奴隷あがりの語学の天才がモンゴルへ復讐を計画する=浅村壮平・石田点「ゾミア」1〜2(ヤングマガジンコミックス)

2022年10月24日月曜日

歴史コミック

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 13世紀初頭、東は東ヨーロッパ・トルコから西は中国に至るまで、ユーラシア大陸を横断する、世界史上、大英帝国に次ぐ2番目の領土を有したモンゴル帝国。その初期、中国・金の首都・中都大興府へ、史上初の大空襲をはじめとするモンゴル軍の大攻撃がしかけられました。その戦禍の中を生き延びた、元奴隷で語学の天才「ネルグイ」のモンゴル帝国への復讐劇を描く『浅村壮平・石田点「ゾミア」(ヤングマガジンコミックス)』シリーズの第1弾と第2弾。


あらすじと注目ポイント


第1巻 語学の天才・ネルグイは金国首都を焼け出され、再び奴隷となる 


第1巻の構成は


第1話 名無しと英雄

第2話 繋がれざる者

第3話 来訪者たち

第4話 欺瞞作戦

ゾミア辺境余話


となっていて、シリーズの冒頭は1215年、モンゴル軍の4年にわたる包囲戦を耐え忍び、しばらくの平和な状況にある金国の首都、中都大興府から始まります。


ここで、元奴隷の戦災浮浪児・ネルグイは友人のバートルとともに、金国の役人をしている耶律楚材の命令で、都を囲む城壁の壁を壊す仕事をしています。

バートルはその体力で実際の現場仕事を、語学が巧みなネルゲイは、契丹人、西夏人、ウイグル人など国や言語の異なる人々に作業の指示をして暮らしています。


日々の食料にも困っていた彼ら二人の才能を見出し、仕事を与えてくれた耶律楚材にネルグイは感謝しているのですが、彼の正体は実はモンゴルのスパイです(これはこのシリーズのフィクションであることが第一巻の裏表紙で明らかにされてますので、ネタバレしておきますね)。


彼が「疫病防止のため」と進言して、壊した城壁からモンゴル軍は、燕による空襲をしかけ、城内へと侵入して殺戮を繰り広げます。城内の住民が虐殺されたり、奴隷として捉えられたりし、金国首都は壊滅状態に陥るというのが導入部です。実際のところ、このモンゴルの攻撃によって金国は首都・大興府を放棄し、開封へ遷都しています。


ネルグイのほうは、モンゴル侵攻のどさくさで西夏からやってきていた奴隷商人につかまり、奴隷輸送の馬車の中で意識を取り戻します。ここで、ホラズム王国の第一王子を名のるマイスールと知り合うこととなるのですが、ネルグイの今後の旅で彼が重要な役割を持つこととなります。


で、奴隷商人のキャラバンでは、その過酷な旅と先行きの見えなさで精神を病んでしまう奴隷が出てしまうのですが、ネルグイはそれを防止するため、奴隷として捕まっている人々に西夏語を教えて、家奴としての単価をあげるとともに精神を止むのを防ぐ、と奴隷商人たちを説得し、奴隷たちの言語指導を始めるのですが、これが予想外の結果を招いてしまうこととなります。


この出来事がネルグイがモンゴルへの復讐心を呼び覚ますきっかけにもなっています。


さらに、この奴隷商人を襲うモンゴル兵を「山の民」が撃退した後、モンゴル兵から逃れるため、西夏国の都市・興慶を目指し、モンゴル兵が取り囲む興慶城内に入り込むためある策を講じます。それは、モンゴル軍特有の民族混合を利用したあるやり方だったのですが・・ということで詳細は原書のほうで。


第2巻 ネルグイは親友と再会し、モンゴルから停戦をかちとる


第2巻の構成は


第5話 付和雷同

第6話 朝三暮四

第7話 電撃作戦

第8話 有朋自遼方来

第9話 大いなる懸隔

第10話 会者定離

第11話 赤子乃心

第12話 South Side of the Sky

第13話 in case・・


となっていて、モンゴル兵の指揮官の首を手土産に興慶城内に入り込んだネルグイとマイスールなのですが、いつの間にか彼らにぴったりとついてきていた、凄腕戦士の山の民・ミマも彼らに同行しています。

そして、城の守将・ガンプ将軍と面会した彼らは興慶に到着してモンゴル軍との休戦交渉に臨むのですが・・というのがこの巻の冒頭部分です。


しかし、やってきたモンゴル軍の西夏出身の千人隊長・チャガンは、大ハーンの命令で西夏側の停戦交渉には応じることはできず、徹底応戦を命じられている、と主張します。


1214年当時、モンゴルが南シベリア、中央アジア、中国東北部をすでに支配下におさめているので、武力を背景にした強行な外交政策を取っています。

ただ、ホラズム王国の方もこの頃、アフガニスタンから北インドを支配していたゴール朝やイラクのアッバース朝を圧迫し、西アジアから中央アジアにかけて広大な領土を支配しているので、ここは強気と強気のぶつかり合いですね。

この状況下で、ホラズム王国の第一王子を称するマンスールの出した講和条件は、西夏の税収を担保にした28万両銀、日本円にして20兆円の賠償金の支払いです。もちろん、マンスールの思惑は、この賠償金はホラズムから西夏へ貸付けるつもりですので、まあ今の言葉で言えば、ホラズムによる「債務の罠」ですな。


この多額の賠償金に心が動く千人隊長チャガンなのですが(おそらくその賠償金の一部をネコババするつもりだと思います)、ここに百人隊長が乱入してきて、この交渉もご破産になってしまいます。そして、この百人隊長の正体が、金都・中都大興府で別れ別れになった、ネルグイの親友のバートルです。


さらに、モンゴルを敵視する山民の「ミン」も乱入してきて、バートルへ剣をつきつけるなど大乱闘に発展していきます。


バートルはインナーマッスルのちからを最大限に発揮する「発勁(はっけい)」のワザを繰り出すのですが、山民「ミン」の力のほうが上手です。

さらに、ネルグイの提示した

退かなければ、興慶を流れる黄河の堰を切り、

お前ら全員、沈めてやる・・つったんだ、このハゲ

という対抗策によって、モンゴルはやむなく停戦を了承するのですが、そのあたりは原書で確認してくださいね。


後半部分では、ネルグイの語学習得の秘訣や「ミン」の過去がわかるのですが、あわせてネルグイがこれからのストーリー展開にあたっての重要な決意をみせているのですが、あとは原書のほうでどうぞ。


レビュアーの一言


ネルグイの親友であるバートルは元契丹人で兵に襲われ両親が死んでから、妹と二人で金の開封から中都大興府へたどり着いたのですが、そこで金とモンゴルとの戦争がおき、モンゴル軍の包囲で飢餓状態になった金国の民によって難民だった彼の妹を「食われて」しまったという過去から金国人を憎んでいます。

で、その中都大興府で北から来た奴隷商人に買われていたのが「ネルグイ」という設定です。「ネルグイ」というのは古代モンゴル語で「名無し」という意味で、彼が元の名前を忘れたため、自分で命名したとのことです。ネルグイの出身は明らかになっていないのですが、金国の北方からきた奴隷商人に飼われていたということや、モンゴル語が使えるということで、当方はモンゴル建国の時、初期に併合されたタタル部の出身ではと推測しました。

タタル部の出身であれば、中国の五胡十六国の時代に北方を支配した「突厥」の末裔ですね。

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