第十二話 殺戮将軍 白起

第十三話 髑髏の唄

第十四話 胡蝶の夢

第十五話 舌鋒、春申君

第十六話 西域を纏う男

第十七話 叔父貴の牛刀

第十八話 丹(あかし)の侠


となっていて、冒頭で、周辺諸国との戦に連戦連勝し、秦の領土拡大に大きな貢献をするとともに、その冷酷な戦後処理でも有名な「白起」将軍の登場です。


彼は自ら軍の先頭に立って攻めるタイプの武将で、軍略だけでなく、武術の腕も相当なものです。


ただ、彼の怖さは、こうした軍略や武術といったところではなく

まず私は戦いの是非や

殺戮の善悪などを問うものではない

と、秦王の命令に従って粛々と兵を進め、他国を侵すのだと割り切っているところです。なので、戦の終わった後の過酷な戦後処理や、抵抗を続ける敵方をすり潰していくことを情け容赦なく成し遂げてしまうんでしょうが、これが後に彼が宰相たちや国王に疑心を抱かれた原因でもあると思われます。


一方、荘丹たちのほうは、臨終間近い「孟嘗君」に面談がかない、彼から魏の信陵君への紹介状をもらうことができます。


さらに彼の食客たちに、9年後の荘丹たちの旗揚げの際にはかけつけて力を貸すよう遺言をのこしてくれます。孟嘗君の食客といえば、「鶏鳴狗盗」の故事で有名なように3千人以上の「異才」の集まりなので、かなりの力となることは間違いないですね。


さらに今巻では、秦の中原統一に大きな影響をもった始皇帝に誕生に大きく関わった呂不韋がまだ市中で商人をしていたときに、荘丹たちが出会うシーンもあるので、ここはチェックしておきましょう。


レビュアーから一言


荘丹の故国は、この巻では、国名は明らかになっていないのですが、荘子の故郷であったことや、都を攻め落とした朱涯という将軍が、後の巻で「斉」国の将軍であることがわかるので、おそらくは「宋」国ではないかと推測します。


春秋戦国時代の「宋」は、もともと、周王朝の前の王朝である殷の王族が封じられたところなので、格式からいうと秦や斉などの戦国時代の成り上がりの強国よりはるかに上の国で、国王が秦の刺客・鯨骨に短剣をつきつけられながらも、

衛兵にも風雅を解する者がいる

それでこそ我が国よ

といったあたりに伝統ある国ならではの「プライド」がにじみ出ています。ただ、春秋時代の襄公の時代には諸侯を集めて会盟を開く実力を蓄えながら、その後衰退したのは、こうしたプライドが悪影響したのかもしれないですね。

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