鄭和の最終航海が目指す未踏の地はどこ?=星野之宣「海帝」9(ビッグコミックスペシャル)

2021年11月28日日曜日

星野之宣

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 コロンブス・マゼランといったヨーロッパの大航海時代の百年以上前、アジアの大国・明の三代皇帝・永楽帝から第五代・宣徳帝の時代にかけて、7回にわたって派遣された明の大艦隊の指揮をとって、アフリカまで到達した、異色の宦官「鄭和」の大航海を描いた「海帝」シリーズの最終巻となる第9弾。


前巻でジャワ王国の東王と西王との覇権争いを集結させたり、セイロン王国で中国商人を排除しようとするアクガラコクナーラ王に味方するアラビア艦隊やモルディブ女王の残党との戦いを征して帰国した第三次航海の後、マラッカ王国内の蘇幹刺(スカンダル)の反乱を鎮圧した第四次航海を続ける鄭和艦隊だったのですが、永楽帝の崩御を経て、最後の航海へと物語が終結していくのが本巻です。


あらすじと注目ポイント


構成は


第64話 西の果て

第65話 始原の地

第66話 第五次航海

第67話 稲妻

第68話 寄進

第69話 第七次航海

第70話 点火

第71話 東の海

最終話 終着地


となっていて、マラッカを出港した鄭和たちは、ジャワで「猿神」と崇められているフローレンス原人の一族を乗せて、さらに西へと進んでいきます。

インドで、チベットへ帰還するラマ教の海師の別れたあと、当時の中国にとっては未知の地であった、アフリカの東海岸地帯へと進みます。その地のマリ王国で「キリン」を手に入れたり、マダガスカル島で巨鳥・エピオルニスを発見したりして帰国の途につきます。ただ残念なことに、フローレンス原人の長老は、アフリカの地に帰ったものの、そこの自然の厳しさのため、原人が帰還する土地の環境ではすでになかったようです。


また帰国した明国では、鄭和と対立する蔡全人の権力が増してきていて、第五次航海に出ることで大激突は避けられたのですが、鄭和を支持する永楽帝が年老いていく中、鄭和艦隊への暗雲が差し掛かり始めているのは否定できませんね。


第六次艦隊で再びアフリカまでの大遠征を行った後、第七次航海は無期延期の決定がくだされます。いままでの6回の航海で莫大な費用を費やしたことと、永楽帝が自ら親征していた蒙古遠征の戦果も芳しくなかったことの相乗効果と、宦官をよく思っていない、士大夫の劉大峨が実権を握り始めたことによるものと思います。


そして、永楽帝の寿命がつきかける時、彼は諜報機関である東廠の長官・蔡全人に永楽帝が死去した後、鄭和を洋上で殺害するよう遺言を遺します。海の上の「陰の皇帝」として使ってきた鄭和を、陸の皇帝が崩じる時にあわせて葬ろうというものですね。今わの際の永楽帝のこの思いが、鄭和と彼との関係を象徴しています。


さらに、永楽帝の崩御後、鄭和は司礼監の職を解かれ、さらに私財100万両を寄進して南京にある大寺院の改修と南京市街と沿岸の警備をするよう命じられます。体のいい降格と財産没収の命令なのですが、実はここに永楽帝の最後の「好意」が隠れていることを後に鄭和は知ることになります。


それは4年後、永楽帝の跡を憑いだ洪熙帝が崩御し、孫の宣徳帝が即位したときに明らかになります。


鄭和と面談した宣徳帝は、永楽帝の秘せられていた「100万両の寄進と引き換えに宝船艦隊4隻と付随する戦船を下げ渡す」という遺言を明らかにします。さらに、第七次航海への出発を命じ、鄭和最後の航海が始まることとなりますね。


ただ、公務である第七次航海は往路までで、帰路は公務を解かれるので、ここから鄭和を暗殺しようとする蔡全人との対決が始まる、ということになります。


アラビアまでの公務としての航海が終了し、艦隊から離れた宝船艦隊4隻なのですが、鄭和の乗船する一号船と、蔡全人をはじめとする東廠・西廠の兵士たちが乗船する二号船から四号船との決戦が洋上で始まるのですが、このあたりの大バトルシーンはぜひ原書のほうで読んでくださいね。なかでも、黒市党の戦士として成長した。建文帝の皇女・沙姫が父と母の敵である蔡全人を討つ場面は、鄭和の大航海の締めくくりとしてふさわしいシーンです。


ちなみに史実では、鄭和は、第七次航海が修了して帰国後ほどなく南京で死去したとなっているのですが、本シリーズではそれとは異なる、冒険者・鄭和にふさわしいラストシーンが用意されています。


レビュアーの一言


鄭和の大航海は西欧諸国の大航海時代とは対照的に基本的には通商を主眼としていて、航海地での武力行動は少なかったのですが、財政を逼迫させた原因と考えられたせいか、彼の船団編成や会計、航海記録などは宮中の資料庫に保管されていたはずなのですが、数十年後に九代目の皇帝・成化帝が調べさせたところ、ほとんどすべてが消失していたようです。

物語としては血湧き肉躍るものなのですが、国家財政を第一とする官僚たちにとっては、目の敵的存在だったのかもしれません。


追記>

この物語は、明時代の宦官であった「鄭和」の冒険物語を描くのが本旨であったと思われるのですが、中国の海洋進出が活発になり、そのシンボルとして「鄭和」が取り上げられたあたりから雲行きが怪しくなり、意外に短い巻数で完結することになりました。

政治情勢がコミックの世界に影響を及ぼしてしまった「負」の歴史と考えていいかもしれません。


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