鬼助を襲う破門された跡継ぎを祓う「あお」のワザを見よ=安達智「あおのたつき」9(マンガボックス)

2022年9月18日日曜日

あおのたつき

t f B! P L

 江戸を代表する遊郭「新吉原」の羅生門河岸の角にある「九郎助稲荷」の奥の浮世と冥土の境にある「鎮守の社」を舞台に、売れっ子の時に死んだ花魁の霊「あお」と宮司の「楽丸」と社の主神・薄神の三人が、思いを遺して死んだ遊女の霊を浄化させていく、少しコミカルなオカルト時代劇本『安達智「あおのたつき」(マンガボックス)』シリーズの第9弾です。


冥土の郭役人から頼まれた「郭七不思議」の謎を解きあかす仕事をこなしていくうちに、浮世の吉原に迷い込んでしまった「あお」と「鬼助」。七番目の怪の「誰也行灯」のそばでおきた辻斬りの犯人が幕府の御様御用を努める「山田家」の家紋の入った長刀をつかっていたことから、鬼助と彼の師匠である五代目山田朝右衛門吉睦の生前の因縁話へとつながっていきます。


あらすじと注目ポイント


構成は


其ノ参拾玖 鬼の男①

其ノ肆拾  鬼の男②

其ノ肆拾壱 鬼の男③

其ノ肆拾弐 鬼の男④

単行本特典 金魚飼い

特別寄稿 人斬り浅右衛門家の業と近世社会


となっていて、今回は、吉睦に拾われた後の鬼助を通じて、幕府の御様御用を請け負っていた山田浅右衛門家の五代目と縁を切られた元六代目の確執が描かれます。


山田浅右衛門家は「請負っていた」と表現したように、幕臣ではなく浪人の身分で、将軍家の所蔵する名刀の試し斬り役と罪人の処刑役を務めていて、その余得として、斬首した罪人の体を使った大名家や大身の旗本の刀剣の鑑定と、試し斬りに使った罪人の内蔵をつかった薬の販売を手掛けていて、かなり裕福であったようですね。


罪人を斬るという技術の必要な職業柄か、当主に男子がいても継がせることはほとんどなく、弟子のうちの腕の立つものを養子にする例が多かったようで、この巻で「敵役」となる山田清五郎も六代目候補として、盛岡藩の藩士の家から養子にきていた人物です。

(ちなみに、五代目吉睦は三代目の吉継の娘で奥州湯長谷藩の藩士に嫁入りしていた女性の次男です)


養父・吉睦の試し斬りを、煙管を片手の見ていたということで離縁され、六代目となれなかった人物で、これだけでなく他にもいろいろな不始末があっただろうと想像されるところですが、本書では無宿者の子供から吉睦に拾われた鬼助が蔵番をする「肝蔵(きもぐら)」へネズミを放ったり、吉睦が鬼助の名前を記した紙を、山田家秘蔵の肺病の薬「山田丸」の調合が書かれたものと勘違いして奪おうとしたり、家人に隠れて様々な暴行を鬼助に加えています。

本書の中でも、盛岡藩士の出身であることに相当のプライドをもっているようで、薬の販売や刀の鑑定料で裕福とはいえ、処刑人で浪人の家である「山田浅右衛門家」の養子となったことに、わだかまりをもっていたことが想定されます。


この「清五郎」が吉睦に煙管片手に様斬を見ていたことで離縁されたことにより、安定した生活と身分を突然失って落ちぶれたことで吉睦を恨み、その死に際して山田家所蔵の名刀を盗み出し、辻斬りを重ねた上、あの世とこの世をつなぐ隙間から「薄神白虎社」へと迷い込んできます。


そこで見つけた吉睦の霊に襲いかかろうとする時、鬼助が制止に入るのですが彼の姿も妖物に変じてしまい・・という展開です。


さらに、清五郎が奪った「宝刀景光」の付喪神も出現する中、この騒ぎを「あお」がどう収束させていくか、彼女の「ワザ」が試される時ですね。ここは

わっちには生きていく言霊がおざんす

命運を変えるのは「手管」さ

という「あお」の言葉が頼もしく聞こえます。

おまけの「特別寄稿」では、この「あおのたつき」で時代考証をしている土川たけるさんが「人斬り浅右衛門家の業と近世社会」と題して、Wikipediaでも記述の少ない、五代目吉睦について詳述されています。美術日本刀専門店「つるぎの屋」さんのHPの「山田浅右衛門一覧」とあわせて読むと理解が深まると思います。


レビュアーの一言


本巻では、山田浅右衛門家の副業とでもいうべき、処刑された罪人の内蔵などをつかった「山田丸」「浅右衛門丸」という生薬が登場します。当時、肺病に効くとして有名で、山田家が財を成したもとですが、人体のさまざまな部位をつかった生薬は日本だけでなく、世界中で用いられてきた例がありますね。

例えば、「安達ケ原の鬼婆」は、公家奉公をしていた老女が、仕えていた娘の病気を治すために妊婦の生き肝を求めたのがそもそもの発端ですし、水戸黄門で有名な徳川光圀が編纂を命じた医学書の中には、フグの毒を解毒する薬として「大便」をつかったものが載せられているそうですし、江戸時代の「血行不良」の特効薬は「エジプトのミイラ」であったとの話もありますね。

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