北条残党狩りを逃れて、いよいよ叛乱の時来る = 松井優征「逃げ上手の若君」5〜7(JUMP COMOCS)

2022年9月19日月曜日

歴史コミック

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150年続いた鎌倉幕府を滅ぼし、北条一族を敗死させた後醍醐先帝と足利尊氏に対して、信濃の神官・諏訪頼重の一族の力を借りて逆襲を図る、北条得宗家の後継ぎで「逃げ」の名手である、後の中先代の乱の主謀者「北条時行」の逃走と活躍を描く『松井優征「逃げ上手の若君」(JUMP COMOCS)』の第5弾から第7弾。

前巻までで、信濃守護・小笠原貞宗の派遣する傭兵隊の隊長・瘴奸の略奪行為から村を救ったり、信濃国司・清原信濃守の侵略で滅亡しかけている保科党を救出したり、と後醍醐天皇・足利尊氏たちの邪魔に成功してきた北条時行たちだったのですが、尊氏幕下の弓の名人・小笠原貞宗との一対一の対決や京都へ潜入して、佐々木道誉や楠木正成など新政府側の重要人物と直接相まみえる「逃げ若」が描かれます。

あらすじと注目ポイント


第5巻 北諏訪へ攻め入る小笠原・国司連合軍を迎え撃て


第5巻の構成は

第35話 問答1334
第36話 女傑1334
第37話 改革1334
第38話 信濃動乱1335
第39話 鷹1335
第40話 三大将1335
第41話 覆面1335
第42話 神輿1335
第43話 軍略1335

となっていて、前半では小笠原貞宗の屋敷に呼び出された時行は貞宗直々の尋問を受けています。

彼は弓の名手で、その武芸をつかった表情の観察と心音の聞き取りで、相手の発言の真偽を見抜く特異能力の前に、あやうく北条一族の生き残りであることを見抜かれそうになるのですが、亜矢子の「田楽踊り」のパフォーマンスによって救われることになります。

中盤では、建武新政府の公家びいきの政策に、武家側の不満がたまり始める中、親北条勢力を一掃するようにという後醍醐天皇の綸旨によって、一応の均衡状態であった北信濃に動乱がおこります。

動乱は北信濃の地形から、市川助房軍vs望月・常岩軍の北方戦線、清原信濃守の国司軍vs保科・四宮軍の中央戦線、小笠原貞宗軍vs海野・犬甘軍の南方戦線の三つにわかれて戦われているのですが、北条時行は、その3つをつなぐ伝令役を任務とします。

もともと兵力的には圧倒的に有利な建武新政府軍の対し、その情報収集力と「逃げ足」を使った伝達の速さで、最新の情勢に基づいた戦略をたて、いかに縦横無尽な戦術をアドバイスできるか、時之の「軍略」が試される展開です。

時行は、大将の交換をはじめとする兵力の再配置によって中央方面の国司軍を壊滅状態にするまで追い詰めるのですが、戦なれしている小笠原貞宗や彼の傭兵隊長・瘴奸によって、最後には逆転を喫してしまいます。この経験の差をどうやって埋めていくか、がこれからの「逃げ若」の課題ですね。


第6巻 叔父・北条泰家とともに上った京で出会ったのは婆娑羅の娘


第6巻の構成は

第44話 繋がり1335
第45話 顔芸1335
第46話 髪1335
第47話 顔1335
第48話 京1335
第49話 凄み1335
第50話 大都会1335
第51話 双六1335
第52話 婆娑羅1335

前半部分では、後に北条時行の盟友となる諏訪頼継が登場します。

時行を支援している諏訪頼重が諏訪神社の「神職」の座を譲ってから、一族内や地元の者の皆からチヤホヤされていたのですが、時行が亡命してきて以来、人気が彼に集中するのが面白くなくて、時行に「鬼ごっこ」の勝負を挑んできます。
たかが「鬼ごっこ」なのですが、舞台となるのが断崖絶壁や山深い諏訪で、諏訪大社の社人たちが伏兵として潜んでいるので、かなり命がけの「鬼ごっこ」となるようですね。

