「タイマン」交渉で大統領の決断を引き出せ=アルキメデスの大戦20〜21「米国和平交渉篇2」(ヤングマガジンコミックス)

2021年11月6日土曜日

アルキメデスの大戦

t f B! P L

 世界大戦へと進んでいく日本の運命を変えるため、その象徴となる「戦艦大和建造」を阻止するため。海軍に入り、内部から太平洋戦争をとめようとする天才数学者の姿を描いたシリーズ『三田紀房「アルキメデスの大戦』シリーズの第4弾から第8弾」


前巻で陸軍、アメリカ双方をなだめて交渉のテーブルに再度つかせたものの、日本とアメリカの溝は埋まらない中、マッカーサーにアドバイスされた「画期的なアイデア」を櫂が交渉の切り札として提示し、ルーズベルト大統領との直接交渉の場に臨んでいくこととなります。


あらすじと注目ポイント


第20巻 仰天の交換条件でアメリカを動かせ。


第20巻の構成は


第189話 ガードナーの本性

第190話 自由の女神

第191話 陸軍への提案

第192話 最終協議開幕

第193話 画期的アイデア

第194話 大和の価値

第195話 マッカーサーvsガードナー

第196話 世界を動かす男

第197話 机上の戦争

第198話 大統領の要求


となっていて、前巻の最後で訪れたニューヨークで激しい反日運動に出くわした櫂は、マッカーサーのアドバイスした「画期的なアイデア」が思いつかないまま、招かれたパーティーで、ルーズベルト大統領の側近の一人である経済学者のガードナーと面談します。


ここで櫂はアメリカ首脳陣の本音にふれ、日本をアメリカのアジア支配の橋頭堡にするという野望に屈しないためにも、和平交渉を結ぶ決意を新たにします。


そして、そのアイデアを、アメリカの象徴である「自由の女神」を観光したときに思いつくのですがその中身は

①「南満州鉄道の株式49%の売却と中国からの撤兵」

②「新・大和の売却」

というものです。


彼の狙いは、南満州鉄道株をアメリカに所有させることで、満州の統治にアメリカを引きずり込むことと、「新・大和」がアメリカの工業規格でつくられていることに象徴される、日本とアメリカとの実質的な経済協定の成立です。この提案に、あくまでも開戦に主眼をおくハル長官は抵抗を試みるのですが、マッカーサー元帥の「大統領の決断」を、という提言に粉砕されます。


大統領の顧問であるガードナー教授も反対をするのでですが、アメリカ軍首脳陣の

学者風情が知ったような口をきくな

君に戦争の何がわかる

だったら戦場へ行ってみろ

鉄砲の弾の下をくぐってみろ

という言葉に返す言葉がなくなり沈黙してしまいます。ここらは、実際に生死をかけた場面に出たことのない「学者」の弱さですね。


そして、とうとう日本側との交渉に大統領が出席することとなるのですが、交渉の場に引きずり出されたルーズベルトは、南満州鉄道の株と戦艦の買取をにべもなく拒否し、アメリカの提示する「日本の中国からの撤退」「満州国の解体」「治外法権の放棄」「アメリカとの和平に反する第三国との軍事同盟の破棄」という条件が受け入れなければ、戦争に突入だ、と脅します。


これに対し、もともと直情径行の牟田口少将は「受けて立ってやる」といきり立ちます。この場面で、今まで冷静に議論をしていた櫂は

貴国と一戦交えて進ぜましょう

と予想外の言葉を口にします。果たして彼の真意は・・という展開です。


第21巻 大統領とのタイマン交渉の結末は?


第21巻の構成は


第199話 密室の攻防

第200話 アドルフ・ヒトラー

第201話 フランスの盲点

第202話 最後の条件

第203話 仮調印

第204話 交渉の余波

第205話 マキコ対薮本

第206話 焼失

第207話 惜別

第208話 近衛邸萩外荘


となっていて、前巻の最終盤で、大統領選を控え失点を抑えたい大統領の弱みを利用して、二人きりでの直接交渉にもちこむことに成功した櫂だったのですが、密室の中で大統領は拳銃を櫂にむけ、彼の殺害をほのめかします。


櫂を撃とうという大統領の動機は「秀才ぶりをひけらかし、論理で相手を打ち負かす得意顔が気に入らない」という単純すぎるものなのですが、東條英機、ヒトラー、ルーズベルトといったこの時代の世界を動かしていた人物たちにことごとく嫌われる主人公というのも珍しい設定です。

この場面で、櫂はルーズベルトに対し、ヒトラーの性格分析から彼のバリ侵攻とマジノ線を突破した電撃作戦のアイデアを説明し、ルーズベルトを揺さぶります。そして、交渉の最後の場面で、妥結にあたって交換条件の追加を求めるルーズベルトに対し、太平洋南洋諸島の委任統治権と北太平洋のアリューシャン列島との交換を提案し、大統領から「交渉妥結」の決断を引き出すことに成功します。


それが意図するところが何なのか?は原書のほうでお確かめください。日本の南太平洋での植民地政策が行き詰まっていることの解決策であるのですが、実は、アメリカ牽制の意外な一手を含んでいることが次巻以降でわかってきますね。


もちろん、日本・アメリカ双方に交渉妥結に異を唱えるメンバーは」いるのですが、日本側交渉団の最大の障害となりうる牟田口少将は、東條中将に対する対抗心で、アメリカ側の経済顧問のガードナー教授は、フィリピンへ戦禍が及ぶことを警戒するマッカーサーによって抑えるといった戦略は見事です。


このアメリカとの和平交渉は、櫂中佐(交渉中は臨時昇進して「少将」なのですが)の思惑通りにいくのですが、他方、日本では、二重スパイかつ恋人として櫂に協力してくれている「綾部マキコ」に特別高等警察の捜査の手が伸びてきて・・という展開です。


レビュアーの一言


この物語で日米和平条約交渉が行われたとされている時期は、翌年に大統領選挙を控えているのですが、ルーズベルト大統領はこの選挙で、今までのアメリカ大統領選挙の不文律を破って、三選出馬をしています。いままでは明文の規定こそなかったものの、初代ワシントン大統領が三選を断念したことから三選目に出馬した大統領はいなかったのですが、ルーズベルトは今までの慣習を破って挑戦したわけですね。


しかも、当時、ナチス・ドイツと対立状態にあるイギリスとの間で戦端が開かれた場合、アメリカも参戦するかどうかで大議論となっているときでもあり、この物語でルーズベルトが大統領選挙を非常に気にしているのは頷けるところです。ちなみに、イギリスの諜報機関MI6が1940年の大統領選挙の世論形成に介入した、というお話もあるようです。




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