中盤部分では、鎌倉幕府最後の執権・北条高時の実弟の北条泰家が諏訪へ落ち延びてきます。彼は鎌倉幕府滅亡時、時行を逃がした後、所領のあった陸奥へと逃れていたのですが、そこへも尊氏たちの追手が迫り、諏訪へとやってきたわけですね。しかし、彼を追って、さらに尊氏や高師直の派遣する「天狗」と呼ばれる忍衆が諏訪の地にも入り込んできたため、頼重は時行を守るため、逆に尊氏たちの本拠地、京へと向かわせます。一月後に計画している挙兵の前に、総大将となる「北条時行」に相手方の姿をみせておこうという趣旨でもあるようです。

そして、京へ入った時行たちが街で出会ったのは、博打に強い「魅摩」という女の子。彼女はなんと、足利勢の中の謀将・佐々木道誉の娘で・・という展開です。

魅摩との双六に負けて身ぐるみを剥がれている玄蕃を救い出すために、雫がとった捨て身の色仕掛け戦法は原書のほうでお確かめを。


第7巻 後醍醐天皇暗殺失敗。挙兵の日迫る。


第7巻の構成は

第53話 腹黒1335
第54話 スキャナー1335
第55話 楠木1335
第56話 暗殺1335
第57話 尊氏1335
第58話 帰還1335
第59話 選択1335
第60話 悪党1335
第61話 中千代1335

となっていて、冒頭では、足利尊氏、高師直、佐々木道誉といった足利勢の京都における主力が勢揃いしているのですが、通説とは違って、いずれも得体のしれない怪人物ばかりに描かれています。

そして、京へ上った時行が泰家とともに向かったのが、鎌倉幕府成立当初から幕府と朝廷との取次役を務めた西園寺家。ここの現当主・西園寺公宗と泰家は、後醍醐天皇を暗殺して、持明院統の後伏見上皇を践祚させるという陰謀を企てています。

これは
鎌倉幕府の滅亡後、帝は・・・
北条と近かったわが西園寺家を露骨に冷遇した
帝の命を奪い、北条の世に戻さねば・・
麻呂の出世は生涯望めない
と政権交代の時にありがちな旧勢力の反撃です。
ただ、この謀みは公宗の弟・公重の密告により発覚して、公宗は処刑されます。以後、西園寺家の権勢は失われ、幕末の西園寺公望に至るまで戻ることはなかったようですね。

そして、時行は信濃を出る前に、諏訪頼重からこの計画の内容とおそらく失敗するだろうという彼の見立てを聞いていて、京都行には、計画失敗後、泰家と西園寺公宗を京から安全に退出させる逃げ道を探すという目的もあり、京市中を散策してまわっていたというわけです。
そして、京都中を歩き回る時行が、偶然出会ったのが、楠木正成で、という筋立てです。

時行に自分と同じ「逃げ」の才能を見出した正成は、時行を自分の屋敷に招き、「逃げの極意」を彼に教え込み、それを記した戦術書の下書きを彼に伝授するのですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

中盤部分では、この楠木邸を訪ねてくる足利尊氏を狙って、彼の暗殺計画を実行するのですが、あっさりと見抜かれた上に逆襲にあうことになります。

そして、時行は
無自覚の極悪
無邪気に生きているだけで
人を狂わせ死なせる男
という尊氏の恐ろしい「本性」をみせられることになりますね。

後半にかけては、弟・西園寺公重の密告により暗殺計画が漏れ、西園寺公宗は捕縛。彼と別れた泰家と時行は京都を脱出して、信濃へ帰還します。
そして、当初からの狙いどおり、後醍醐天皇の暗殺未遂で、建武新政権側が動揺し、関東で北条の残党狩りを行わせていた新政府側の武士たちを京都へ呼び寄せた隙をついて、叛乱の狼煙をあげることとなります。


レビュアーの一言


第6巻から第7巻にかけて、北条時行は京へ行くわけですが、今までの価値観が壊れて新しい文化がうまれつつある「混沌」の都の様子が描かれています。
鎌倉幕府が滅んだ理由は、元寇の恩賞がほとんどなかったことや、北条得宗家の専制といったことが言われているのですが、実は全国の武士たちの多くが反旗を翻した理由ははっきりいってよくわかっていない、というのが実情のようです。
農業中心の鎌倉政権が、西国を中心に急激に伸長した貨幣経済に対応できなかったためという説があるらしく、京の混沌ぶりと京へ上った武士たちが「婆娑羅」と称して絢爛豪華な乱雑さを謳歌したことをみると、案外、この説が的を射ているのかもしれません。

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